幕間1-3:真っ赤なお鼻のシカさん
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長らく感じていなかった、枕の柔らかさを頬に感じている。大きく息を吸い込むと花のようないい匂いとと共に、新鮮で冷たい空気が肺を満たしていった。
凝った身体を解そうと身動ぎをすると、布団の中に閉じ込めていた温もりが逃げていってしまって急いで出口を塞いだ。
寒さを紛らわせようとして、隣で眠っているリラの身体を見つけた。
このとき、サフィは寝ぼけていたんだね。いつもであったら恥ずかしがって抱きつくなんてことはしなかっただろう。だけれど、眠たそうな顔をしたまま、彼女はリラの髪に顔を埋めて、背中にぴったりとくっついたのサ。
柔らかくて、温かいリラのお腹に手を回して、少しの温もりも逃すまいと脚を絡める。好きなあの子の匂いと温もりに包まれながら、布団という名の巣に籠った。
そして、頭を動かしたことで枕元に置かれていたプレゼントが転がったんだ。その箱が身体を掠め、なんだろうと身を起こす。
目尻に湛えた夢の残滓を擦りとり、ボヤけた視界を明らかにする。鮮明になっていく視界に、両縁に金の糸をあしらった深緑のリボンに包まれた、真っ赤な箱を捉えた。
そのありえない光景に、サフィは目を見開いて固まってしまった。
プレゼントがある。
かつて見たことのある、プレゼントの見本のようなキレイなリボンと箱。子供の夢と希望が詰まった御伽噺の贈り物だ。
サフィは困惑と感動で、言葉が出てこない。ただ、ただそのキレイな箱に手を伸ばして、抱きしめたんだ。持ち上げたそれは軽かったけれど、サフィの胸は喜びに満ちていた。
耳に近づけて箱を振って、中身を確かめようとする。しっかりと緩衝材が詰められているのか、どのようなものが入っているのか予想することは叶わなかった。
そして、サフィはふたりの眠り姫の存在を思い出した。今すぐにでもこの喜びを分かち合いたい。この感動を知らせたい。
そう思って、気持ちよさそうに夢を見ていることさえお構い無しに、乱暴に身体を揺すったんだ。
「リ、リラッ! エフェリアも……っ!」
「起きてっ! 早くっ! サンタさんが来たんだ……っ!」
自分でも、有り得ないことを言っていると分かっている。けれど、コレは確かにサンタさんの仕業に違いなかった。
自分たちでは作ることのできないキレイな箱が、なによりの証明だった。
「ふわぁぁ……もう、まだ眠いのに……」
「サフィ……おはよ……」
「ん……どうしたのン……?」
リラも、エフェリアも眠たそうに目を擦りあくびをする。女の子座りをして手を付いている姿はかわいらしいけれど、サフィにはそれよりも見てほしいものがあった。
「ほら! 見て! プレゼント!」
さっきまでの眠気はもうどこにもなく、目を輝かせて興奮気味にプレゼントを見せつける。リラとエフェリアもその見たこともないキレイな箱を見て、目を覚ましたんだ。
「まぁ……! サンタさん? 本当に来てくれたの!?」
「アラ、本当? アタシの分もあるのね!」
リラも自分の枕元にあったプレゼントを抱きしめて、口を綻ばせた。エフェリアはプレゼントの上に乗って、箱を撫でていた。
「ねぇねぇ! 開けてもいいかしら!」
「はやく開けましょうよ!」
「じゃあみんなで一緒に開けてみよう」
サフィがそう言うと、リラとエフェリアも頷いてリボンを解いていく。そうして、蓋に手をかけて今か今かと心を躍らせた。
「それじゃあ……せーのっ!」
その合図で蓋を勢い良く開ける。すると、色とりどりの紙吹雪が放たれて、真っ白な部屋を彩った。
そして箱を覗くと、それぞれの姿を象ったであろうぬいぐるみがいたんだ。
「これ……わたし?」
「見て見て! このコ、アタシにソックリよ!」
「ぬいぐるみだ……」
柔らかくて、かわいらしく簡略化されたぬいぐるみ。ひと目で自分たちだとわかる程には丁寧に作られていた。
――まぁ、ボクお手製のぬいぐるみだからね。当然だよ。
「ふふふ、ちっちゃいサフィ、かわいいわね♪」
「リラだって同じじゃない」
「アタシはなんだかまん丸になっちゃったわね?」
「そうだね。でも見てエフェリア、ぬいぐるみのわたしたちはみんな同じだよ」
サフィは少しばかり頬を膨らませて納得いっていないようなエフェリアに、ぬいぐるみのエフェリアと自分のぬいぐるみを並べて見せた。そして、そこにリラのぬいぐるみも並べる。
みんな一緒の大きさで、手を取りあって座っている。
それを見てエフェリアも機嫌を直してくれたんだ。
◆
サフィはプレゼントの箱は大切に取っておこうと後片付けをして、身体の裡にしまっていく。そして自分の箱に緩衝材を詰め直そうとしたときに気が付いたんだ。
そう、ボクからの手紙にね。
ボクはそこに、こう書いた。
『愛しいボクらの彼女たちへ
やぁ、暫くだね。キミが元気にしているようで、ボクも嬉しく思うよ。コレは代理と言えども神である、ボクからの餞別だ。遠慮なく受け取ってくれたまえ!
これからもキミたちの旅路が、野花の咲き誇る輝かしい路であることを願っているよ』
サフィはその手紙を読んで、照れくさそうに咲ったんだ。
素直じゃないね。でもまぁ、そんなところもボクは愛しく思うよ。少なからず、キミが喜んでくれたという事実が、ボクとってはかけがえのないプレゼントだとも。
「ありがとう、ございます」
そう、サフィが口にしたのをボクは聞き逃さなかった。
天界の玉座で肘を付いてキミたちの世界を見ていたボクは、自然と口元を緩めたのサ──。
タイトルがあまり関係ない……? はい。




