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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
幕間

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幕間4:月のように青い彼女のお話

この挿言(エピソード)はまぁ……はっきり言って蛇足だ。だからそう。気にしてくれなくてもいいよ。

これはボクのちょっとした……独白という名の懺悔なのサ。

 キミにはこの世界が、美しいものに見えただろうか。もしもそうだと言うのなら、この純粋はその鈍感さのおかげだろう。

 いつか、誰かがボクを嗤ったんだ。


『優しさと幸せで塗り固められた偽りの世界で、いったい誰が本当に幸せになれるというんだい?』とね。


 ボクも参ってしまった。

 彼女たちはまるで鳥籠に閉じ込められたカナリアのようだった。空を知らない小鳥は、幸せだと言えるのだろうか?

 幸せになることを望まれて、書かれた台本(うんめい)に沿って役割(じんせい)(いき)るだなんて。そんなもの、まるで奴隷じゃないか。


 吟遊詩人(ルシア)嘘つき(ライアー)だ。

 いつだってその巧みな弁舌と(うつく)しい歌声でどんなに些細なことでも壮大なドラマにしてしまう。

 酒場の諍いでさえも、鮮血を赤いリボンにして騎士と謳う。騎士たちはそれを身につけるだけで名誉が降って湧くように剣を奮う。

 ボクらは心の底で酔いしれた華やかさを嘲笑い、これらまやかしの存在を否定しながらも自身のありもしない地位を示すためにカナリアの喉を爪弾く。


 この世で最も貪欲な、燻り狂った吟遊詩人(ストーリーテラー)

 野に吹き荒ぶ亡霊のように命を攫い、遥か彼方の理想郷で黄金の林檎さえ齧らずにただ頭を(もた)げて花梗(かこう)を眺める。晩餐へ群がるハエに謁見を赦し、過ぎた知恵に呻かせる。

 それがボクだ。


 最古より語られる聖樹の神話ミュトス・シンシアは死んだんだ。炎に包まれる世界でたったひとりの家族を残し、またかつての家族に喰い殺される。


 今まで積み上げてきた本棚にはもう手が届かず、背伸びしたところでこれまでの膨大な時間を振り返るにはあまりにも心もとない。どのような本を置いたのかさえ忘れ去られた本棚に、存在価値はあるのだろうか。

 見て見ぬ振りをしてきた果てなき旅路の足跡、忘れ去ろうと思い出という名の本にしまい込んだ記憶の数々を傷んだ毛布を捨てられない子供のように大切に羽織って歩いてきた。


 すべての本に別れを告げ、すべての本を受け入れる。だとしてこれに意味はあるのか? 無造作に手にとった偶然の出会いに、繋がりを見いだせる運命がどれほどあると言うのか。積み上げられた本棚を崩さずして、どうやってそれらを並べ替えると言うのか――。

 



 ◆


 

 

 突然なのだけれど、キミたちはサファイアに込められた意味を知っているだろうか?

 サファイアの石言葉は「誠実」「慈愛」「徳望」とされ、叡智を授ける石とも云われる。平和を祈り、一途な想いを貫くという言伝もあれば、神々の恩恵や慈愛を受け精神の再生をもたらすと信じ、聖職者や賢者にこそ相応しい玉などと謳われる。

 

 古来より、人々は大地を踏みしめているこの世界は巨大なサファイアの上にあり、空の青さはサファイアの大地を映した色であると錯覚していたらしい。心を敏感に感じるサファイアは天候によって光り方が変わり、それらを映したのが空なのだと。


 キミたちも痛々しい大地に寝転んで見上げるといい。母の温もりはとうに褪めて、監獄の無機質な狭い部屋が恋しくなってくるだろう。ミニマリストが心を捨てて目の下に広がった青ざめた血が不死を与えると唆したんだ。

 かつて緑の手の者が肩にかけてくれたブランケットさえ街頭の首に渡してしまった。火が雷に掻き消され、大地を割った。奥底に見える色は青かったかい? きっと赫々とした怒りが見えたことだろう。

 神々の黄昏に煌々と輝く天狼が星を堕とす刻、今までの巡礼は無駄だったと嘆くのだろうか。


 いやなに、すまない。

 こんなことを話したいワケじゃあなかったんだ。

 どうも、ボクは話を逸らしてしまうきらいがあるらしい。


 そう、青い彼女、サフィについてだ。

 ボクは彼女に第二の生を與えたワケだけれど、どうしてスライムなのかとキミたちは疑問に思っていることだろう。

 まぁわかりやすく簡潔に言うのであれば、彼女はスライムに似て非なる存在というワケなのサ。ボクが言ったことを覚えているだろうか。

『水の精霊の幼体であり、核となる存在である』と。

 つまるところ彼女は精霊の子供(スレイ・ベガ)、スライムだというのは誤認だよ。元より精霊に容貌なんてないだろう? かのウィンディーネだってただの水の塊サ。

 人間至上主義も困ったものだね。神までもが人々に寄り添うなどと――ああ、すまない。また話が逸れるところだった。


 サフィはボクらが望んだ通り、優しい仔に育ってくれているようだね。それこそサフィの名に相応しいと思わないかい? 聖母の象徴とされた宝石の名を冠する少女が、その名に恥じない愛を持ってくれるのは嬉しいけれど、些か心配でもあるね。優しすぎる仔は自分のことを疎かにしてしまう。

 ボクらはそうなることを望んでいるワケじゃあない。慈愛に満ちて世界を愛してくれることは願っているけれど、一番は彼女が世界から愛されることなのだから。

 ツラい思いをしてほしくないと思うのは残酷なのだろうね。だけれど、はやり親としてはそう願ってしまうものだとも。


 これからキミは、様々な困難に立ち向かうことになるのだろう。立ちはだかる受難が、キミを苦しめるのだろう。ボクらはその嘆きに手を差し伸べることはできないけれど、忘れないでいてほしい。

 ボクらの愛しい彼女。

 ボクらはキミを、愛している――。

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