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11.「迷子の幼女ソクティ(2)」

 ソクティちゃん、辛そうな顔してた! 助けなきゃ!


「カカナ!」

「分かってるわ! 『アイシクル』!」


 カカナが崖に向かって細長い氷柱を二本撃ち込み、突き刺さったそれらにリンジーさんとスプリちゃんが捕まり、彼女たちが伸ばした手を僕とカカナがそれぞれ掴む。


「ハッ! 先に行きな!」

「なんでスプリがカカナの方なの!?」


 二人がブンッと上に放り投げると、僕らは森の中に舞い戻った。


「ハッ! あたいらも!」

「スプリもイヴィ君と手を繋ぎたかったの!」


 クルンと氷柱周りを一回転した彼女たちもまた、上向きになった瞬間に手を放し、上空へと飛ぶ。


「ハッ! よくも殺そうとしてくれたね! おらああああ!」

「イヴィ君の命を狙うとか、万死に値するの!」

「悪いけど、貴方を排除させてもらうわ!」


 リンジーさんが落下しつつ背中の大剣を抜き上段に構え、スプリちゃんが拳を握り締め、カカナは頭上に複数の氷柱を生み出して、それぞれソクティちゃんに狙いをつける。


「………………」


 迫り来るS級少女三人の同時攻撃に対して、ソクティちゃんは微動だにしない。


「みんな、待って!」

「「「!?」」」


 僕が叫ぶと、ソクティちゃんに当たる寸前で、大剣・拳・氷柱がそれぞれ止まった。三人が振り返って僕の顔を見る。


「何のつもりです? ソクティはあんたたちを殺そうとしたです。攻撃を止める意味が分からないです」


 死に対する恐怖が無いのか、その淡々とした言動は、とても五歳の幼女とは思えない。


「ソクティちゃんが辛そうだったから」

「辛そう? ソクティは怒ってるだけです。この世の誰よりも、何よりも尊い存在である勇者さまの邪魔をする者に対して」

「せっかく頑張ってる勇者さんの邪魔をする人がいるんだね! 安心して! もうこれからは、そんな暴挙は僕が許さないから!」

「は? 何言ってるです? 邪魔をしてるのはあんたたち――」

「僕が勇者さんの呪いを解くから!」

「!?」


 ソクティちゃんが目を見開く。


「う……嘘です! 呪いを解くだなんて、そんなの、高位の神官や呪術魔法に特化したS級魔法使いでもないと――」


 と、そこに、カカナたちが横から口を挟む。


「信じられないかもしれないけど、本当よ」

「ハッ! 他ならぬあたい自身が〝毒の呪い〟を解呪してもらったからね」

「スプリも〝眠りの呪い〟を解いてもらったの! イヴィ君はスプリの王子さまなの!」


 「で、でも、勇者さまの呪いは特別かもしれないです! 解けないかも――」と、半信半疑のソクティちゃんの眼前に屈んだ僕は、彼女の両手を握る。


「信じて! 僕が絶対に勇者さんの呪いを解いてみせるから! だって、これは女神さまから貰った固有スキルだから! 絶対に解呪出来るから!」

「!」


 ソクティちゃんの瞳が揺れる。


「ほ、本当です?」

「うん、本当だよ!」

「………………」


 突然ソクティちゃんが僕にしがみついた。


「お願いです! どうか! どうか勇者さまを救って欲しいです!」

「分かった!」


 僕は、にっこり笑った。


※―※―※


「騙し討ちするような真似をして本当に申し訳なかったです」


 深々と頭を下げるソクティちゃん。

 ちなみに、先程は、隠し持っていた爆弾型魔導具で崖を爆破したらしい。


「ううん、気にしないで。それくらいソクティちゃんにとって、勇者さんが大切ってことだから」

「……そう言ってもらえると救われるです……」


 ソクティちゃんは、「実はソクティは異世界転生者です」と言うと、これまでの経緯を語り始めた。


※―※―※


 ソクティちゃんは、現代日本に生まれた〝ごく普通〟の女の子だった。


 ただ一つ――


「キャハハハ! 何その点数? またビリじゃん!」

「本当だ! キャハハハ! 笑っちゃうくらい運動音痴なのに勉強も出来ないって、終わってんね、この〝ポンコツ〟!」

 

 ――〝何をやっても上手くいかない〟という点を除いて。


「世の中は不公平です……生まれつき運動神経が良い子や勉強ができる子がいる一方で、自分みたいな落ちこぼれがいるなんて……」


 クラスメイトから揶揄される毎日を何とか必死に耐えて中学に入学すると、ぶつけられる言葉は余計に酷くなり、人格否定を含む、明らかな誹謗中傷へと変わった。


「……自分のせいじゃないです……生まれつき才能が無かっただけです……たまたま運が悪かっただけです……」


 鬱々とした日々を過ごす中で、漫画やアニメやゲームをやって現実逃避をする日々の中で。


 ある日、〝彼〟と出会った。


「全く攻撃が当たらない勇者……?」


 それが勇者だった。


 ゲーム〝ムンド・ディベルティード〟において、プレイヤーは操作するキャラクターを冒険者たちの中から選ぶのだが、その中に勇者はいない。


 勇者は、〝いつ聖山に行っても必ずいて、聖剣を得るために挑戦を続け、しかし絶対に達成出来ない〟という、モブキャラに毛が生えた程度の扱いで、賛否両論を巻き起こした。


「見てられないです……どうせ頑張っても無駄なのに……」


 どれだけ努力を積み重ねても、決して報われない。

 ユーザーたちからは〝ネタキャラ〟〝お笑い担当〟などと揶揄われる。


 そんな勇者を直視出来なかった。

 まるで自分自身を見ているようだったから。


 でも。


「……何でそんなに必死に挑戦し続けられるんです?」


 いつしか、そんな彼を見る度に、心が揺さぶられるようになった。


「くっ! まだまだあああああ! 俺様は勇者だ! 負けて堪るかあああああ!」


 聖山を守る敵に何度吹っ飛ばされても、決して折れず、挫けず、諦めない。

 泥だらけになりながらも立ち上がり挑み続けるその姿に、胸が熱くなった。


「もう少し! きっともう少しです! 頑張るです! お願い……頑張って!」


 ただのゲームなのに、本気で彼を応援していた。


 彼へエールを送り始めてから、不思議なことが起こった。


「自分も、ちょっとだけ頑張ってみるです! 勇者さまのように!」


 とっくの昔に諦めていた〝自分自身の人生〟を、少し頑張ってみようと思えたのだ。


 その結果。


「え? 本当です……? 自分が……合格……したです!」


 中学校の先生たちからは「お前の頭じゃ底辺校しか行けない」と言われていたのに、平均レベルの偏差値の高校に合格出来たのだ。


「絶対無理だって言われてたのに! 出来たです! 〝ポンコツ〟の自分だって、やれば出来るです!」


 頬を涙が伝う。

 生まれて初めて自信を持てた出来事だった。


 その後、高校でも必死に勉強した。

 

「やった! やったです!」


 三年後、地元の難関大学の合格をもぎ取った。

 自分は完全に生まれ変わったと実感した。


「勇者さまのおかげです!」


 ゲーム内の彼は、相も変わらず聖山に挑戦し続けていた。


「お返しがしたいですが、一体どうすれば……」


 相手はゲームの中の住人だ。

 お返しどころか、会うことすら出来ない。

 もどかしかった。


 そんなある日。


 キキーッ

 ドンッ


「――――ッ!」


 交通事故に遭って、呆気なく死んでしまった。


 最悪だと思った。

 せっかく変わることが出来て、人生これからだと思っていたのに。


 でも。


「異世界転生、です!? しかも、 ゲーム〝ムンド・ディベルティード〟の世界に!?」


 女神にそう告げられた後。


「ひゃっほーーーーーーい!」


 嬉し過ぎて奇声を発しながら小躍りしてしまった。


「スキルや魔法などの希望です? 勿論、勇者さまの攻撃がちゃんと敵に当たるようにしたいです! だから、そういう能力が欲しいです!」


 これで勇者さまを助けられる! お返しが出来る!


 そう思ったのだが、現実は甘くなかった。


「え? 特定の個人に対して直接影響を与えるような能力は駄目です?」


 それならばと、デバフを解除するスキルや解呪魔法を所望したが、駄目だった。勇者のためであることが明らかだったからだ。


 ……失敗したです。

 そう思ったが、仕方が無いので、せめて近くで見守りたいと思って、違う希望を伝えた。


「じゃあ、〝異世界のどこにいても勇者さまの居場所を感知する固有スキル〟が欲しいです!」


 女神はあからさまにドン引きしながら、それも無理だと伝えてきた。


 これもまた、あまりにも特定の個人に関係し過ぎており、尚且つ大きな影響を与える可能性があるためだから、と。


「まさかこれも駄目とは想定外です。じゃあ、仕方が無いから――」


 そう言って結局手に入れた固有スキルは、以下のようなものだった。


 ~異世界の誰かが〝勇者〟という単語を口に出す、もしくは手紙などに〝勇者〟と書くと、それを感知してその場所を知ることが出来る~


 と同時に、希望を言えと言いながらそれまで全て却下していたため、女神は多少後ろめたかったのか、もう一つ〝とある能力〟を与えた。


 そんな経緯で異世界転生した彼女は、それから一年間の間ずっと、勇者さんのことを陰から見守り続けてきたらしい。


※―※―※


「あ、そっか! 僕たちがススザ村で勇者さんの話を村長さんとしたから、それを感知して僕たちに会いに来たんだね!」

「そういうことです」


 話を聞き終わって、僕はいくつかのことに気付いた。


「それと、大学生――ってことは、年上ですよね? ソクティさん?」

「今更変えなくても良いです。ちゃん、で良いし、ため口で良いです」

「そっか……うん、分かった、ソクティちゃん!」


 「じゃあ、一緒に勇者さんに会いに行こう! みんなもそれで良いかな?」と、僕は仲間たちを振り返る。


「殺され掛けたのに正直甘いなって思うわ。でも、それもまた貴方の良いところだもんね。良いわよ」

「ハッ! 良いじゃないか、出会う人々を全て助けるだなんて、器が大きいなんてレベルじゃないしね!」

「勿論OKなの! スプリはそんなイヴィ君だから王子さまになって欲しいと思ったの!」

「みんな、ありがとう!」


 カカナたちの言葉に、「皆さん……ありがとうございますです……」と、ソクティちゃんは声を震わせながらお辞儀した。


 それにしても、どうやらソクティちゃんは、勇者という名前を誰かが口にしたり書いたりしたら感知して直ぐにその場にやって来ることが出来るらしいんだけど、すごいよね!


 実はめちゃくちゃ足が速かったりするのかな?


※―※―※


 馬車で更に南下した後。


「あっ! 駄目だよ、そこは!」

「ほら、じっとしてて、イヴィラ! 綺麗にしなきゃ!」

「ハッ! 裸で抱き合った仲じゃないか。それなのにこんなに恥ずかしがっちゃって、可愛いね」

「スプリも裸で抱き合うの!」

「ソクティには勇者さまがいるから、一切接触はしないです。でもまぁ、勇者さまを救って頂く対価を差し出せと言うなら、このロリボディを晒すのもやぶさかではないです。あ、あと、勇者さまのことは応援したいというだけであり、勇者さまとそういう関係になりたいという願望は一切ないので、その点お間違えなきよう」


 大分暑くなってきて汗も掻いたからと、途中で見掛けた湖で何故か全員裸になり一緒に水浴びして、水で濡らした布でカカナたちに身体を拭かれるという羞恥プレイを受ける羽目になった。

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