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3.「水晶のダンジョン(1)」

「っていうか、よく考えたら、貴方死にそうよね! 誰か! ハイポーションを持ってる人いない? もしくは、最上級回復魔法を使える人!」


 今にも死にそうな僕の為に、立ち上がったカカナが周囲に向かって声を張り上げてくれる。


「……大丈……夫……」

「何もだいじょばないわよ! 貴方、頭と胴体しか残ってないんだから!」


 僕のことをすごく心配してくれる。

 本当に優しくて良い子だ。


「……大丈……夫……ディコセバ……さんが……いる……から……」

「ディコセバ?」


 首を傾げるカカナの背後から、「失礼」と、執事長のディコセバさんが大きい救急箱を持ってやって来た。


「坊ちゃま。治します」


 そう言って、彼が何かを呟いた後。


「ありがとうございます、ディコセバさん!」

「いえいえ、お役に立てたならば何よりです」

「すごいわね!」


 失われていた僕の四肢は、元通りになっていた。

 バッと立ち上がり、両腕と両足が確かにそこにあることを触って確かめる。


「で、あの……お二方、試合の方なんですが……」

「ああ、そうだったわね」


 困惑しながら審判が近付いてくると、カカナが豊かな胸を張って答えた。


「私の負けよ!」


 僕は目を丸くする。


「え!? 良いの!?」

「良いのよ。あんなに必死に友達作ろうとする人、初めて見たわ。貴方の粘り勝ちよ」


 審判が、「勝者! イヴィラ・フォン・バッドネス!」と、高らかに告げる。


「う~~~~~、やったあああああああ!」


 喜びが爆発、僕は飛び跳ねた。


※―※―※


 トーナメント方式なので本来なら二回戦へと進んでまた別の相手と戦うはずだったが、次の対戦相手もその次の相手候補たちも全員棄権してしまった。


「そっか! 僕たちの〝友達っぷり〟があまりにも素敵過ぎて、他の出場者の人たちが『参りました!』って降参したんだ!」

「いやまぁ、確かに、貴方の戦いぶりを見ていたら『参りました!』とは言いたくなるかもしれないわね」


 アイパッチを付け直した僕は、不戦勝にガッツポーズをする。


「優勝は、イヴィラ・フォン・バッドネス」

「ありがとうございます!」


 そのようにして僕は優勝した。


「おめでとう、イヴィラ」

「坊ちゃま、おめでとうございます」

「よくやった」

「ありがとうございます!」


 カカナ、ディコセバさん、それに父も祝福してくれる。


 みんな、あったかい!

 やっぱり僕は、世界一愛されてる!


※―※―※


 ちなみに、優勝賞金として、僕は金貨百枚を受け取った。


 大体一千万円くらいだ! すごい!


「カカナ、半分こしよ!」

「え? だってそれ、貴方のものよ?」

「ううん、二人のだよ! だって、モンスターを全部倒して観客を守れたのは、カカナのおかげだから!」

「………………」


 ディコセバさんに用意してもらった別の革袋に金貨五十枚を入れて差し出すと、カカナはじっと見詰める。


「……そこまで言うなら、受け取っておくわ。ありがとうね」

「うん、僕の方こそ一緒に戦ってくれてありがとう!」


 僕がにっこりと笑うと、カカナも微笑み返してくれた。


「今度は私が奪ってやるって思ってたけど、分かち合うってのも、案外悪くないわね……」

「え?」

「ううん、何でもないわ」


 彼女の呟きは小さ過ぎて聞こえなかったけど、何だかスッキリしたような表情のカカナは、とっても可愛くて素敵だと思った。


※―※―※


「本当に良かったんですか、私まで乗せて頂いちゃって」

「構わん。貴様は間違いなくイヴィラの好敵手だったからな」

「そう仰って頂けると嬉しいです! ありがとうございます!」


 どうやらカカナは、バッドネス公爵領で一番大きく、僕たちが住む街であるアスバドの住民だったらしく、御者台でディコセバさんが手綱を握る馬車に乗ってもらって、一緒に帰ることにした。


「イヴィラ。貴方は夢とか目標ってあるの? 私は、この世から全ての悪を排除することよ」


 一時間ほどして、腕を組んだ父が目を閉じて眠ってしまったのを確認した後、隣に座るカカナが僕の耳元で囁くと、くすぐったくて、甘い香りがした。


「全ての悪を排除! すごい! 格好良い!」

「うふふ。ありがとう」


 柔らかく微笑むカカナ。


「イヴィラは?」

「えっとね、僕の夢は、友達をたくさん作ること!」

「とっても素敵な夢ね」


 素敵って言ってもらえた!

 すごく嬉しい!


「あのね、イヴィラ。良かったら、私みたいに冒険者になって、一緒に冒険者パーティを組まない?」

「冒険者?」

「そう。貴方の固有スキルを存分に活用出来るし、きっと仲間が――〝掛け替えのない友達〟が出来るわよ」


 〝掛け替えのない友達〟!

 良い! すごく良い!


「僕、冒険者になる! カカナと冒険者パーティを組む!」

「うふふ。じゃあ、決まりね。アスバドに戻ったら、一緒に冒険者ギルドに行きましょう」

「うん!」


 冒険!

 すごくワクワクする!

 楽しみだなぁ!


※―※―※


 アスバドに戻った翌日。


 僕の家まで迎えに来てくれたカカナと、本当はすぐにでも一緒に冒険者ギルドに行きたかったんだけど、グッと堪えて、トレーニングをすることにした。


「真面目なのね。今のままでも十分強いと思うんだけど」

「ありがとう! でも、僕は自分の大切な人をもっとちゃんと守れるだけの力が欲しいんだ! 友達を増やすためにも、もっと強くなきゃいけないし!」


 広大な敷地内にある僕専用のトレーニングエリアで、対峙するカカナに僕は想いを告げる。


 剣魔大会での反省を活かして、もっと強くなるんだ!


※―※―※


 その後、カカナに協力してもらって、僕は固有スキル〝キルアイズ〟を更に磨いた。


 あ、そうそう。

 カカナは、僕みたいに現代日本からの異世界転生者だった!


 僕と同じで十五歳みたいだし、同郷の人とこうやって出会って友達になれただなんて、何だか運命みたいで、嬉しいなぁ!


※―※―※


 一ヶ月後。


「やった! これで僕も冒険者だ!」

「くすっ。おめでとう、イヴィラ」


 冒険者ギルドに行った僕は、ついに冒険者登録することが出来た。

 新品の冒険者カードを見ていると、自然と気分が高揚してくる。


「ぐへへ」

「がはは」


 声に反応して目を向けると、ギルド内に併設されている酒場に、すごく強そうな人たちがいて、こんな朝からお酒を飲んでる。


 僕らの冒険者パーティに入ってくれたりしないかな?


「えっと、すみません。僕らは今、パーティメンバーを募集しているんですが」


 彼らの内の誰かが入ってくれたら嬉しいなと思って、僕がテーブルに近付き、声を掛けようとすると。


「ハッ! そのアイパッチに年齢以上の童顔、聞いてた通りだね!」


 銀色のフルプレートアーマーを装備した女性が僕の目の前に現れた。


 アーメットで顔が隠れているため、声から若い女性ということしか分からないが、長身の彼女は、軽々と巨大な剣を担いでいる。


「リンジー。貴方、待ち伏せしてたのね」

「ハッ! 興味を持ってから一ヶ月もお預けを食らってたんだ。そりゃ待ち伏せくらいするだろうさ」


 どうやら、カカナは知り合いらしい。


 リンジーさんは、僕の肩にガントレットで覆われた手を回すと、兜で覆われた顔を近付けた。

 鎧の中から、カカナとはまた別の甘い香りがする。


「イヴィラ――いや、イヴィ。あたいが加入してやるよ、あんたの冒険者パーティに」

「本当!? やったああああ!」


 向こうから仲間になってくれるだなんて!

 やっぱり僕は、世界一愛されている!


※―※―※


「リンジーさん、僕と友達になって!」

「ハッ! じゃあ、あたいの指定するダンジョンを一緒に攻略するんだね。そうしたら考えてやるよ」


 ということで、リンジーさんと友達になるために、僕は三人で〝水晶のダンジョン〟に行くことになった。


※―※―※


 馬車を借りて、僕らはアスバドの南方へと向かう。


「はい、イヴィラ。あ~ん」

「ありがとう! もぐもぐ」

「ハッ! イヴィ。こっちもだ、あ~ん」

「うん、ありがとう! もぐもぐ」


 旅路の途中、カカナとリンジーさんの二人に挟まれる形で、二人乗りの御者台に何故か三人無理矢理ぎゅうぎゅうに座っている最中、これまた何故かアスバドの屋台で買っておいた干し肉を二人からあ~んされた。


 特にリンジーさんなんてフルプレートアーマーだから、余計にぎゅうぎゅうだし、そもそも何で車体の中ではなくて御者台にみんなで座ってるのかよく分からないけど、二人が僕と仲良くしてくれて嬉しい!


 この調子で、頑張ってリンジーさんと友達になるんだ!


※―※―※


 一時間後。


 僕たちは目的地に到着した。


「案外普通なんだね」

「ほんとね」

「ハッ! まぁ、勘違いしても仕方ないさ」


 その名前から、水晶だらけのダンジョンかと思いきや、内壁がゴツゴツとした岩で出来た普通のダンジョンだった。


 壁には等間隔で松明が備え付けられていて、ダンジョン内を照らしている。


「全然モンスターが出ないね。ダンジョンってこんな感じなの?」

「いえ、有り得ないわ。ここはB級って話だったけど、それならB級を主とするモンスターたちがもっと出るはずなのよ。普通は。こんなダンジョン初めてよ」


 カカナはここに来たことがないみたいだ。


 あ、もしかしたら、彼女は滅茶苦茶強いから、一気にA級に、更にはS級になっちゃって、B級ダンジョンはそんなにたくさん行ってないとかなのかなぁ。


「こっちさ」


 対照的に、どこか慣れた様子のリンジーさんは、大剣を持っていない方の左手でランプを手に、十字路やT字路を迷いなく先導していく。


「ハッ! アレがこのダンジョンの名前の由来さ」


 突如広場に出たと思ったら、最奥に祭壇があり、その上に水晶が乗っていた。


「カカナ。アレに触ってくれるかい?」

「え? 私? 何で?」

「別にイヴィにやらせても良いんだけどね」

「何でちょっと脅しっぽくなってんのよ!? 良いわよ、触ればいいんでしょ、触れば!」


 何故か東側通路の近くに佇むリンジーさんの言葉に、少し投げ遣りにそう反応したカカナが水晶に触れた直後。


「「「「「グモオオオォッ!」」」」」

「「「「「ギイイイイィッ!」」」」」

「「「「「プギイイイィッ!」」」」」

「「!」」


 ミノタウロス、ゴブリン、オークの大群が東西南北の通路から広場へとなだれ込んできた。


「リンジーさん、危な――え?」


 どういう訳か、通路の傍にいたリンジーさんには見向きもせずに、こちらに――否、カカナに向かって突進してくる。


「『アイシクルレイン』!」

「「「「「グモォッ!?」」」」」


 カカナが虚空に生み出した幾多の氷柱で西側のミノタウロスの一団――十匹を全員仕留める。


 剣魔大会の時よりも氷柱の数が増えてる!

 すごい!


「〝キルアイズ〟!」

「「「「「プギィッ!?」」」」」


 負けじと僕はアイパッチを外して、オーク五匹を倒した。


 剣魔大会の時にたくさんのワイバーンと、更にはドラゴンまでも倒してかなりの経験値を得たので、レベルアップしたのだ。


 従来は両目を合わせないといけなかったのが、今では、五匹に対して〝えいっ!〟って殺意を向けることで、同時に討伐することが出来るようになった。


「『アイシクルレイン』! ……いくらなんでも数が多過ぎるわ!」


 倒しても倒しても、四ヶ所の通路から絶え間なく侵入し続けてくるモンスターによって、少しずつ包囲網を狭められていく。


 このままじゃヤバい!

 

 焦燥感に駆られた直後。


「ハッ! あんたらの相手はあたいだよ、モンスターども!」


 いつの間にかモンスターの間を縫って移動していたらしいリンジーさんが水晶に触れると。


「「「「「! グモオオオォッ!」」」」」

「「「「「! ギイイイイィッ!」」」」」

「「「「「! プギイイイィッ!」」」」」

「「!?」」


 目を血走らせ涎を垂らしながらカカナに迫っていたモンスターたちが、一斉にリンジーさんの方を向く。


「ハッ! 上等さ! おらああああ!」

「「「「「グモォッ!?」」」」」

「「「「「ギィッ!?」」」」」

「「「「「プギィッ!?」」」」」


 リンジーさんが上段から大剣を一閃、地面に大穴を開けながら大勢のモンスターを吹っ飛ばす。


 今度はまるで見えていないかのようにカカナと僕を無視するモンスターたちを倒してはまた新たなモンスターが出現、ということを幾度も繰り返し、三人で力を合わせて何とか全て倒しきった。


※―※―※


「ハッ! これがこのダンジョンの面白いところさ。何もしなければモンスターが一匹も出ない代わりに、ダンジョン攻略しようと思ったら、全ての水晶に触れる必要があるのさ」


 システムは何となく分かった。


 冒険者の誰かが水晶を触ると、何かしらのトラップが起動、触れた本人に対して襲い掛かるが、仲間が触れると、トラップのターゲットが変わるのだ。


「中々にエグいダンジョンね……」


 世界から悪を駆逐する夢を持つカカナでさえげんなりとした表情を浮かべるほどに、先程のトラップは激しかった。


 まぁ、触らなければ良いだけなんだけど、ご丁寧に祭壇まで用意してこれ見よがしに水晶を置かれちゃ、触りたくなるし、何よりダンジョンをちゃんと攻略したいよね!


※―※―※


 それからも何度か、別の水晶がある広場に辿り着き、その度に、モンスターが現れたので、殲滅した。


 が、十個目にもなると、モンスターを使い切ったのか、毛色が変わってきた。

 

 水晶を触った者の下の部分だけ穴が開いて落ちそうになったり、天井から岩が落ちてきたり、壁から矢が飛んできたりした。


 下手したら普通に死んでしまうトラップだが、そこはS級冒険者二人がいる超上澄みのパーティ、超絶剣技と魔法で問題なく対処した。


※―※―※


 流石に疲労が溜まってきたため、少し休憩して、干し肉を食べて革袋に入った水を飲んだ後。


「また水晶だ!」

「そろそろ食傷気味ね……」


 また違う広場に辿り着いた。

 もう何度目だろうか、最奥にはやはり祭壇に乗った水晶がある。


「どうにかトラップの内容を把握する術は無いのかしら? 何とか前もって調べることさえ出来れば、対処が楽に――」

「ハッ! うだうだ考えるのは性に合わなくてね」

「言ってる傍から何触ってんのよ!」


 リンジーさんが躊躇なく水晶に触ると。


「わっ!?」

 

 彼女の着ていたフルプレートアーマーを構成する全てのパーツが一斉に外れて、下着すらも脱げて裸になってしまい、僕は思わず目を逸らした。


「大多数の冒険者にとって、この水晶のトラップは〝当たり〟さ。実害がほぼ無いからね」


「でも」と、リンジーさんは怪しげな笑みを浮かべる。


「あたいが水晶に触れた瞬間、このトラップは全く違う意味を持つのさ」


 リンジーさんの凛とした声がダンジョンに響く。


「見なよ、イヴィ。これでも〝友達〟になりたいと思うかい?」

「え!?」


 異様な雰囲気を感じた僕が、リンジーさんを見ると。


「!?」


 そこには、赤髪ショートヘアの褐色美少女が――〝血塗れ〟のリンジーさんがいた。


 更に、その身体は紫色の靄のようなもので覆われており――

 ――否、身体〝から〟紫の靄が噴出している。


「リンジー、貴方……その姿は一体……!?」


 どうやら、カカナも知らなかったらしい。


「ハッ! これがあたいだ。生まれた時からずっとこんな感じさ。一種の呪いでね。毒に侵されているのさ。普段は鎧で抑え込んでいるんだけどね、脱ぐと、この通り……がはっ!」

「リンジーさん!」


 吐血する彼女に近寄ろうとすると、彼女が手で制する。


「……とまぁ、活性化してね。このままだと、あたいは直に死ぬ」

「死!? じゃあ、早く鎧を――」

「いや、一度この状態になったら、もう手遅れなのさ。鎧を装備し直しても、死ぬ定めは変わらない」

「そんな!? じゃ、じゃあ水晶は!? 僕が水晶に触っても意味ないの!?」

「そうさね。あんたが裸になるだけで、あたいは死ぬ」

「!」


 僕が愕然とすると、「一つだけあたいが助かる方法がある」と、リンジーさんが指を立てる。


「あんたがあたいの肌に触れることだ」

「!?」

「そうすれば、あたいから毒の呪いがあんたに移るからね。ただし、今よりも更に強化された毒を食らうことになるから、あんたは確実に死ぬ。さぁ、どうする?」


リンジーさんが口角を上げた。

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