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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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28話:秘密の特訓?

贈り物交換会はいかがでしたか?

今回はサフィの……独白でしょうか。たぶんそうです。

 リラとエフェリアと、気が済むまでめいっぱい遊んで、やがて空が抱いた青は緑から綻び、蜜を含んだ果実のように熟れて赤く滲み出した。沈みゆく太陽を背に、燃えるような羽を纏った渡り鳥たちが頭上を過ぎていく。

 果実で祝っていた空はやがて葡萄酒を取り出して、それを腹に満たしていった。地上のものは影を深く落とし、木々も眠りについていく。


 夜は突然には訪れない。それは慎重に、何枚もの薄衣を纏って身を隠す。星々はそれを縫い留めるように打たれた小さな針で、ひとつ、またひとつと夜を留めていく。

 そうして羊を数えていた空は目を閉じ、世界はようやく眠りについた。


 わたしたちは、エフェリアも一緒に眠れるように泉の畔で仲良く並んで眠っていた。

 静かな夜に、虫たちの夜想曲(ノクターン)が子守唄となっている。


 草花が柔らかなベッドとなってくれているけれど、わたしには少し固く感じてしまう。水のベッドや、羽毛の柔らかさが少しばかり恋しく思う。

 わたしは満天の星空をみながら、これからのことを考えていた。


 今日、アクセサリーを作ってみて、花で指輪を作ってみるのもいいと思った。

 茎や蔓を輪っかにして、花を宝石に見立てる。小さな葉っぱをあしらったり、蔓をうねらせたりすれば輪っかの部分もオシャレにできそうだと思う。

 

 どうせなら、ウェディングドレスも作ったほうがいいだろうか。いや、作りたい。作りたい、けど、今のわたしに作れるほどの技量はない。

 あの繊細なヴェールや装飾を作れるイメージが湧かない。

 その前にもっと練習をしたいけれど、そうなったらいつまでも作らないままでいる気がするし、リラのことをなるべく早く外へ連れて行ってあげたい。

 

 きっと、リラはいつまでも待ってくれるだろうし、リラにとって数ヶ月なんてあっという間なできごとだろうとも思う。けれど、その感覚に甘えてしまうのは違うと考えるわたしもいる。

 色々な考えが頭を巡って、地を這う蔓のようにこんがらがる。これではいけない。

 眼の前の課題を、ひとつひとつ解決していかないと……。


 そう、まずは!

 結婚指輪……いや、婚約指輪を作ろう。これは今のわたしでも作れるはず。

 わたしはリラとエフェリアを起こさないように、静かに起き上がる。

 輪っかの部分は細い植物の茎か、葉っぱを使う。宝石の部分、花の部分を魔氷晶にしようと思う。複雑な形は無理でも、小さく丸めるくらいならできる。

 材料なら無限と言ってもいいほど溢れている。

 

 デザインはどうしよう。

 あまり目立つようなものや、上下が決まってしまっているものは好きじゃない。完全にわたしの趣味だけれど、慎ましいものがいい。

 その慎ましさの中に繊細な装飾が施されているものが好きなのだけれど、その繊細な技術をわたしは持ち得ていないということが問題なんだ。

 ただの円柱を丸めたもの。薄い四角柱を丸めたもの。リングにしないで途切れているもの。いくつか単純な構造の指輪を作って、基礎を決めることにした。

 自然、植物をモチーフにするなら、リング状じゃない途切れたやつがオシャレで合っていると思う。


「モチーフにする植物はなにがいいかな……」


 静かな夜に答えを求めてみても、当然、返ってくることはない。

 モチーフにするなら、ヤドリギがいいと思っている。たしか、花言葉は『愛の約束』だったはず。それに、ヤドリギの下でキスをすると、結婚できるなんてお伽噺もあったと思う。

 

 問題点としてはヤドリギの形がわからないこと。

 実はたしか真珠のように白い粒だったから、魔氷晶で作れるとは思う。けれど、葉っぱの形を思い出せない。

 ただのゲン担ぎだし、誰も知らないだろうから拘る意味なんてないのかもしれない。けれど、そういった形のない想いは大切にしたい。その愛を伝えたい。

 

 わたしはリラが好きだし、愛している。その愛が家族愛であれ、友愛であれ、愛に変わりはない。

 燃え盛るように熱い愛じゃないかもしれない。

 心を奪われるような恋しい愛じゃないかもしれない。

 でも、たしかにわたしはリラのことを愛している。

 たった数日しか記憶にないかもしれないけれど、ずっと一緒にいたような感覚になる。

 実際、リラにとっては数カ月くらいは一緒にいたと思う。


 わたしのこの愛は軽薄だろうか。虚実だろうか。

 ただ優しくされたからという感情に騙された、無責任なものなのだろうか。

 リラの愛は嘯きで、気分よく外を歩くための口実ではないのだろうか。

 そんなことを考える。


「わからないなぁ……」


 その言葉が、延々と頭の中に巡る批判に対してなのか、指輪のことを言ってのことか、それさえも今のわたしにはわからなくなっていた。


 わたしが抱いた胸の高鳴りは嘘じゃないし、リラのために流した涙だって嘘じゃない。

 なら、わたしの愛は本物なんだ。ただそれだけでいいんじゃないだろうか。と。

 他の誰かの言葉がないのなら、わたしの抱いた、この胸を締め付けるほどに苦しい気持ちこそが、愛なのだと思う。


 ――女の子同士が愛してるだなんて、バカみたいじゃない?


 いつか聞いた、当たり前のようなその言葉が、今になっても胸に深く刺さっている。

 前世では一夫一妻制が当たり前になって、男女恋愛が当たり前であると決めつけられた。

 昔から語られる少年愛も異常だというのなら、どうしてそれが記録に残るのだろう。

 考えたくなんてないのに、いつでも頭の中を巡っている。

 子孫を残すのが生き物として当たり前の本能であることは認める。けれどそれを、他人に押し付けて強制して、矯正する権利が誰にあるというのだろう。

 

 わたしはわたしなのに。

 

 他の誰かが、愛について悩んだことすらない誰かが。

 わたしの愛を否定する権利なんてあるのだろうか。いや、あるはずがない。だから――。

 ……なんて。

 独裁者のような思考になっていく自分がイヤになって、また、わたしはわたしを嫌っていく。


 静かな夜は好きだけれど、体に障る。

 ひとりぼっちは答えのでない問いを延々と自問自答してしまうから嫌いなんだ。


 わたしは大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。

 手元にはキレイな婚約指輪がふたつ、できあがっていた。

 ヤドリギかはわからないけれど、かわいらしい指輪ができた。

 リラはきっと、喜んでくれるよね。と、わたしは微笑んだ。


 ◆


 ひとつ目の目標、婚約指輪を作る。は、無事に完了した。

 完璧とは言えない。たくさん時間を掛けたわけでもない。けれど、込めた気持ちは負けていないと、わたしは思う。だから、婚約指輪はこれでいいんだ。


 夜はまだ深く、泉に映った湖光が闇夜を描いた絵画のようで、美しかった。

 そういえば、いま着ているキトンのような服は開放的だ。開放的過ぎて、少し落ち着かない。特に胸の辺りがスースーする。

 蒸れないし快適ではあるんだけど、それ故に落ち着かない。


「肌着……うん、ブラジャーがほしい」

「スリップ(ワンピース型の下着)作ろうかな」

 

 スリップなら見られてもあんまり恥ずかしくない。パジャマの代わりにもなる。

 どうせならネグリジェも作ってみたいかもしれない。

 それよりも、まずは胸を支えるものがほしい。


「リラにも着けてもらわないと……」


 身体を模倣するときに確認した限りでは、リラは下になにも着けていない。

 あのキトンのような布一枚だけで過ごしている。

 それは女の子として少し心配になる。

 これから外に出てみるなら、せめて隠せるものは必要だと思う。

 胸の形をキレイに保つためにも……精霊であるリラに必要か否かは置いておいて、擦れると痛くなっちゃうだろうし、今後のためにも必要であるはず。

 

 魔力を編んで布にするのは、結構慣れてきた。

 リラほど早くできないし、慎重にやらないと失敗してしまうけれど、ゼロから服を織れるというのは、とても嬉しい。

 時間をかけて、ワンピース型にしていく。腰のあたりを少し細くして、脚にかけて広げていく。リラはきっといっぱい走るだろうから、丈は膝より少し長いくらい、七分丈にして、ゆとりをもたせる。

 胸を支える部分は、魔力の糸で固めて、形を整える。

 寸法はわたしの身体で測ってしまえば、リラとまったく同じだから問題ない。

 そうして、シルクのように滑らかで上品な光沢を持ったスリップができあがった。

 ひとつ作り上げてしまえば、身体が覚えてくれるから簡単……とまではいかなくても恙無く作り上げることができた。


「……エフェリアの分も作ろ」


 わたしは小さくなって、エフェリアのスリップも作ることにしたのだった――。



今はいい時代になってきましたね。

誰を好きになっても指をさされないようになってきましたから。


ご読了ありがとうございます!

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