表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/76

幕間2:エフェリア、誕生日おめでとう

 森の雪がまだ溶けきらないような、寒さの残る朝だった。

 枝先に残る白は冬に咲く花のようで、雪桜だなんて呼ばれていたことを思い出していた。


 凍った大地の奥で、生命が目を覚まし始めていた。冷え切った土の下に眠りを続けていたそれが、僅かに身動ぎをする。雪の間から顔を見せて、春の訪れを感じさせる。

 暦の上では、今日が春の始まりだった。人の世界ではそう名付けられ、森の世界では名付けられる前から本能的に知っている日だ。

 冬がまだ空に居座りながらも退く準備を始めたことを、森の隣人たちは察していた。

 この日、森はひとつの生命の誕生を祝う。

 声を高らかに告げることはなく、花もまだ咲かせることはない。ただ、太陽が光をほんの少し長く地上に留め、その生誕を祝福してくれる。風も少しばかり、優しく頬を撫でてくれる。そんな日だ。


 ——立春。


 それは、エフェリアが生まれた日だった。

 光の粒子のような、精霊の仔供(スレイ・ベガ)が「おめでとう」と囁いている。彼女たちは蛍のように光っては消え、宙を漂って風に揺れて咲っていた。

 

 とは言え、彼女は誕生日などという概念を持ち合わせてはいない。なにせ彼女、エフェリアは春の妖精スプリング・エフェメラルだ。春を告げる小さな彼女たちは地上で冬を越すことはない。大地の布団を被って、来るその時まで眠りについているのだから。

 

 では、エフェリアは?


 彼女も冬を越すことはできないのだろうか。

 否、その心配はいらない。

 これより彼女はその名を授かる。いずれ個として認められる彼女が、枯れて消えてしまうなんてことはもうないんだ――。




 ◆




「おはよっ♪」


『おはよう』、『おはよう』と愛しい隣人たちがその身体を揺らして挨拶をする。エフェリアはあのヘンテコな精霊(サフィ)に出会ってから、そのかわいらしい(かんばせ)に花をよく咲かせるようになっていた。

 

 雪で作られた家は未だ顕在で、泉の畔に慎ましく鎮座している。サフィがその気になれば、いつまでもそのまま残しておくことができるだろう。その無垢な家の中を覗けば、ふたりの精霊が気持ちよさそうに眠っている。ベッドのヘッドボードにはキミたちのぬいぐるみが仲良く並べられている。

 青く冷ややかだった部屋に窓から射す薄絹の光が温もりを与え、そよ風が眠り姫たちの頬を撫でた。朝の訪れにサフィとリラも目を醒まし、夢から飛び立つために羽を伸ばした。


 クリスマスの次は新年、お正月ではないのか? キミたちは疑問に思うことだろう。確かに、それもあるかもしれないね。

 きっと彼女たちも雪で作った鏡餅を飾ったり、ブルーベルの除夜の鐘を聴いたりしたことだろう。ブルーベルの開花時期は春だって? まぁ早起きな仔だっているかもしれないじゃないか。


 彼女たちにも新年は訪れど、今はまだ年越し蕎麦やお餅、お雑煮なんてものを楽しむことはできない。満足に楽しめないというのに、無理をして楽しむ必要があるだろうか。

 ならばいっそのこと、次の年こそ今年の分までめいっぱい楽しめばいい。

 そうだろう?

 たくさんのヒトたちに囲まれながら、食卓を共にしよう。笑い合い、話に花を咲かせよう。寒さなんて忘れてしまうくらいに温かな夜を過ごそう。

 彼女たちには、そういう新年こそが相応しい。


『コホン……』


 ボクは口に軽く握った拳を当ててワザとらしい咳払いをする。

 少し熱く語りすぎたかな。


 ああ! そうだった。

 目醒めた彼女たちはいつものようにおはようのキスをしてね。泉の畔で顔を洗うんだ。そうしていつもより上機嫌なエフェリアを見て、彼女たちは訊いたのサ。


「エフェリア、なにかいいことでもあったの?」とね。

 

 サフィとリラが幸せそうな顔をしているエフェリアを見て、釣られて笑顔になる。気持ちよさそうに髪を梳かれながら、エフェリアは愛しい隣人たちのことをふたりに教える。


「みんながね、アタシにおめでとうって言ってくれてるの」

「今日はアタシの誕生日なんだって♪」


「誕生日?」


 目を見開いて驚くサフィとは対象的に、リラは首を傾げた。


「誕生日って言うのは、そのヒトが生まれた日のことだよ」

「この世に生まれてくれた特別な日としてお祝いするんだ」

「これからも幸せに生きてほしいとか、元気に育ってほしいとかってね」

「それでケーキっていう食べ物を食べたり、お祝いの気持ちとしてプレゼントを渡したりするの」

「今日がエフェリアの誕生日なら、エフェリアは今日の主役だね」


「ステキ! それじゃあ、わたしたちもエフェリアになにかプレゼントしましょ♪」


 そうして、今日という日は泉の畔でプレゼントを作る日にしたんだ。

 いつもと変わらないような、なんでもない日かもしれない。だけれど、彼女たちにとっては確かに特別な一日だったんだ。

 いつもよりも幸せそうな笑顔で、なんでもない話をした。それがどれほど幸せなことか、彼女たちは知っていたんだね。

 誰かのためを――家族のためを想ってプレゼントを作る。心を込めて作ったそれらには魂が宿るものだ。

 

 サフィは魔氷晶で作った花冠をエフェリアにプレゼントした。

 リラはその器用な手先で、エフェリアにぴったりな花のようなドレスを新しく編んで、プレゼントした。

 受け取ったプレゼントはどこか温かく、身体の裡から幸せな気持ちが溢れてくる。

 

 エフェリアは両手に大好きな家族からのプレゼントを抱えて、笑顔という名の花を咲かせた。

 

「エフェリア、誕生日おめでとう――」

 



誕生を2/4かブルーベルの誕生日2/6にするかずっと悩んでいるんですね。もう暦の概念がないなら2/4~2/6の間が誕生日ってことでいいですか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エブリデイがバースデイでもいいですよ!!! 毎日おめでとう♡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ