13.「聖山に挑む勇者(2)」
「た、助けなきゃ!」
あの落下の仕方と音からすると、きっと首の骨が折れてる!
高所から地面に落下した勇者さんに、慌てて馬車から降りた僕が駆け寄ろうとすると。
バッ
「!?」
倒れていた勇者さんが、勢いよく飛び起きる。
えっ!?
でもさっき、確かに首の骨が折れたような音が……
はっ!
もしかして、喧嘩の前とかに自分で首を左右に動かしてポキポキ鳴らす、あれみたいな感じだったってことぉ!?
「まだまだあああああああ!」
「!」
どれだけ頑強な身体をしているのか、跳躍した彼は上空に舞い上がり、再度ゴーレムに斬り掛かった。
「がはっ!」
が、またしても斬撃の軌道が不自然にずらされて、ゴーレムには掠りもせず、勇者さんは岩拳を食らって吹っ飛んでしまう。
「くそっ! あと少しなんだ! あと少しで当たるはずなんだ!」
悲痛な声を上げる勇者さんに、僕は居ても立っても居られなくなって、一歩踏み出すと、叫んでいた。
「勇者さん! 僕はイヴィラって言います! 勇者さんの攻撃が当たらないのは〝呪い〟のせいなんです! 僕だったらその呪いを解くことが出来ます! 解呪しても良いですか?」
「!」
勇者さんはチラリと背後の僕を一瞥する。
「ありがとな! でも、やめてくれ」
「! どうしてですか?」
勇者さんは、再度「ごぶはっ!」と吹っ飛ばされた後、今度は空中で一回転、着地しながら答えた。
「俺様は勇者だからだ!」
「!」
「勇者ってのは、誰の力も借りずに魔王を討伐するもんなんだろ? 国のお偉いさん方が言ってやがった。だから、生まれたばかりの俺様を、母親から引き離したんだ」
「………………」
ゴーレムに挑み続ける勇者さんの顔が歪む。
「俺様の母親は、最後まで抵抗したらしい。『子どもには親の愛情が必要だ』と。『むしろ親の愛があるから強くなれるのだ』と。そして、『どうかこの子の傍にいさせて欲しい』と」
勇者さんは、吐き捨てるように続けた。
「だが、アイツらは母親の懇願を却下した。『魔王を討伐すれば、互いにまた会えるし、一緒に暮らせる』と。母親はただ項垂れ、泣きながら俺様に謝罪していたらしい。ごめんなさいと、何度も」
世界を救う責務をその双肩に負った少年は、奥歯を噛み締める。
「ああ、良いさ! だったら、望み通り、俺様は自分だけの力で、魔王を討伐してやる! そして、母親に会って、言ってやるんだ。『あんたは何も悪くない』って。『悪いのはアイツらだ。あのカスどもだ。だから、何も気にするな』って。そのためには、まずは目の前のコイツを俺様だけの力でぶっ倒して、聖剣を手に入れる必要があるんだよ!」
勇者さん、すごい!
自分を捨てたじゃないかって、母親のことを恨んでもおかしくないのに!
勇者さんは、強いだけじゃなくて、すごく優しい!
僕が黙っていると、勇者さんは「心配すんな」と、笑みを見せる。
「恐らくてめぇが心配してるのは、俺様が何度も吹っ飛ばされてるからだろ? あんなん何の問題もねぇんだよ。ゴーレムのショボい攻撃如きじゃ、俺様にダメージを与えることは出来ねぇ。魔王を倒すために、身体は死ぬほど鍛えたからな。あと剣技も。当たりさえすれば、ゴーレムだろうが何だろうが、俺様に倒せねぇもんはねぇのさ!」
ベテラン冒険者でも一筋縄ではいかないゴーレムの攻撃を受けてるのに、すごい!
その言葉通り、幾度殴られようが、勇者さんはピンピンしていた。
「ぐはっ!」
何度殴打されようが。
「がはっ!」
何度宙を舞おうが。
「ぐぁっ!」
何度地面に叩き付けられようが。
肉体のダメージは無い……かもしれないけど……
でも……!
「当たれ! 当たれよ! 何で当たらないんだよ!」
〝心〟は無傷ではいられない。
悲痛な表情がそれを物語っている。
今まで、何回も、何十回も、何百回も挑み続けて、ただの一度も攻撃が当たったことが無いのだ。
普通だったら、とっくに心が折れていてもおかしくない。
「勇者さん……」
見ているだけで辛い。
それに……一刻も早く、勇者さんにはお母さんと会って欲しい!
勇者さん……ごめんなさい!
僕が〝その行動〟を取った直後。
ザシュッ
「…………………………へ?」
当たった。
勇者さんの長剣による斬撃が、初めてゴーレムを捉えた。
「ゴオ……オオ……オ……」
ズーン
左右に一刀両断され、轟音と共に倒れるゴーレム。
「やった……のか……?」
信じられないように、自分の手中にある得物とゴーレムの死体を見比べる勇者さん。
「やった……やった……! やったんだ! ついに! ついに俺様は、ゴーレムを倒したんだ! うおおおおおおお!」
天を仰ぎ両拳を振り上げ咆哮を上げた勇者さんは、だが――
「…………てめぇ、俺様の呪いを解きやがったな?」
「!」
僕を睨み付けて、ズンズンと近付いてきた。
「ご、ごめんなさ――」
「何でだ! 何で解呪した!? 俺様は、自分だけの力で倒さなきゃいけなかったのに! 俺様から母親を引き離したクズどもに、俺様の力を見せ付けなきゃいけなかったのに!」
僕の胸倉を掴んで勇者さんが叫ぶ。
「何でだ! 何でだよ!? 何で――」
勇者さんの言葉が、徐々に小さくなっていって――
「何で嬉しいんだよ、俺様は……? ゴーレムを倒せたのは、俺様の力じゃないのに……解呪されたからなのに……なのに、何でこんなに、喜んじまってるんだよ、俺様は……? 何で……何でだよ……?」
――ズルズルと膝をつくと、雫が地面に落ちた。
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