40-2話:わたしたちの愛しい彼女
わたしは夏目漱石先生が大好きです。
今日が本当の……第1幕、最終話です。
最後までどうぞごゆるりとお楽しみください。
◆
「……リラ」
「なぁに――?」
お月さまに見惚れていたら、サフィがわたしの名前を呼んだの。
サフィはわたしの前に立って、わたしの目を真っ直ぐと見つめている。とても、真剣そうな目だったわ。
サフィのその息は寒さを我慢するように震えていて、手も、足もやっぱり寒そうに震えていたの。
そうして、片方の膝を付いて屈んだの。
「――――――」
このポーズを、わたしは知っている。
いつか見た冒険者さんたちがしてくれたもの――。
その後に続く言葉は、いつも同じものだった。
「リラ――」
「わたしと……」
「どうか……結婚、してほしい――」
差し出されたサフィの手は、さっきよりも寒そうにしていて、必死にその震えを我慢しているようだった。手を広げると、とってもキレイな指輪がそこにはあったの。
月明かりに照らされて、淡く光っていた。魔氷晶で作られた指輪だった。
わたしは両手で口を覆って、声が出せないでいた。
――嬉しい。
嬉しくて、たまらないの。
それなのに、声が出ない。この気持ちを今すぐにでもサフィに伝えたいのに、喉元でたくさんの『嬉しい』が押し寄せて、詰まってしまった。
お胸が苦しい。
お顔が熱い。
こんな気持ちは、今まで感じたことがなかった。
嬉しくて、苦しくて、涙がほろほろと溢れ出して、頬を伝って溢れてしまった。
「あっ――」
「うぅっ――」
息ができなくて、言葉が出せない。やっとの思いで出てきたそれは、嗚咽となってしまって、この気持ちを伝えることはできそうになかった。
それでも、なんとか差し出されたサフィの手を取って、握りしめたの。顔を見られるのが恥ずかしくって、おでこを当てて俯いたの。
「ひっぐ……ゔゔ……ッ!」
「サフィ゙……ッ!」
「あ゙り゙がとぅ……っ!」
わたしはあまりにも情けない顔で、声で。なんとか気持ちを絞り出したの。
「わたし……っ! わたし……っ! うれしぃ……っ!」
顔を上げて、サフィの顔を見てみたら、サフィも泣いてしまっていたの。
表情はなにも変わっていないのに、その大きくてキレイな目から大粒の涙がいっぱい溢れていた。
わたしは堪らなくなってしまって、サフィに飛びついて、今までで一番強く抱きしめた。
サフィがもう寒くならないように、その震えが止まってくれるように、わたしのこのどこからともなく溢れてくる熱を分けてあげようとした。
サフィの涙が、わたしの肩に染み込んでいく。熱い、熱い涙だった。サフィの肩にも、この熱い想いが伝っていく。
サフィはわたしのことを優しく抱きしめてくれた。サフィの手はまだ震えていて、何故か嗚咽を漏らしていた。
「よがった……っ! よがっだぁ……っ!」
「――っぐ……ゔゔ……ッ!」
「……ずっと! ずっと怖がっだ……っ!」
「受け取ってもらえないんじゃないかって……っ!」
「そんなことない……っ!」
「わたし、わたしずっと待ってた……っ!」
「わたし、結婚するならサフィがいい……サフィじゃないとイヤよっ!」
大切なヒトと誓いを立てて、本当の家族になれるのなら。
大切に思って、一緒に生きていこうって言ってくれるなら。
わたしはサフィとそうしたい。
もちろん、エフェリアとも。
「サフィ……わたしからもお願い、わたしと、結婚して……っ!」
サフィが潰れてしまうんじゃないかってくらい、強く、強く抱きしめたの。
もう二度と離したくないと思って、身体がくっついてひとつになってしまうくらいに強く。
「ゔぅ……っ! わたしも、リラと結婚したい……っ!」
「リラじゃないとイヤなの……ッ!」
わたしはその言葉をサフィの口から聞くことができて、とっても嬉しく感じた。その途端に身体が熱くなっていって、心臓の音もどんどん大きくなっていくのがわかった。
わたしたちはお互いに抱きしめ合って、涙を流して泣いていた。
もう、不安に思うことなんてなにもなくって、安心しているはずなのに、涙は止まってくれなかったの。
嬉しいはずなのに、幸せなはずなのに。
わたしたちはその熱と匂いを求めてくっつき虫になっていた――。
◆
「――落ち着いた?」
サフィは仰向けになって、わたしを胸に抱いていた。鼻をすすって、背中を撫でてくれている。
「――うん」
わたしはサフィの心臓の音を子守唄にして、この熱い気持ちが収まっていくのを待っていたの。
「じゃあ……そろそろいいかな」
「……どうしたの?」
「……その、ほら」
「指輪を受け取ってほしいの」
「わたしたちが愛しあってるよっていう証の……」
「うん……ちょうだい。わたし、ずっと大切にするわ」
わたしたちは身を起こして、泉の上で女の子座りをした。お互いに向き合って、おでこを合わせたの。
サフィが大事に握りしめていたその指輪は、掌の上で淡く光っていて、プリズムがわたしたちの顔を色づけたの。
サフィはわたしの左手を選んでとって、薬指にそのキレイな指輪を嵌めてくれた。
「――キレイ」
その指輪には小さなお花があしらわれていて、とてもかわいらしかった。リングは透明な若葉色をしていて、お花は真っ白だった。その中心にキメ細かく削られた魔氷晶が嵌め込まれていて、キレイだったの。
「……どうかな」
「気に入ってくれたならいいんだけど……」
「えぇ、とってもステキ……」
「ありがとう――」
そしたら、身体の裡がぽかぽかしてきて、わたしたちは淡く光っていた。月明かりがわたしたちを祝福するように包んでくれているんだと思った。
名前を付けあって加護を授かったときと似ている気がする。
わたしはその気持ちを伝えるように、指輪が嵌められた手を優しく包みこんで、抱きしめるようにしてみせた。
もしかしたら、わたしはサフィに紅くなった顔を見られてしまうのが恥ずかしくって、指輪から溢れる光を遮ってしまいたかっただけかもしれない。
でも、それでも。
この抱いた熱い気持ちは本当で、サフィのことを愛している気持ちは本物なの。
「サフィ……」
わたしはサフィの頬に手を当てて、顔を上げさせた。
そして――。
そのふっくらとした唇に、わたしは熱い、熱い口付けをした――。
何度も、何度も想いを重ね合った。
いつもは頬に軽くするだけだったのに、今はもう構わないというように、求め合うままに――。
満天の星空の下、月明かりに祝福された、命が芽吹く季節の夜に。
ふたりの精霊の少女が、永遠不滅の愛を誓いあったの――。
◆ 第一幕 閉幕 ◆
ご読了ありがとうございました!
これにて第1幕を閉幕いたします!
たくさんの応援、ありがとうございました!
次回、第2幕にご期待ください!
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