47-1話:ちっぽけな仔たち
エフェリアは元気でかわいいですね。
因みにご存知かもしれませんが、元ネタにはオフェーリアが混ざっています。かわいそうですね。
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アタシたちは森を抜けたお花畑で、めいっぱい遊ンだの。とっても楽しかったわ! これからアタシたちはニンゲンの住む街に行くンですって。
でも、よくわからないわ?
それってこの森とナニが違うのかしら? 知らないものがいっぱいあるのかなっ、それとも、お友だちがいっぱいいるのかなっ。
アタシ以外のお隣さんもいるのかしら? もしそうなら、早く会ってみたい。アタシと同じでちっぽけな仔に会って、お友だちになるの。
別にサフィとリラじゃ満足できないワケじゃないわ? ふたりのことはとっても大好きだもの。アタシの大切な家族で、愛しているもの。
サフィは強いのにヘンテコで、ときどきおバカさん。リラは弱っちくて泣き虫で、とってもお寝坊さんだわ?
だから、アタシが守ってあげないとネ?
今だって、お花畑でお昼寝をして、ちっとも起きやしないの。だから、アタシがそのかわいいお顔を見守っていてあげるの。
リラのお胸の上はとっても柔らかくて、温かくて、気持ちがいいの。耳を当てると、トットットッ――って、心臓の音が聞こえるの。アタシはこの音が好きよ。
それに、スゥスゥって、気持ちよさそうに寝息を立てちゃって、かわいらしいわよネ?
――アタシも同じくらい大きかったらいいのになぁ……。
そんなことを思うの。
だって、つまらないじゃない?
アタシだけちっぽけで、なんにも同じになれないもの。
サフィとリラと、手を繋ぐことだってできやしないわ? 同じものを見たいのに、全然見えやしないもの。
でも、だからかしら。
アタシ、サフィが同じお服を作ってくれたとき、とっても嬉しかったの。サフィにはナイショにしてるケド、嬉しかったのよ?
サフィがアタシと同じ大きさになってくれたときは、とってもビックリしたの。あれも嬉しかった。でも、最近は全然同じになってくれなくって、ちょっぴり寂しいなって思うの。
アタシも一緒になって寝てみたい。リラがサフィにしてるみたいに、アタシも寝てみたいの。
サフィにお願いしたら、きっとしてくれると思う。ケド、なぜだかお願いできないの。
どうしてかしら?
リラからサフィを盗っちゃうから?
でも、サフィはヘンテコだからふたりになれる。
なら、どうしてかしら?
……わからない。わからないケド、お願いできないの。
気づいてほしいのかしら? 気づいてほしいのかもしれない。
アタシが寂しがってるってこと、サフィに、リラに知ってほしいの。
ワガママよね。
アタシはその寂しさを誤魔化すように、リラのお胸の上で丸くなって、もう一度夢へと揺れて落ちていったの――。
◆
――夢を見ていたの。優しい夢。
あの仔がアタシの髪を梳いてくれている夢。大きなお花のお家で、ふかふかな綿のお椅子に座っているの。窓からは薄絹のカーテンを揺らす風が優しく吹いていてね、薄金色の光が射し込んでいるの。
扉が開いて、あの仔があの仔を呼ぶ。「お外にお散歩をしにいこう」って。
アタシも、あの仔もその仔と手を繋いで、並んで歩くの。
そしたら、「歩くなら翅なんていらないよね」って言うの。
あの仔は頷いて、背中に生えた翅を落としてしまったの。キレイだったのに。朝露みたいに透明で、キラキラとしていたのに、なんでもないかのように落としちゃって。
そしたらね。あの仔たちは身体がどんどん大きくなって、アタシを置いて行ってしまう。
あの仔たちふたりだけで、先を行ってしまう。
アタシの声なんか聞こえなくって、まるで虫の声みたいにあの仔たちの咲い声で掻き消されてしまうの。
――アタシを置いていかないでっ!
めいっぱい叫んだって、振り向いてくれやしないの。
見てもらえるように、どれだけ高く飛ぼうとしても、あの仔たちの顔には届かないの。
――こんなことなら、こんな翅なんて要らないわっ!
アタシもあの仔たちみたいに、翅を落としたの。
そうしたら、大きくなれるでしょ?
そうしたら、アタシも一緒に行けるでしょ?
でも、アタシはちっぽけなままで、ちっとも大きくなれやしないの。
おかしい。そんなのおかしいじゃない。
飛べなくなったアタシは、どれだけ一生懸命走ったって、大きなあの仔たちに追いつけやしないの。
どんどん、どんどん遠くに行ってしまって、あの仔たちはアタシを置いて行ってしまったの。
アタシは地べたに座り込んで、わんわん泣いたわ。
でも、それだって誰も聞いてくれやしないの。
鈴みたいな声で掻き鳴らしても、誰も気づいてくれないの。
――夢を見ていたの。哀しい夢。
あの仔たちがアタシを置いて行ってしまう夢。キレイなお花畑の中に置いてけぼりで、太陽の光でさえ冷たく感じるの。
寒い。寒いわ。
大きな葉っぱたちが光を遮って、地面はとっても冷たくて……今にも凍えてしまいそう。
涙で頬を真っ赤に腫れさせて、大粒の涙が溢れていくの。脚に落ちたそれは途端に冷えて、凍っていくの。
霜漬けになって、凍えて、身体が震えてしまう。
両手で肩を摩すったって、ちっとも温かくなりやしないの。
息さえ震えて、アタシの熱ですら、白く形を持って逃げていく。
落とした翅はガラスのように割れてしまって、真っ白だったお服も茶色くなって枯れていってしまう。
怖い。怖いわ。
声にならない声で泣いて、アタシは縮こまっていた。
辺りは真っ暗になっちゃって、なんにも見えやしないの。
今はお昼で、明るくて、温かいはずなのに。
夜みたいに真っ暗で、冷たいの。
アタシ、いつからこんなに弱っちくなっちゃったのかしら。
こんなんじゃあリラにも会えないわ?
膝を抱えて、溢れた涙が闇に波紋を広げていく。
ぴちゃん。ぴちゃん。と。
哀しい音だけが響いているの――。
「――エフェリア?」
あの仔の声が聞こえた気がした。ヘンテコなあの仔。
「エフェリア」
今度はもっと、ハッキリと聞こえて、顔をあげたら、あの仔がいた。
わたしを見つけて、そっと腕に包んでくれたの。
――温かい。
お日さまのようなあの仔の匂いに身を任せる。安心する。
一緒になれたらよかったのにな……。そんなことを、思ったの――。




