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10.「迷子の幼女ソクティ(1)」

 歴代の勇者さんたちの攻撃は、〝絶対に〟相手に当たらなかった!?


 村長さんいわく、「三人とも、〝攻撃が当たりにくい〟とかではなくて、〝絶対に当たらない〟のじゃ」とのこと。


「そんな事あるのかしら?」


 首を傾げるカカナに、僕も同意だ。


「ハッ! 〝何か〟があったんじゃないか? あたいの〝毒の呪い〟みたいに」

「そうなの! スプリが呪いのせいで眠れるダンジョンの美幼女だったみたいに!」

「ハッ! あんたは自業自得だったけどね!」

「うるさいの!」


 確かに、〝絶対に当たらない〟だなんて、まるで呪いみたいだ……


 リンジーさんとスプリちゃんの言葉を受けて、僕は問い掛けた。


「村長さん、どうなんでしょうか? 歴代の勇者さんたちの話は、まるで呪いに掛かっているかのような印象を受けますが、そういう話は聞いたことありますか?」

「いや、呪いとかは聞いたことないですじゃ」

「では、共通して行ったことは何かなかったでしょうか?」

「ふむ。共通して行ったこと、ですかのう」

「はい。例えば、同じものを食べたとか、同じ人に会ったとか、同じ場所に行ったとか。彼らは、意図せずどこかで呪いに掛かった可能性があるので」


 白い髭を撫でながら、彼はポツリと零す。


「関係があるか分かりませんがのう。数年前も、三十年前も六十年前も、王都の大聖堂にて勇者の任命式が行われたのじゃ。共通点と言えば、そのくらいですかのう」


 大聖堂での任命式……


「教えていただきましてありがとうございます!」


 覚えておこう。勇者さんの力になって、聖山で聖剣を得て、それを魔導具屋店主のシルディに見せてスプリちゃんの魔導具ネックレスの詳細と使い方を教えてもらった後、大聖堂に行ってみよう。


 もしかしたら、大聖堂、もしくはそこで行われた任命式に何かあるのかもしれないから。


「それにしても、呪いまで掛かっている可能性があるとなると、勇者とは斯くも因果なものですのう」

「因果……呪いの他にも何かあるんですか?」

「おや、知らなかったのですかのう? 勇者は代々、生まれて直ぐに親から引き離されて国によって育てられますのじゃ」

「!」

「確か現勇者にはそもそも片親――母しかいないという話だったですがのう。そして、親は名乗り出ることを許されないのですじゃ。勇者もまた、親を探すことを禁じられておりますのじゃ」


 親子を引き離すだなんて酷い!


「一体何でそんなことを!?」

「何でも、親に頼らず、誰にも依存しない、強固な精神を養うためだとか。まぁ、勇者が魔王を討伐した暁には、親は勇者に名乗り出る権利を、勇者は親を探す権利が認められるのが救いではありますがのう」


 勇者さんには、是非ともお母さんに会って欲しい!

 けど、恐らく戦争を嫌っているであろう魔王さんとは戦って欲しくない……


 だから、魔王さんと仲良くなって、講和条約を結ぶとかして、平和に解決出来ないかな?


「イヴィラ。ちょっと良いかしら」


 と、そこに、ルファリーがやって来た。


「えっと、その……村を救って頂いた貴方に更にお願い事をするのは気が引けるのですけれど……」


 そんな彼女の肩を抱いて、レッモが支える。


「大丈夫。イヴィラならきっと話を聞いてくれるさ」


 「そうですわね」と、ルファリーが改めて僕を見る。


 何だろう、ちょっとドキドキする。

 僕に出来ることだと良いけど。


「イヴィラ。わたくしの中にある、ロックドラゴンから貸してもらった石化魔法の力を、貴方の力で消すことは出来ないかしら?」


 「何だ、そんなことかぁ!」と、僕は安堵した。


「勿論出来るよ!」

「本当ですの? では、お願いしても良いかしら?」

「うん! じゃあ、石化魔法を発動する直前の、魔力を練り上げた状態にしてもらって良い? 発動するためには、対象を視認する必要があるから」

「分かりましたわ。……どうかしら?」


 ルファリーの両手が光に包まれる。


「じゃあ行くよ! 〝キルアイズ〟! はい、消したよ!」


 ルファリーの手の輝きが消滅。


「……『石化ペトリフィケーション』」


 レッモが、近くのテーブルの上にあったお皿に乗ったお肉を持ってきて、それに対してルファリーが石化魔法を試しに唱えてみると。


「! ……発動しませんわ……」


 ルファリーが涙ぐむ。


「良かった……これでもう、あんな悲劇は二度と起きませんわ……本当に心から感謝いたしますわ、イヴィラ。ありがとう……」

「力になれたなら、良かった!」


 満面の笑みを浮かべた後、僕はそこで、とても大切なことを思い出した。


「ルファリー、レッモ! 僕と友達になって!」

「こんな私で良ければ、喜んで」

「勿論良いぞ! 宜しくな!」

「ありがとう!」


 こうして僕に、また素敵な友達が出来た。

 しかも、一気に二人も!


※―※―※


 村の宿で一泊させてもらった翌日の朝。


「お世話になりました!」

「こちらこそ、重ね重ね村を救っていただき、ありがとうございますじゃ。また遊びに来て下され」

「はい!」


 森から外――西側に出て、街道の向こうにある馬車へと向かおうとすると。


「え~ん、え~ん。パパ……ママ……どこです?」


 街道を一人トボトボと歩いている、緑色のボブヘアの幼女が目に入った。

 パッと見、スプリちゃんよりも更に幼い。五歳くらいかな?


 南部は北部に比べて気温が高くてかなり温かいからか、軽装で、薄手の服を着ている。

 

「ハッ! 怪しいね!」

「そうなの! 街道のど真ん中を幼女が一人で歩いてるとか、有り得ないの!」

「ダンジョンの奥深くで一人眠っていた幼女である貴方がそれ言っちゃう?」


 警戒心を露にするリンジーさんにスプリちゃんが同意して、カカナが半眼で突っ込む。


「助けなきゃ! どうしたの? 迷子かな?」


 僕は、屈んで目線を合わせながら、女の子に話し掛けた。


「うん……ひっく……ソクティは、パパとママと馬車で旅行してたです……でも、眠くなって、起きたら、パパもママも馬車も消えちゃってたです……」

「そっか……そんなことが……」


 こんな幼い子を放ってなんておけない!


「ソクティちゃん。僕はイヴィラって言うんだけど、一人だと危ないから、僕たちと一緒に来る?」

「……一緒に行っても良いんです?」

「勿論良いよ!」


 にっこり笑うと、ソクティちゃんも笑みを返してくれた。


「ありがとうです!」


 ぎゅっと手を握ってくるソクティちゃんに、胸がほんわかする。

 僕は前世も今世も一人っ子だけど、妹がいたらこんな感じなのかな?


 スプリちゃんも幼女だけど、S級冒険者だし、友達だし、僕のことを王子さまって言うし、何か妹っぽくはないんだよね。


「みんな、それで良いかな?」

「別に良いわよ。それに、駄目って言っても助けるでしょ?」

「ハッ! 仕方ないね」

「本当は反対だけど、イヴィ君のために折れてあげるの!」

「ありがとう!」


※―※―※


「ソクティの村は、この森の向こうにあるです」


 僕の父が治めるバッドネス公爵領からディリフォレーズ王国南部のウォムト公爵領に入った後、街道沿いに更に南下すると、西側に森が見えた。


「もしかしたら、両親は先に村に帰ってるかもしれないです」

「確かにその可能性はあるよね!」


 森の入り口で馬車を停めて、近くの大木に紐を結び付けて固定、二頭の馬には待ってもらうことにした。


「お兄さんたちは、さっきの話だと、聖山に向かっていて、知り合いに見せるために聖剣を手に入れたい、ということです?」

「うん、そうだよ」


 鬱蒼と樹木が生い茂った森の中を五人で歩いていく。

 この辺は気温が更に高くなっており、何度も汗を拭いながら。


「実は聖剣を獲得するために何度も聖山に挑戦している人がいるのは知っているです?」

「勇者さんのことかな? 諦めずに何度も挑戦するって、すごいよね! しかも、〝攻撃が絶対に当たらない〟っていうハンデまで負ってるのに!」

「やっぱり知ってるです……しかも、呪いのことまで……」

「え?」

「いえ、何でもないです」


 小さな呟きを聞き返すと、ソクティちゃんは首を横に振った。


※―※―※


 暫く歩くと、開けた場所に出た。

 崖になっていて、遥か下には川が流れており、川を渡った先にまた別の森が見える。


「ここを下りるのが、村への近道です。あの森の中に村があるです。どうです? 行けそうです?」


 眼下を指差すソクティちゃんにつられて、僕たちは身を乗り出して谷間を覗き込む。


「みんな、どうかな? 行けそう? 僕はちょっと難しそうだけど」

「私も無理そうだけど、リンジーとスプリは行けるわよね?」

「ハッ! 楽勝さね。あたいがイヴィとカカナを、スプリがソクティを抱えて飛び降りれば済む話さ」

「イヴィ君はスプリが抱っこするの! そこは譲れないの! 王子さま抱っこなの!」

「お姫さま抱っこなら分かるけど、王子さま抱っこって何よ? っていうか、本当はイヴィラを貴方たちに抱かせたくはないんだけど……まぁ仕方ないわね」


 僕たちが相談していると。


 カチッ


 何かのスイッチのような音がして。


 ドーン


「「「「!」」」」


 爆発と共に、足場が――崖が崩れた。


「ソクティちゃん!」


 空中に放り出された僕は、咄嗟に彼女を救おうと、身体を捻って背後を振り返ると。


「尊き勇者さまの邪魔をする愚者には、死を」

「!?」


 いつの間にか距離を取っていた彼女は、森の中から、僕たちを見下ろしていた。

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