16.「魔導具屋にて」
「イヴィラ、どういうこと!? シルディが勇者の母親だなんて」
「ただ、何となく直感でそう思ったんだ」
困惑するカカナに続き、リンジーさんとスプリちゃんも反応する。
「ハッ! 聖剣を欲したのも勇者の身を案じたからってか? で、あたいらから聖剣を買い取って、冒険者の知り合いにでも頼んで、聖剣獲得に苦戦する勇者に渡してもらおうという思惑があったって? まぁ、言われてみたら、目元がちょいと似てるっちゃ似てるけどね。でも、それはちょいと無理があるってもんさ」
「若過ぎるの! どう見てもエルフでもなくただの人間だから、無理なの!」
確かに二人の言う通りだ。
でも、何故だろう?
そんな気がするんだよね。
「……な、何を言ってるのさ~? うちは見ての通り~、ピチピチの十代だから~、十代の勇者を産むなんて~、無理に決まってるだろ~?」
やっぱり!
目を逸らしたシルディを見て確信した僕は、店の外に出た。
「勇者さん! ちょっと店内に来てください!」
いつも通り、推しの勇者さんと何かしらのやり取りをして気絶したらしいソクティちゃんを背負った勇者さんが、「おう、何だ何だ? まぁ良いけどよ」と、店の中に入ってくれた。
「!」
勇者さんの姿を見て、カウンターのシルディが息を呑む。
「勇者さん! 実は、あそこにいる店長のシルディは、勇者さんのお母さ――」
「ちょっと待って、イヴィラ!」
意気揚々と紹介しようとする僕を、横からカカナが止めた。
「貴方、忘れたの? 二人はお互いを探すことを国から禁じられてるのよ? 堂々と紹介なんかしたのがバレたら、二人が国から罰を受けるかもしれないでしょ?」
「!」
しまった! 忘れてた!
耳元で教えてくれたカカナに感謝しつつ、僕は「コホン」と仕切り直した。
「えっと、勇者さん! あそこにいる店長のシルディは、勇者さんのお母さんじゃないですから! 全然違いますから! 絶対に勇者さんのお母さんじゃないですから!」
「だから誤魔化すの下手過ぎよ!」
一生懸命軌道修正したのに、何故かカカナに激しく突っ込まれる。
「マジかよ……そもそも年齢が……いや、でも……なんか、そういうのを超越した〝何か〟……感じるもんがあるな……マジっぽいな……」
「………………」
シルディは、ただただ黙っている。
呆然と呟いた勇者さんは、「でもまぁ、どっちにしろ、国の決めた〝ルール〟ってのがあるから、今このタイミングじゃマズいのか……」と続けると、胸を張って叫んだ。
「これは俺様の独り言だ! 俺様は、いつか母親に会ったら、こう言ってやろうと思ってる! 『あんたは何も悪くない』って。『悪いのは俺様たちを引き離した国のお偉いさん方だ! あのカスどもだ! だから、何も気にするな!』って」
「!」
口元を押さえたシルディの瞳が潤む。
「俺様の独り言、以上!」
そう言って踵を返す勇者さんの背中に、シルディがポツリと言葉を投げ掛ける。
「……素敵な独り言だね~。それじゃあ~、うちも独り言~」
勇者さんの足が止まる。
「うちはいくつか趣味があって~。一つは趣味と実益を兼ねた魔導具~。で~、もう一つが~、若作り~」
「!」
シルディが髪に突き刺さったヘンテコな魔導具の一つに触れて、カチッとスイッチらしきものを押すと。
「!」
背後を一瞥した勇者さんが、思わず目を剥く。
どうやら〝変身魔法〟の効果を持つものだったらしく、光に包まれたシルディの姿が、少女から中年女性へと変化した。
「忘れもんだよ~、勇者の少年~」
カウンターの外に出てきたシルディが、先程よりも少し低くなった声で語り掛け、勇者さんに聖剣を渡す。
左手で背中のソクティちゃんの身体を支えつつ、右手で受け取った勇者さんは、「……そうだな。もう少しだけ独り言しておくか」と言うと、言葉を継いだ。
「俺様は、必ず魔王を討伐する! そして、またここに戻ってくる! 何故か分からないが、ここに来れば、お袋に会える気がするからな。どこにいるか知らんが、お袋! それまで元気でいろよ!」
「!」
「……じゃあな」と小さく呟きながら、勇者さんは店外に出て行った。
「……あんなに~……大きく~……立派になって~……ううっ……」
膝をついたシルディの嗚咽が、店内に響いた。
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