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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
第二幕:皓き山嶺の詩

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48話:山の向こうへ

リラはいい仔ですね。


……ところで第二幕が開幕したばかりだと言うのになぜこんなにも重い空気なのでしょうか。

わたしのせい?それはそう。

 ◆


 ――わたしは眠ってしまったエフェリアを抱っこしたまま、リラの肩に乗せてもらっていた。そろそろ夕方になる時間だ。空はまだ青いけれど、日はだんだんと傾いてきている。花畑もオレンジ色の花を咲かせつつある。

 野営のことを考えるなら、山を登らず花畑と森の間で過ごすべきなのだろうと思う。

 けれど、極寒の泉の中でも寒さを感じることのないわたしたちにとっては、どこで寝ようと気温の違いなんてものは些事だ。

 だったら、山頂を目指して歩けるところまで歩いていってしまってもいいだろうと考えた。

 そうして、わたしたちはなだらかな尾根に辿り着いた。背の低い小さな花々がどこまでも続いているのが見える。


 うろ覚えの知識を少し思い出す。

 険しい山脈じゃないことから、地層が盛り上がってできた地形ではないこと。風化によって削られた火山の名残りが、なだらかになる条件だったっけ。

 なにより、断層もないように見えるから、地震は少ない……もしくはない地なのだろうと思った。


 わたしたちは夕日を背にしていた。もし、この世界が前世と同じであるならば、夕日が沈む方角は南西ということになる。

 けれど、月からして前世のものとは比較にならないほどキレイなものだったし、あまり当てにはできないよなぁ。なんてことを思った。


「街、どこだろう」


「どこかしら」


 リラとわたしは目を凝らして探していた。けれど、見えるのはどこまでも続いている森ばかりで、人工的なものは見えなかった。もしかしたら、木々に隠れてしまっているのかもしれない。

 街に続く道は……アレかな。少し右の方に、森が開けたように続いている場所があった。


「リラ、あの道に近づけるように、この先を進んでいって」


「うん」


 山頂だというのに風は穏やかだった。肩に乗っているせいか、リラのいい匂いで包まれている。リラの髪が靡いて、わたしをくすぐる。むず痒いような、心地いいような、なんとも言えない感触だった。


 風は夕日の方に向かって吹いていた。つまり、森の方が内陸にある可能性が高い。もし、海がある場合は気温が下がりにくく、陸地は気温が下がりやすい。だから、夕刻は海から陸に向かって風が吹く。

 もちろん、必ずそうなるわけじゃない。


 リラとエフェリアには、海を見せてあげたいな――。


 森を眺めていたのに、なぜかそんなことを思ったんだ。

 茜色に染まっていく空を眺めながら、エフェリアの体温を感じていた。かわいらしい寝息と、小さな心音に耳を澄ませる。

 夜、眠れなくなってしまわないかな。なんて、呑気な心配をする。




「ん……」


 一瞬、エフェリアの身体が強張って、息の拍が変わった。さっきまで力の抜けていた手足が、わたしの身体を締め付けた。視界の傍でエフェリアが目を擦っているのが見える。

 わたしはただ、エフェリアの頭を撫でた。エフェリアもそれを受けいれて、大人しく撫でられていた。


「――おはよう」


「………………ん」


 エフェリアは小さく返事をした。人肌が恋しいのか、わたしの体温を感じるように、肌をすり合わせてくる。わたしの髪に顔を埋めて、大きく息を吸っている。首にかかるエフェリアの息が、少しくすぐったかったんだ。

 エフェリアは満足したのか、少し飛んでわたしの横に座った。手を重ね合わせて、指を絡め合わせる。


「もう、大丈夫そう?」


「………………ん」


 喩えそれが嘘だとしても、今はその言葉を否定しない。ただ寄り添って、エフェリアの気持ちが落ち着くまで待っていようと思ったんだ。

 肩を寄せて、脚を擦り合わせる。そうしているとなんとなく温まる。

 エフェリアはまだ、顔に影を落として暗い顔をしているように見えた。それは斜陽の逆光のせいだろうか。それともエフェリアの心の表れなのだろうか。

 

 わたしには判ってあげられなかった。

 

 リラは尾根に沿って歩いている。土の露出した山肌が見えないことから、人の行き来なんてものはないことがわかる。

 

「リラ」


「なぁに?」


「歩き疲れてない?」


「ううん。大丈夫」


「じゃあ……まだ歩いてもらっても大丈夫?」

「それともわたしの背中に乗る?」


 背中に乗る。というのは、下肢を牝鹿にして、という前提が入るのは置いておく。わたしが運んでいけば、もう少しくらい遠くへ進めるだろうと思う。


「んー……エフェリアはもう大丈夫そう?」


 リラにそう言われて、わたしはエフェリアの様子を窺った。暗い顔をしたまま表情は変わらないけれど、わたしの手を強く握った。


「………………ヤ」


 隣にいるわたしですら聞き逃してしまいそうなくらい小さな声で、エフェリアは呟いた。


「ごめん、リラ。このままお願いしていい?」


 リラはわたしのお願いに快く返事をしてくれた。太陽は地平線の彼方へ沈んでいく。もう少しもすれば、辺りは夜闇に包まれるだろう。

 わたしたちに野営の準備なんてものはない。洞窟があったり、窪地があったりすればそこを選んで眠るけれど、別にどこでだって眠れる。それなら、暗くなる直前まで歩いていても問題はない。


 でも、野営についてはもう少し考える必要があったなぁ。と、反省している。

 風が強ければ落ち着いてに眠れないし、雨が降ればエフェリアは凍えてしまうかもしれない。魔力の糸で簡易テントのようなものを作った方がいいかもしれないと思った。

 魔氷晶を変形させればテントの骨も、ペグも作れる。

 それなら、今のうちに作ってしまったほうがいいかもしれない。


「リラ、そろそろ寝る準備をしよう。エフェリアもそれでいい?」


「わかった」

 

「………………うん」


「今日は一緒に寝ようね」


「……ん」


 わたしはエフェリアの頬に軽くキスをした。リラは寝るのに良さそうな、なだらかな斜面に座って、わたしたちを肩から膝の上に移動させた。


「ここでいいかしら」


「うん。風も強くないから、大丈夫だよ」

「エフェリア、わたしは今からテントっていうものを作るから、いっかい離れて大きくなってもいい? 作り終わったら、またこの大きさに戻るからさ」


 エフェリアはそっぽを向いて、小さく頷いた。わたしはもう一度エフェリアの頬に軽くキスをしてから、リラと同じ大きさになった。

 リラは髪を解いてから、既に寝そべって昏くなっていく空を眺めていた。

 わたしはその横で身体の裡から魔氷晶を取り出して、捏ねていた。


「ここのお空も……あの泉と変わらないのね」


「……そうだね」


 わたしは手を動かしたまま、空を仰いだ。人工的な光が蔓延っていないこの世界では、夜空はとても美しい。毎日この空を眺めなければ損だと思ってしまうほどだ。


 魔力の糸で編むのも、今のわたしにはお手の物になっていた。ワザワザ一本ずつ出さなくても、魔力の糸を出す時点で編み込んでしまえばいいことに気が付いた。これのおかげでものすごい時間の短縮ができるようになっていた。


 少し手狭なテントを作って、布団も新調した。それでもまだわたしの魔力量は減っているような感覚すらない。

 テント……天蓋の中からは夜空が見える。傷を付けずに編んだ布は殆ど透明だ。その布が夜空に溶けてそのまま星々を映し出していた。


 今日はお昼寝もしたけれど、いっぱい歩いたせいか、リラは眠たそうな顔をしていた。既にネコのように丸くなって、うとうととしている。


 わたしは約束通り、小さくなってエフェリアの隣で横になった。


「どう? 眠れそう?」


「まだあンまり眠くないわ……」


 ついさっきまで泣き疲れて寝ちゃってもんなぁ。なんてことを思う。わたしはエフェリアを抱き寄せて、寄り添うようにした。

 エフェリアは頭を胸元に置いて、わたしの鼓動に耳を澄ますようにする。


 エフェリアとはもう少し、しっかりと話をしないといけない。ただ気持ちを吐露するだけで終わってしまうのは良くないと思うんだ。気持ちを曖昧にしたまま、有耶無耶にしたまま。そのまま過ごしていたらきっとまた、後悔することになる。


 でも、どうやって話を切り出すべきだろう。

 眠ってしまう前には決めないといけない。

 だと言うのに、わたしの口は縫い付けられてしまっているかのように開いてくれない。


 傷付けたくない。


 でも、今話さなければいつかの未来、また傷付けてしまうことになる。

 無神経に、無配慮に。今話すことで傷付いてしまうことを必要なことだと割り切ることができればどんなによかったことか。


 わたしはエフェリアのふわふわとしているのに、絹のように滑らかな髪を撫でながら、そんなことを逡巡していたんだ――。

 


 

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