36話:愛ってなぁに?
今回はリラちゃんが愛について考えるそうですよ。
少し肌寒い気がして、身震いをする。そして、腕に抱いていたはずの温もりがないことに気がついて、ゆっくりと目を開けたの。
太陽が少し眩しくて、手をかざす。身体を起こしてみて、サフィがいないことに気がついたの。
右を見ても、左を見てもサフィはいなくって、なぜだか喉がしまって、苦しくなってしまった。
胸は冷たくなっていくのに、頭は熱くなっていくようで、頬にその熱いものが流れていきそうだった。
「サフィ……?」
名前を呼んでみても、返ってくるのは草木の囁きばかりで、あの優しい声は聞こえてこない。少し前まではサフィがいなくなってしまっても、帰ってくるとわかっていたからこんな気持ちになることはなかった。
なのに、今はどうしようもないほど寒く感じてしまう。
両手で自分の身体を温めるように擦ってみても、全然温かくならないの。お日さまだって温かいはずなのに、今はとても冷たく見える。
「アラ、やっと起きたのン?」
「もう、お寝坊サンね」
「うん? どうして泣いているのン?」
鈴のような声をしたエフェリアが、首を傾げながらわたしの顔を覗く。わたしは顔を擦ってその気持ちを隠そうとした。
「泣いてないもん……」
「アラ、泣いてたじゃない」
「リラったら、まだ弱っちいままなのネ?」
「……ねぇ、サフィ、どこ行っちゃったの?」
わたしはちょっぴり不貞腐れるようにそっぽを向いたまま、エフェリアに訊いてみた。
「もう、スネないで? ほら、アタシがナデナデしてあげるっ」
エフェリアはそう言うと、わたしの意見を聞かないで頭に寝そべったの。
「サフィはママに会いに行くンだって」
「ママ……?」
「アラ、リラも知らなかったかしら?」
「……うん」
ママって誰だろう。サフィにはママがいたのかな……? でもサフィは神様が連れてきてくれたから、もしかして神様に会うのかな?
そう思ったのだけれど、エフェリアの答えは違っていたの。
「ママはみんなのママよ。この森のママ! アタシのママで、サフィのママで、リラのママでもあるわ?」
「リラはママに会ったことはないのン?」
「……うん」
「……ねぇ、サフィはどうしてその……ママに会いに行ったの?」
どうしてひとりで行ってしまったのだろうと思った。会いに行くならエフェリアも、わたしも一緒にみんなで行けばいいのに……。
わたしは泉から離れて時間が経ちすぎると消えてしまうけれど、少しくらいならお出かけはできるもの。
それに、わたしが起きてからでもよかったじゃない。そんなことを思ってしまった。
「うーん……『愛』について訊いてみたいンだって」
「サフィったらヘンテコよね」
「リラは『愛』ってなにかわかる?」
エフェリアにそう言われて、少し考えてみる。けれど、あらためて考えてみると、わたしは愛についてよく知らない気がしてきた。
サフィのことは大好きだし、愛している。もちろん、エフェリアのことも。
でも、『愛してる』って、なんだろう?
冒険者さんたちは、好きな人のことを大切に想うことだって、言っていたと思う。わたしもそう思う。
……けれど、サフィが言っていたことが気になる。
『……たぶん、この愛は寄り添うように温かいものじゃないんだ。燃えるように熱くて、心を乱すように波打っているの――』
あのときサフィが言っていた愛は、わたしは知らない気がする。
サフィはその愛について、ママに訊きに行ったのかもしれない。
わたしは遠くに流れる雲を見つめながら口にする。
「……ねぇ、エフェリア」
「なぁに?」
「燃えるように熱くて……心を乱すように波打つ愛って……なぁに?」
「リラったら、サフィみたいにムズかしいことを言うのネ?」
「それはほら……恋よ! 恋!」
「愛も、恋も大切に想って、ずーっと一緒にいたいって思うことだケド……」
「愛よりも、恋の方がずっとずぅっと熱いわ!」
「――アラ? もしかしたらサフィ、これを知りたかったのかしら?」
「恋……?」
「そ、恋」
「大好きなヒトのことを考えるとねン? 身体が熱くなっちゃって、一緒にいたいなーって思うでしょ?」
「それが恋!」
「アタシも、リラとサフィに恋しちゃった!」
「きっと、サフィもリラに恋しちゃったのネ?」
「リラはどうかしら?」
「リラもサフィに恋してるのン?」
どうなのかしら。
わからない。
サフィは大切な家族で、側にいてほしいって思う。一緒にいると温かくて、安心する。
わたしはサフィと過ごしているときのことを思い出してみることにした。
朝起きたら髪を梳いて、オシャレにする。手を繋いで一緒にお散歩をする。毎日のようにしていて、なんともないことのはずなのに、今思い出してみると、なんだか恥ずかしいような気がしてきた。
わたしはサフィと一緒にお散歩をしているとき、サフィの横顔を見るの。
どこか物憂げな顔をしていて、不思議だなぁって見ているの。水みたいに透明で、少し青っぽいような白い髪が透けていて、とてもキレイなの。いっつも、ついつい見惚れてしまうわ。そしたらサフィはわたしが見ていることに気がついて、小さなお花が背伸びするときみたいに咲うの。
わたしはその横顔が大好き。とっても優しい目をしていてね。深い、深い青色の目。気づかれないように、ずっと見ていたいのにサフィはわたしが見ているとすぐに気がついちゃって、咲ってくれるの。
嬉しいけれど、目を合わせるとなんだか恥ずかしくなっちゃって、わたしも咲って誤魔化すの。
顔が熱くなって、ドキドキしてしまう。
もしかしたら、それが恋なのかもしれない。
「わたし……恋、してるのかしら……」
「サフィを見ているとね、胸がドキドキしちゃって、お顔も熱くなっちゃうわ」
「ねぇ、エフェリア」
「これは恋なのかしら……」
「アラ、やっぱりリラも恋してるのネ?」
「アタシは恋だと思うなー」
エフェリアはわたしの頭の上で寝転がって、両肘を付いて足をパタパタしている。
「そっか……恋、なんだ……」
わたしは草の上に横になると、エフェリアが落っこちそうになって声を上げて慌てて飛んでいく。エフェリアは怒っているけれど、今のわたしにはあまりよく聞こえなかった。
……サフィのことを考えてみる。
はやく会いたい。
一緒にいてほしい。
そんなことが頭の中をぐるぐると回り続けていて、自分の気持ちがよくわからなくなってしまう。
そしたら、どうして連れて行ってくれなかったの。とか。
どうして結婚してほしいってはっきりと言ってくれなかったの。とか。
わけのわからない気持ちとともに、色々なものが喉から込み上がってきてしまいそうになって、苦しくなってしまった。
その熱くグツグツとしたような気持ちが目から溢れて、頬を伝っていったの。
わたしは鼻をすすって、目を擦って、いつしか考え疲れてしまって――。
いつしか、夢の世界へと沈んでいったの――。




