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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
第二幕:皓き山嶺の詩

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49話:小さな君の、大きな想い

なんで主人公たちの心情ばかり映しているのか?

だってその方がキレイじゃないですか。

 あの仔(サフィ)は今、アタシの隣にいる。一緒になって横になっているの。アタシはあの仔のお胸に頭を乗せて、耳を澄ませた。

 トットットッ――。と、あの仔の命の音が聞こえてくる。身体が大きかったときよりもずっと小さくて弱々しくなってしまったその音を聞いていると、アタシと同じになったンだって思えて、とっても落ち着くの。あの仔は今、アタシだけのモノになって、アタシだけを見てくれてるンだって、そう思えるの。

 そう思ったら今までずっと感じていた不安の雨脚が遠のいていって、ざわついていた心の音が静かになった。ピチャピチャと濡れた葉から鏡のような水溜りに雫が落ちていくその様を眺めるように、アタシの(こころ)は静けさを取り戻したの――。




「――エフェリア、まだ起きてる?」


 あの仔、サフィがアタシの頭を撫でる。


「なぁに?」


「その……ね、今日のことなんだけどね」

「エフェリアはさ、大きくなりたいの……?」


 大きくなりたい――。それはきっと、サフィやリラと同じ大きさになって、同じ世界を見たいということかしら。そうなれるなら、アタシは大きくなりたいのかもしれない。ケド、ちょっと違う気がする。

 別に、絶対大きくなりたいワケじゃないもの。もしも、サフィとリラがアタシと同じ大きさなら、アタシはこのままの大きさでいい。

 ふたり以外の誰かさんがアタシと一緒にいたとしても、アタシはその誰かさんと同じ大きさになりたいとは思わないと思う。

 じゃあ、アタシはどうなりたいのかしら……?


「……わからないわ」


 アタシがアタシの頭ではよくわからないことを考えていた間、サフィはアタシの言葉を待ちながら、頭を撫でてくれていた。その手がとっても温かくて、優しくてとても落ち着くの。


「うーん……じゃあ、エフェリアは自分の姿が嫌い……?」


 嫌い……嫌いなのかしら。よくわからない。他のナニカになりたいと思ったことは……ないように思う。サフィやリラ……それにママはステキだなって思うけれど、その花顔(かんばせ)に成りたいワケじゃない。


「ううん……」


「エフェリアはさ、夢の中でリラや……わたしと同じになろうとしたでしょ?」

「大きくなろうとか……翅を取っちゃおうだとか」

「一緒になってどうしたかったとかって……わかるかな」


「そんなの……わかンないわ……」


 そう、わかンない。だって、夢のことだもの。きっと、あのときのアタシはどうかしていて、普通じゃなかった。だから、今のアタシにどうしたかったのか訊かれても答えることなんてできない。そう思ったの。

 でも、ひとつ。ひとつだけ。確かに言えることがあった。


「ただ一緒がいいの……」


 サフィはその言葉を聞いて、独り言のように空に向かって返事をした。ただ優しく、アタシの身体を抱き寄せて、離れないようにしてくれた。アタシはサフィの身体の上に乗っかって、うつ伏せになっている。脚を絡めて、全身でサフィの体温を感じている。このまま夜を過ごしたら、身体が溶け合ってひとつになってしまいそう。

 でも、それでもいいかな。サフィのお胸の音に耳を澄ましながら、そんなことを思ったの。



 

 ◆



 眠気が来ないまま、八十八回の鼓動を聴いた。

 

「――まだ不安?」


 不安――。

 そうかもしれない。サフィも、リラもアタシのことを忘れないでいてくれる。愛してくれている。それは知ることができた。ケド、やっぱりまだ不安なの。

 いつか花が散るように、それを風がどこかへ運んでしまうように。ふたりともアタシの前から突然消えてなくなってしまいそうで怖いの。

 だから、今もこうしてサフィがどこかに行ってしまわないように手を繋いでいる。身体を重ね合わせている。


「……大丈夫だよ。わたしはどこにも行かないから」

 

 サフィはアタシが身体を押し付ける力が強くなったのを感じて、その不安をなくそうとしてくれた。


「でも……怖いの」

「サフィも、リラもアタシを愛してくれているって知ってるわ」

「でも、アタシはちっこくて、弱っちいわ……サフィとリラと、同じじゃないわ……」

「ふたりはいっつも仲良しでいっつも一緒にいて……アタシなんて、いなくても変わらないじゃない」


 アタシはちっこいから、いなくたって誰も気づきやしないもの。きっと、サフィやリラだって同じだわ?

 ちっこいアタシがいなくなったって、だぁれも困りやしないもの。一緒に寝るのも、髪を梳くのも、遊ぶのも。アタシとなんかじゃ満足できないでしょう?


「……変わるよ」


「変わらないじゃないっ!」

「そんなに言うンだったら、サフィはアタシにキスできるの?!」

「愛してるンなら、してよ……っ!」

「キスしてよ……っ! してみなさいよっ!」


 両手を草の上に強く叩きつけて、サフィを見下ろすように身を起こした。

 なんだか無性に熱くなって、前が見えなくなってしまって、その熱いものが頬を伝っていった。夜空に照らされて星のように青々としたそれがサフィのお胸に落ちていく。アタシはサフィの優しさを台無しにして、サフィに行き場のない怒りをぶつけてしまったの。

 

「………………っ」


 サフィは苦しそうな顔をして、黙ってしまったわ。


 ああ、そう……そうなのね。

 やっぱり、アタシなんていなくてもいいじゃない。

 愛してるリラとはキスできるのに、アタシにはしてくれないなら、いいじゃない。


「もう知らない……っ!」


「待って――!」


 アタシはどこか知らないところへ飛んで行ってしまおうと思って、振り返ったの。飛ぼうとしたら、サフィがアタシの腕を掴んでバランスを崩してしまった。

 そうして、アタシたちは倒れ込んで、サフィはアタシがどこにも行けないように馬乗りになったの。


「離してっ! 離してよ……っ!」


「離さないっ!」


「イヤッ!」


 サフィのことをどうにかしてどかそうと、アタシは身体を動かそうとしてみたケド、全然動きやしないの。サフィがアタシにその優しい手を伸ばしてくるから、はたき落とす。もし、その手に触れられてしまったら、アタシはもうなにもできなくなってしまう。そんな気がしたの。

 何回も、何回もサフィの手を叩いて、引っ掻いて、痛くした。


『――ピシャッ!』


 もう何回かその手を振り払って拒絶していたら、眼の前が急に雷が落ちたみたいになって、ほっぺたがジンとして痛むの。


 ――叩かれた。


 そう解った途端、叩かれたほっぺたがとっても痛くなって、哀しくなって、涙が溢れた。

 驚きを隠せずに、文字通り目を見開いて言葉を失った。

 サフィは肩を揺らして、その顔に怒りと哀しみを湛えていた。


「はぁ、はぁ……」

「――イヤじゃないっ! 離すもんか……ッ!」


 アタシの両腕を強く押さえつけて、握りしめている。

 痛くて泣きたいのはアタシの方なのに、なぜだかサフィも泣いていた。


「キスしたら……っ! キスするだけでっ!」

「エフェリアはいいのっ?!」

「それで安心できるの?」

「わたしたちは家族だって、どこにも置いていかないって解ってくれるの?」

「そうだって言うなら、わたしはいくらだってするよ……っ!」

「でも違うでしょう!?」

「真実の愛だとかっ! キスだとかっ! そんな夢物語で語らないでよ……っ!」


「名前を付けたら家族だって言ったのはエフェリアじゃない!」

「家族のことを信じられないで、なにが『キスをして』よ!」

「エフェリアはわたしたちのこと、家族だって思ってくれてないの……っ?!」

「どうなの! エフェリアッ!」


 アタシは怖くなって、なにも言えなくなってしまった。押さえつけられた手首が痛くて、サフィの眼光もお胸に突き刺さってしまいそうなくらい鋭く見えた。長くてサラサラとした髪がアタシたちの顔だけが見えるように幕を降ろして、逃げたくても逃げられなかった。アタシは深い、深い青(サフィ)の目に吸い込まれて、なにもできなくなってしまったの。


 お互いの荒くなった息遣いだけが耳に届くようで、激しく脈打っていた鼓動も聞こえやしないの。サフィの熱い涙がアタシのほっぺたに落ちて、アタシのそれと混ざって溶けていく。


「――――――」


 怖くて、怖くて。唇を震わせて、身体を震わせていたらサフィがそれに気が付いたの。そしたら文字通りお顔を真っ青にして、手を離してくれた。

 止めどなく降り注ぐ熱い雨は激しさを増すばかりで、サフィの声はそれに溺れているみたいだったの。

 サフィは力なくアタシに覆いかぶさって、耳元で泣いていた。


「ごめん……」

「どこにも行かないで……行っちゃヤだよ……」


 そう言って、アタシの口にキスをした。優しいキスだった。

 

 


 ――ああ、アタシったらおバカさんだったのね。

 姿が違うから。って、遠目に見ていたのはアタシの方だった。そんなことなんて気にしないで、もっと一緒にいればよかったのね。アタシはアタシで、サフィはサフィで、リラはリラじゃない。

 なんで今まで、そんなことも解らなかったのかしら。

 

「……おやすみ、エフェリア」

 

 サフィはアタシの上から降りると、背を向けて寝てしまった。ケド、アタシはなぜか安心していた。ヤな気分なはずなのに、どこにも行かないで隣にいてくれた。大きくならないで、アタシと同じ大きさのままでいてくれた。たったそれだけのことなのに、安心してしまったの。


 アタシはサフィの背中で引っ付き虫になった。温かくて、柔らかいお腹に手を回してどこにも行っちゃわないようにした。

 背中にお顔を押し付けるとサフィの匂いでいっぱいになる。

 アタシはその匂いに包まれながら、泣きつかれたせいのか、安心したせいなのか……わからないケド、いつのまにか眠ってしまったの。




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