32話:告白
告白……!?
――数日後。
数日後だ。
わたしたちは相変わらず追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたりして遊んでいた。
意外なことにわけがわからないくらい楽しい。
童心に帰った気分だった。いくら遊んでも飽きない。気を許している家族が一緒だからかもしれない。
そんなこんなでわたしの魔力感知はかくれんぼによって鍛えられ、リラとエフェリアの魔力の痕跡であれば完璧に捉えられるようになっていた。
こればかりはきっかけを与えてくれたエフェリアに頭が上がらない。
途方もないように感じていたかくれんぼは、瞬く間に見つけられるようになって、見つけられないかもしれないという恐怖や不安はなくなっていた。
簡単に見つかってしまうなら楽しくないのではないか?
そう思うかもしれない。けれど、わたしたちは隠れて見つかってしまうかもしれないという緊張感を楽しんでいるわけではなく、家族に見つけてもらえたという嬉しさや安心感を楽しんでいるようだった。
リラやエフェリアがわたしを見つけた瞬間に見せてくれる笑顔は、とてもかわいらしい。その逆も然りだ。
もしかしたら、精霊や妖精にとってのかくれんぼは、魔力の痕跡を見つけて追うための本能的な訓練なのかもしれない。そんなことを思った。
そして、今日という日もリラとエフェリアと一緒に遊んでいる。
わたしはリラに告白するという勇気を出せずに足踏みしていた。
そしてまた、今日もわたしは告白できずに、夜を迎えるのだった――。
◆
日はすっかり落ちて、夜の帳は小さな針を通して、空いた穴から星を縫い留める。空には満天の星と月が浮かび、湖光に照らしていた。
「……リラ、起きて」
「ん……サフィ……?」
「少し付いてきてほしいの」
「うん……エフェリアも?」
「ううん、寝かしてあげて」
リラは眠そうに目を擦って、夢の名残を吐き出すように小さな口をめいっぱい開けていた。せっかく眠っていたのに、起こしてしまうのは悪く思うけれど、なるべくふたりだけになりたかった。
突然の出来事でもエフェリアのことも気に掛けることができるリラは、エフェリアのことも本当に大切に思っているんだなと感じた。
わたしはリラの手を引いて泉の沖まで来た。泉は満天の星空を映していてとてもキレイだった。その中では魔氷晶が青白く光っていて、よりいっそう神秘的な雰囲気に包まれていた。
「……キレイね」
リラがわたしの肩に頭を預ける。腕にリラの温もりが伝わってくる。髪がくすぐったい。
「寒くない?」
「うん、大丈夫」
「サフィが作ってくれたこの服、とっても温かいわ」
リラにネグリジェを渡して以来、それをずっと着てくれている。汚れはすぐに落とせるから問題ない。嬉しいような恥ずかしいような、なんとも言えない気持ちがある。
わたしはキトン型のような服よりも着慣れているタイプの服だから、スリップとドロワーズも履いてネグリジェを着ていることが多い。
この前キトンのような服を着ていたときはリラも同じものに着替えていたから、もしかしたらお揃いがいいだけかもしれない。そんな考えがよぎった。
そんなこと……とまではいかなくても、今はそれよりも大切なことがある。
「……リラ、伝えたいことがあるの」
「なぁに?」
「その……ね。リラはわたしのこと……好き?」
「えぇ、好きよ……大好き」
「サフィはわたしのこと、好き?」
「……うん。好きだよ」
わたしたちは泉に座って、煌めく空を眺めている。ついた手が重なって、それをそっと握る。この時間が永遠に続くかのように、世界は静まり返っていて、わたしが言葉を続けるのを待っているかのようにも感じた。
夜の闇は深く、きっと、わたしの赤く染まった頬でさえ黒く塗りつぶして隠してくれているに違いない。それなら、あとは水面に揺蕩う葉のように、流れに身を任せてしまうべきなのだろう。
「……………………」
「……ねぇ、リラ」
「なぁに?」
わたしはどこか告白をしなくてもいい言い訳を探しているようだった。リラが外に出たいとは思っていなくて、ずっと泉にいたいと言うのであれば、わたしは告白する理由を失う。
だって、リラとは結婚なんてしなくてもずっと隣にいればいい。隣にいるだけなら、この変な気持ちはしまい込んでしまった方がいい。
「リラはさ、まだ……外に出てみたい?」
リラの握る手が、一瞬だけ反射的に強くなった。
わたしは、わたしのせいでリラにトラウマを植え付けてしまったはずなのに、そのことを都合がよかった。なんて思っていることに気づいてしまった。そんな自分がイヤになって、胸が冷たくなっていくのを感じた。夜で顔が見えなくてよかった。きっと、リラには見せられない顔をしているだろうから。
リラは煌めく星空を眺めながら、しばらく考えていた。
前までは目を輝かせていたのに、今は悩んでしまっている。
その事実が、冷ややかな視線を向けながらわたしの胸を締め付ける。
「……うん」
「わたし、外に出てみたい。サフィとエフェリアと一緒に、いろんなところに行ってみたい」
「……そっか」
また、沈黙が訪れた。
いつもは聞こえてくる虫たちの夜想曲も、なぜか遠くに感じる。音のない世界に、リラの息遣いと、僅かな水の音のみが聞こえる。
わたしは現実逃避をするように、紙のランタンに火を点けて空に飛ばしてみたいと考えていた。小舟に乗って、それを眺めるんだ。
そんなことを考えていても、夜は深くなるばかりでわたしの声を掻き消してくれるような不届き者もいない。
わたしは、わたしの肩に頭を預けているリラを抱き寄せて、膝枕をするようにした。リラはそれを受け入れて、わたしの頬を撫でた。
「どうしたの?」
わたしはその質問に答えることなく、リラを頭を母が慈しむように撫で返した。頬を撫でで、そのふっくらとした唇に指をかける。リラの肌はスベスベとしていて、温かかった。
「……リラ、わたしね。あなたのことを愛してる」
「えぇ……知ってるわ」
「わたしも、サフィのこと、愛してるわ」
「もちろん、エフェリアも」
「うん……だけど、ちょっと違うの」
「……たぶん、この愛は寄り添うように温かいものじゃないんだ。燃えるように熱くて、心を乱すように波打っているの」
「……………………」
「リラ、わたし……わたしと、結婚してほしい」
ないはずの心臓が激しく脈打って、苦しかった。熱かった。最後の方はほとんど声が出せず、詰まってしまっていた。やっとの思いで言ったはずなのに、わたしはわたしの情がわからなくなってしまった。
苦しくて、ワケがわからなくなって、涙が浮かんでくる。大粒の涙が頬を伝って、落ちた。
「……えっ?」
「……………………」
「ごめん」
「忘れて」
たぶん、わたしが泣いていたのはリラには見えていなかったと思う。今が夜で良かったと思う。泣いているところなんて、誰にも見られたくない。
「……戻ろっか」
「あっ……」
「ん……わかったわ」
リラはなにか言いたそうにしていたけれど、それを呑み込んだ。わたしはそれに安堵していた。そのことがどうしようもなく悔しくて、恥ずかしかった。
この前までは意気揚々と結婚のことを考えていたのに、いざ目の前にすると怖気づいて膝が震えて動けなくなってしまう。
あまりにも情けなくて、消えてしまいたくなる。このまま夜の闇に溶けて、いなくなってしまいたい。
けれど、そんなわたしを繋ぎ止めるようにリラが手を握ってくれている。
振り解こうと力を抜いても、リラは離してくれなかった。
エフェリアはまだ眠っている。
わたしたちはその隣で、背を向けるようにして眠るのだった――。
怒っていいですよ。
ご読了ありがとうございます!
いいねや感想をいただけると励みになります♡꜀(˶´꒳`˶ │




