幕間3:ちょこっと甘い?
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立春、二月四日がエフェリアの誕生日だとすれば、十日くらい日を過ごせば二月十四日、バレンタインデーだ。
ブルーベルの誕生日は二月六日であることは……この際考えないでおこう。
この世界にカカオ――チョコレートなるものがあるか、未だ定かではないけれど、夢はいくら見たって損はない。
とはいえ、別にチョコレートに拘る必要はない。義理チョコ以外にも単純にお菓子パーティーをする。なんてこともある。気持ちを伝えるということに重きを置くのであれば、心を込めて作ったモノをプレゼントする日である。そう解釈してもいいんだ。
端なくも暦を知ったサフィは、そんなことを考えていた。だけれど、哀しき哉。どうも特別な日というものは食べ物が密接に関わっていることが多いらしい。気持ちを込めたプレゼントといっても、服飾品ばかりでは味気ない。リラとエフェリアとは日常的にそういったものを贈り合ってしまっている。
だとすれば、他になにを贈ることができるだろうか。
魔氷晶や木片で小物を作ってもいいかもしれない。うまく作れるかどうかは別として、スノードームやオルゴールなんかはふたりとも好きそうだとサフィは考えていた。
だけれどやはり、スノードームは時期が過ぎてしまっているし、オルゴールは詳しい内部構造を知らない。なにかバレンタインらしいものを作りたいと思っても、頭に浮かぶのはチョコレートとリボン、そして甘ったるい香りばかりだった。
難しいことは考えずに、魔氷晶を飴玉のようにしてしまうのもいいかもしれない。魔力が主食である妖精や精霊にとって、魔氷晶はご馳走だ。飴細工ができたらなぁ。と、考えたところで、それがオブジェと全く変わらないことに気が付いて苦笑した。
魔力で作った服飾品もすべて、食べることができるのだと思うと少し変な気分になる。
でもまぁ――。
特別である必要なんてないのかな。
サフィは結局、そんな陳腐な結論に至ってしまった。いつもと変わらない日、いつもと変わらない贈り物。別にそれでもいいじゃないか。
ただそれでも、今日は少しソレに因んだ贈り物をしよう。スカーフにハート柄を縫ったり、思い切って淡桃色にしてみたりしてもいいかもしれない。
そんなことを考えていた。
いつものように泉の畔で空を仰いで、草花に頬をくすぐられる。
リラとエフェリアの透き通るような黄色い笑い声が聞こえてくる。水が撥ねる音、布が擦れる音。彼女たちに釣られて草花も身体を揺らして咲っている。
「サーフィー!」
名前を呼ばれて、身体を起こした。
泉の向こうでは、元気よく手を振っているリラとエフェリアがいる。一緒に遊ぼうと誘ってくれているのだろう。
サフィは口を綻ばせて、目を細めた。
「今行くよー!」
少し駆け足で彼女たちの元へ行こうとすれば、ふたりは背を向けて逃げていく。リラはスカートの裾を持ち上げて、サフィを誘うように振り返りながら泉の上を跳ねていた。エフェリアはその隣で一緒になって飛んでいる。
サフィはその誘いに乗りつつも、すぐには捕まえずに追いかけっこを楽しんでいた。近づけば離れていって、離れ過ぎたらまた誘う。
楽しそうに咲う彼女たちをいつまでも眺めていたくて、ついつい手を抜いてしまう。そうして何回か焦らされた後、リラの方からサフィの元へ捕まりにくる。
その温かな胸に飛び込むように水面を蹴って、大きな波紋を広げさせる。勢いよく飛び込まれたサフィは転んでしまわないように、衝撃を逃すために回転しながらリラを受け止める。
そして、泉に白いスカートの花が咲く。
「ふふっ、捕まえた」
「あーあ、捕まっちゃった♪」
サフィはリラに頬擦りをして、走り回って乱れた髪を、頭を撫でるようにしながら指で梳いた。
「もう、自分から捕まっちゃったら意味ないじゃない」
エフェリアがリラの肩に降りて、頬をつついた。にへらと咲うリラに反省の色は見えるはずもなかった。サフィは少しばかり頬を膨らましているエフェリアの頬を指で優しくつつく。
「エフェリアも捕まえた」
そう言われてエフェリアは初めて自分の失態に気が付いた。キレイな目を見開いてその小さな手で口を覆う。その姿が愛しくて、サフィは咲った。
「もう! 今のはナシ!」
エフェリアはサフィの頭の上に飛んでいって、ポカポカと叩く。三人の少女たちの笑い声が空に溶けていく。今日という日もめいっぱい遊んで、オシャレをして、夜になったら一緒になって眠りに就く。
いつもと変わらない日を過ごす。
まぁ、それでもいいかな。
それでもいいじゃないか。
サフィも、ボクも。彼女たちの笑顔を見て、そんなことを思ったんだ。
次があったらちゃんとバレンタインしたいですね




