表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/13

13.「聖山に挑む勇者(2)」

「た、助けなきゃ!」


 あの落下の仕方と音からすると、きっと首の骨が折れてる! 


 高所から地面に落下した勇者さんに、慌てて馬車から降りた僕が駆け寄ろうとすると。


 バッ


「!?」


 倒れていた勇者さんが、勢いよく飛び起きる。


 えっ!?

 でもさっき、確かに首の骨が折れたような音が……


 はっ!

 もしかして、喧嘩の前とかに自分で首を左右に動かしてポキポキ鳴らす、あれみたいな感じだったってことぉ!?


「まだまだあああああああ!」

「!」


 どれだけ頑強な身体をしているのか、跳躍した彼は上空に舞い上がり、再度ゴーレムに斬り掛かった。


「がはっ!」


 が、またしても斬撃の軌道が不自然にずらされて、ゴーレムには掠りもせず、勇者さんは岩拳を食らって吹っ飛んでしまう。


「くそっ! あと少しなんだ! あと少しで当たるはずなんだ!」


 悲痛な声を上げる勇者さんに、僕は居ても立っても居られなくなって、一歩踏み出すと、叫んでいた。


「勇者さん! 僕はイヴィラって言います! 勇者さんの攻撃が当たらないのは〝呪い〟のせいなんです! 僕だったらその呪いを解くことが出来ます! 解呪しても良いですか?」

「!」


 勇者さんはチラリと背後の僕を一瞥する。


「ありがとな! でも、やめてくれ」

「! どうしてですか?」


 勇者さんは、再度「ごぶはっ!」と吹っ飛ばされた後、今度は空中で一回転、着地しながら答えた。


「俺様は勇者だからだ!」

「!」

「勇者ってのは、誰の力も借りずに魔王を討伐するもんなんだろ? 国のお偉いさん方が言ってやがった。だから、生まれたばかりの俺様を、母親から引き離したんだ」

「………………」


 ゴーレムに挑み続ける勇者さんの顔が歪む。


「俺様の母親は、最後まで抵抗したらしい。『子どもには親の愛情が必要だ』と。『むしろ親の愛があるから強くなれるのだ』と。そして、『どうかこの子の傍にいさせて欲しい』と」


 勇者さんは、吐き捨てるように続けた。


「だが、アイツらは母親の懇願を却下した。『魔王を討伐すれば、互いにまた会えるし、一緒に暮らせる』と。母親はただ項垂れ、泣きながら俺様に謝罪していたらしい。ごめんなさいと、何度も」


 世界を救う責務をその双肩に負った少年は、奥歯を噛み締める。


「ああ、良いさ! だったら、望み通り、俺様は自分だけの力で、魔王を討伐してやる! そして、母親に会って、言ってやるんだ。『あんたは何も悪くない』って。『悪いのはアイツらだ。あのカスどもだ。だから、何も気にするな』って。そのためには、まずは目の前のコイツを俺様だけの力でぶっ倒して、聖剣を手に入れる必要があるんだよ!」


 勇者さん、すごい!

 自分を捨てたじゃないかって、母親のことを恨んでもおかしくないのに!

 

 勇者さんは、強いだけじゃなくて、すごく優しい!


 僕が黙っていると、勇者さんは「心配すんな」と、笑みを見せる。


「恐らくてめぇが心配してるのは、俺様が何度も吹っ飛ばされてるからだろ? あんなん何の問題もねぇんだよ。ゴーレムのショボい攻撃如きじゃ、俺様にダメージを与えることは出来ねぇ。魔王を倒すために、身体は死ぬほど鍛えたからな。あと剣技も。当たりさえすれば、ゴーレムだろうが何だろうが、俺様に倒せねぇもんはねぇのさ!」


 ベテラン冒険者でも一筋縄ではいかないゴーレムの攻撃を受けてるのに、すごい!


 その言葉通り、幾度殴られようが、勇者さんはピンピンしていた。


「ぐはっ!」


 何度殴打されようが。


「がはっ!」


 何度宙を舞おうが。


「ぐぁっ!」


 何度地面に叩き付けられようが。


 肉体のダメージは無い……かもしれないけど……

 でも……!


「当たれ! 当たれよ! 何で当たらないんだよ!」


 〝心〟は無傷ではいられない。


 悲痛な表情がそれを物語っている。


 今まで、何回も、何十回も、何百回も挑み続けて、ただの一度も攻撃が当たったことが無いのだ。


 普通だったら、とっくに心が折れていてもおかしくない。


「勇者さん……」


 見ているだけで辛い。

 それに……一刻も早く、勇者さんにはお母さんと会って欲しい!


 勇者さん……ごめんなさい!


 僕が〝その行動〟を取った直後。

 

 ザシュッ


「…………………………へ?」


 当たった。


 勇者さんの長剣による斬撃が、初めてゴーレムを捉えた。


「ゴオ……オオ……オ……」


 ズーン


 左右に一刀両断され、轟音と共に倒れるゴーレム。


「やった……のか……?」


 信じられないように、自分の手中にある得物とゴーレムの死体を見比べる勇者さん。


「やった……やった……! やったんだ! ついに! ついに俺様は、ゴーレムを倒したんだ! うおおおおおおお!」


 天を仰ぎ両拳を振り上げ咆哮を上げた勇者さんは、だが――


「…………てめぇ、俺様の呪いを解きやがったな?」

「!」


 僕を睨み付けて、ズンズンと近付いてきた。


「ご、ごめんなさ――」

「何でだ! 何で解呪した!? 俺様は、自分だけの力で倒さなきゃいけなかったのに! 俺様から母親を引き離したクズどもに、俺様の力を見せ付けなきゃいけなかったのに!」


 僕の胸倉を掴んで勇者さんが叫ぶ。


「何でだ! 何でだよ!? 何で――」


 勇者さんの言葉が、徐々に小さくなっていって――


「何で嬉しいんだよ、俺様は……? ゴーレムを倒せたのは、俺様の力じゃないのに……解呪されたからなのに……なのに、何でこんなに、喜んじまってるんだよ、俺様は……? 何で……何でだよ……?」


 ――ズルズルと膝をつくと、雫が地面に落ちた。

お読みいただきありがとうございます!

もし宜しければ、ブックマークと星による評価で応援して頂けましたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ