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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
第二幕:皓き山嶺の詩

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44話:星は煌々と輝いて

 ◆


 森から帰ってきた夜。

 わたしたちはいつものように、泉の畔で仲良く並んで横になっていた。

 エフェリアはわたしのお腹の上に寝っ転がっている。

 みんな、お昼寝をしたからまだ眠気が来ないのか、満天の星空を眺めて星の数を数えたり、大きくてキレイな星を探したりしていた。

 空を指さして、このお星さまがキレイだ。あのお星さまがキレイだ。と言い合っている。


 その微笑ましい空気を邪魔してしまうのは良くないかな。なんてことを考えている。けれど、今訊いておかないと、もう訊ける機会なんてないようにも思う。

 わたしは意を決してその重たい口を開いた。


「ねぇ、リラ、エフェリア」


「なぁに? サフィ」 「うん? どうしたのン?」


 ふたりとも空を見たまま、わたしの言葉に耳を傾けようとしてくれた。


「その……ね」

「ふたりはさ、人間の住む街に行きたいって、まだ思ってる?」


「うん! 行ってみたい!」


「アタシもサフィとリラと一緒なら、どこへだって行ってみたいなっ♪」


 希望に満ちてどこか浮足立った、明るい返事だった。


「……もう、帰って来られないかもしれなくても?」


「うーん……どういう意味?」


「人間の住んでいる街は、ここからものすごく遠いところにあるんだ」

「だから、ここに、泉に帰りたいって思っても、すぐに帰って来ることなんてできない」

「数日、もしかしたら数週間は歩かないといけない」


 わたしはイジワルなやつだ。ふたりが不安になりそうなことを選んで口にしている。ふたりの夢を叶えたいと口では言うくせに、今はその夢を、希望を砕こうとさえしている。

 

 ……わからない。

 

 どうして、こんなにも……わたしは矛盾してばかりいるのだろう。

 でも、それでも。

 わたしはふたりに、嘘つきでいたくはないと思うんだ。

 わたしは痛みを我慢するような顔で、言葉を続けていた。


「わたしは……人間の街に行ったら、そこで住むつもりでいるの」

「今日みたいに森へ行くみたいに……お散歩とか、お出かけじゃないんだ」

「人間の住むその街を、この泉と同じように、帰るべき場所にするつもり」


「わたしたちだけの、屋根のあるお家に住んで、柔らかいベッド眠るの」

「お花を育てたり、アクセサリーを作ったりして、お店で売るんだ」

「美味しいご飯をいっぱい食べて、かわいい服もいっぱい着たい」

「たまにはこの泉に帰って来たり、別の街に移り住んだりしてもいいかもしれない」

「その……そんな感じ」


 喉の奥が熱くなってしまって、言葉が続かなかった。出てきてしまいそうになったものをグッと飲み込んで、涙を堪えていた。

 しばらくの間、沈黙がその場を支配した。虫たちの音楽がヤケにうるさく感じる。そして――。


「わたしは――」


 言葉を漏らしたのはリラだった。


「わたしは、それでもいいよ」

「サフィと、エフェリアと一緒なら、それがいい」

「だって、とっても楽しそう……」

「ちょっぴり不安もあるけれど、それよりも、やっぱりワクワクするわ」

「サフィはやりたいことがいっぱいあるのね」

「わたしも、サフィがやりたいこと、全部やってみたいわ」


 リラはわたしの手を握って、顔を向けた。深い緑の目が、夜空の光を吸い込んでいるように、とてもキレイに見えたんだ。リラは目が合うと、口を綻ばせて、わたしの方に身体を向けた。

 その顔が愛しくて、その愛が嬉しくて、我慢していた想いが溢れてきてしまった。


「サフィ、どうして泣いているの?」


「……なんでもないよ」


 わたしはないはずの鼻をすすって、目を擦った。感情的になっている中、エフェリアが翅で不安を吹き飛ばすような明るい声で言ったんだ。

 

「じゃあ、アタシの番?」

「えっとね、アタシは――」

「うーん、アタシも、それがいいなっ!」


「ふふっ……なにそれ……」

「あはは……ふふふ……」

 

 わたしはなんだかおかしく思って、お腹を揺らして笑った。今まで感じていた不安がバカみたいだ。おかしくて、面白いはずなのに、なぜだか涙は止まってくれなかった。

 リラも、エフェリアも釣られてしまって、一緒になって笑っている。


「もう! なによっ! アタシおかしなことなんて言ってないじゃない!」


 エフェリアは笑いながら怒って、わたしのお腹を叩いている。それがまたおかしくって、かわいくって、笑ってしまう。


「うん、そうだね……ふふっ」

「ごめん、ごめんってば――」


 満天の星空の映る泉の畔で、三人の乙女の笑い声が夜へと溶けていった。

 温かい、春の夜のことだった。




 ◆




 笑い疲れて、大きく息を吐いた。リラも、エフェリアも笑い疲れたのか大きなあくびをしていた。


「ふわぁぁ……そろそろ眠くなってきちゃった……」


 わたしにもふたりの眠気が移ったのか、まぶたが重くなってきた。

 あぁ、そういえば。

 その前に訊いておかなくちゃいけないことがあったんだ。と、思い出す。わたしはふたりの名前を呼んだ。

 

「……ねぇ、いつ出発する?」


「ん……じゃあ……明日から……?」


 リラは眠たそうな顔で、まだ寝たくないというように眠気に抗っていた。少し離れているのを寂しく思ったのか、身体を擦り寄せてくる。

 わたしはリラの身体を抱き寄せて、寒くならないように布を掛けてあげた。


「エフェリアもそれでいい?」

 

 エフェリアはわたしのお腹の上で丸くなっている。わたしはそっと撫でていたら、エフェリアはわたしの指を腕に包んで頬擦りしてきた。


「うん……いい……」

「おやすみなさい……」


 エフェリアの熱が指に伝わってくる。わたしの指を抱き枕のようにして、離してくれそうになかった。エフェリアには申し訳ないけれど、指をスライムに戻して手放してもらった。

 その代わりに、リラと同じように布を掛けてあげた。

 わたしは布団がなくても特段寒さを感じない身体らしく、何もなくても大丈夫だった。


 ……スライムって変温動物……粘体? なのだろうか。


「………………」


 考えてもわからないから止めにしよう。


 それよりも、明日のことを考えよう。

 わたしたちに私物といえるものはほとんどない。この前贈りあったアクセサリーや、服くらいだ。準備するものもなく、手ぶらでの旅になるだろう。


 ――旅行に必要なものといえば……なんだろう。


 着替えも、食べ物も、遊び道具もない。

 着替えは魔法でキレイにできるし、必要になれば魔力で編めばいい。

 食べ物は……魔力が行動源のわたしたちには必要ない。

 ……魔氷晶は持ち歩いた方がいいかもしれない。

 それに、魔氷晶はたぶんお金になる。


 そうだ、お金だ。


 わたしたちは人間の通貨を一枚も持っていない。魔氷晶は大切な収入源となるだろうし、泉や森の外では魔力が薄いかもしれないことを考えて、なるべくたくさん持ち歩いた方がいいかもしれない。


 遊び道具はどうしようか。

 片手間に作ったルービックキューブは身体の裡にしまってある。それ以外にも暇を潰せるものを作っておいた方がいいかもしれない。

 作れそうなものは……なんだろう。

 魔氷晶の……万華鏡とか? あとはビードロ……オカリナやフルートも作れるかもしれない。

 楽器はいい暇潰しになりそうだ。

 カスタネットやライアー、ピッコロにトライアングル――。

 あとは……トランペットとか? サックス?

 大きすぎても邪魔になるし、細かい構造なんて覚えていない。


 あぁ、でも。

 リラがヴァイオリンを弾いている姿は見てみたい、な。

 

 魔氷晶で作った、ガラスのようにキラキラとしたヴァイオリンを、優雅なドレスを纏ったリラが弾いている。ドレスはオフショルダーで、腰にリボンを巻いているんだ。色は夜空を纏ったような藍色のもので、ビーズが上品に光っている……。

 そんなことを考えながら、わたしは深い、深い眠りへと落ちていった――。


 

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吟遊詩人系リラちゃん……よき!
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