39話:魔法を解かれて
残すも後2話(前半・後半)となりました……!
第1幕、チュートリアルが閉幕し、本編が始まる……かもしれません。
「……わたしはもう、大人なんだから――」
「そんな、そんなの――」
「………………」
「赦されない……」
わたしは消え入るような小さな声で、震えるそれを押し出した。
「喩え其が赦さなくても、わたくしが赦しましょう」
「其があなたを罰すると言うのなら、わたくしが代わりにその罰を受けましょう」
どうして……? どうして彼女は、こんなにもわたしを想ってくれるのだろうか。わからない。
そんな些事……そう、些事だ。どれだけ気にしたって初めから答えなんてないもの。
そんなものに悩んで、わたしは何を確かめたいのだろう。
「……どうして」
「あなたを愛しているから――」
「……どうして」
「まだ、仔どもだから――」
「……わたしは子供じゃない……もう、大人にならないと」
「それでも――」
「…………」
わたしは息を殺して泣いた。
息が震えて、微かな嗚咽が不規則に漏れ出ている。
いくら考えても、答えはでない。この誘惑に素直に負けることができたなら、どんなによかったことか。
ヒトは理性ではどうしようもない衝動に駆られ、間違いを犯す生き物だ。
だから。
これはもう、仕方のないことなんだ。
わたしには背負い切れない、重すぎる運命だったんだ。
だから、甘えてしまえばいい。
彼女の愛に溺れて、楽になってしまえばいい。
他の誰でもない、森の母がわたしの母親となって、甘えていいと言っているんだ。
拒絶する理由なんて、端からないじゃないか。
そうやって、わたしはむりやり自分を納得させようとした。
本当は今だって逃げてしまいたい。
それが最も簡単な、不誠実で卑怯な選択だから。
――でも、なぜだろう。
肩が軽い。足枷が、手枷が。今まで知らないうちに背負っていた重荷が砕けて、苦痛から解放されたような気分だ。
どうやらもう、わたしはひとりで全てを背負う必要はないらしい。
わたしのことを受け止めてくれる母がいるというのなら。わたしはもう少し……甘えてしまってもいいのだろうか。
……わたしは重荷を降ろしたというのに、脚が震えてしまって、その場に座り込んでしまった。
膝をうちに曲げて、少女がみっともなく泣いてしまうように、わたしの目からは大粒の涙が留めなく零れていたんだ。
ドルアンティアはわたしに歩み寄って、また、腕に抱いた。
このヒトが傍にいると、おかしくなってしまいそうだ。
どんな怒りも、どんな哀しみも、その腕に抱いて包み込んでしまう。
わたしは彼女がわたしのことを受け入れてくれたことに安堵して、ずっと波打っていた心の壁が決壊してしまった。
裡側にむりやり抑え込んでいた感情が波濤となって溢れ出し、今まで築き上げてきた感情という名の街並みを呑み込んでいく――。
全てが台無しになっていく。高く聳えていた摩天楼でさえ、その波には敵わなかった。
「ゔぁ゙ぁ゙ぁぁぁ……あ゙あぁぁぁああぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙ぁ゙――……!」
「――ひっぐ……あ゙ぁ゙ぁ゙あぁぁぁ゙あ゙ぁ゙ぁあ゙あ゙ぁ゙――……!」
かつてない程の哀哭だった。心の叫びだった。
ずっと、ずっと前から、心は叫びたがってたんだ。
そして今、それがようやく叶った。
我慢する必要はないのだと悟って、気が済むまで泣き叫んだ。
「――サフィ……今までよく頑張ったわね」
「もう、もう大丈夫よ……」
「わたくしがいるんだもの……我慢しなくていいわ」
「ひとりで頑張る必要はないのよ」
「わたくしも、リラも……それに小さなあの仔もいるでしょう?」
「頼っていいのよ……家族なのだから――」
今まで溜め込んできた涙が枯れるまで、わたしは泣き続けたんだ。
わたしの涙がドルアンティアの無垢な服にたっぷりと想いを伝えた頃、彼女はそれまでずっと、わたしの背を優しく撫でてくれていた。
「……落ち着いた?」
「……うん」
「もう、大丈夫?」
「………………わからない」
「じゃあ、もう少しこうしてましょうか」
わたしはドルアンティアの膝の上に乗せられて、座ったまま抱っこをたれたような姿勢になった。
母の温もりが、全身に伝わってくる。ギュッと抱きしめると、とても柔らかくて、心地よい。
恥ずかしい。
恥ずかしいけれど、涙で腫れた顔を見られるよりはいいかな。なんてことを思っていた気がする。
鼻をすする度に、お母さんのいい匂いがする。彼女の肩に頭を乗せて、その長くキレイな髪に顔をうずくめる。
ずっと、嗅いでいたい。この優しい匂いに溺れてしまいたい。
けれど、それだけはどうしてもできそうになかった。
「――ねぇ、ドルアンティア」
「……ママとは……呼んでくれないのね」
「………………」
「今はまだ、無理」
わたしは小さな白い花たちに目を落とした。
「……家族になってくれて……ありがとう」
「あと、愛についても」
「いいのよ……わたくしからも、ありがとう」
「……うん」
「わたしと家族になったなら、リラと……エフェリアとも家族……だよね?」
「えぇ、そうね」
「みんな、わたくしの愛しい仔たちよ」
「じゃあ……これからは会ってくれるの……?」
「……そうね。近いうちに、逢いにいくわ」
「そう……」
「じゃあ……そろそろ帰らないと」
そう言って、わたしは立ち上がろうとドルアンティアから離れた。
彼女はそれを拒むことなく、ただ名残り惜しそうな顔をしていた。
「もういいの……?」
「……うん」
「あなたの愛は、充分に受け取ったから」
「……もう、大丈夫」
「いつでも、戻って来ていいのよ」
「……うん」
「……ありがとう、ママ――」
ドルアンティアは目を細めて、咲った。
わたしの顔は紅くなっていただろうか。もしかしたらまだ涙の跡に隠れて、よく分からなかったかもしれない。
そうであってほしいと思った。
ドルアンティアはわたしの頬にキスをした。
「サフィ――」
「行ってらっしゃい――」
昼下がりの深い、深い森の中。小さな白い花たちが微かに揺れて、鈴のようなキレイな音を響かせていた。
その音はわたしのことを元気付けてくれているように感じたのは、きっと、気の所為ではないような気がしたんだ――。
次回は最終話(前半)です!
今まで応援していただきありがとうございました。
普通にまだ続きます。
だってねぇ? チュートリアルだし……
ご読了ありがとうございます!
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