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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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27話:交換会

いつか交換日記もやってみたいですね。

 太陽はまだ高くにある。

 春の陽気に誘われて、小鳥たちが歌っている声が聞こえる。


「もう交換会しちゃう?」


 みんな贈り物を作り終わって、誕生日にプレゼントを開ける前の子供のようにその時が来るのを今か今かとソワソワして待っていた。


「えぇ、はやくしましょ」


「アタシもいいわよ!」


 リラとエフェリアはもう既に喜びが顔に溢れてみえていた。


「じゃあ、まずはわたしからエフェリアに」

「野花の髪飾りと、シュシュを作ったよ」


「シュシュ? なぁに、これ?」


 エフェリアは喜びつつも、初めて聞く言葉に首を傾げた。


「髪をまとめたり、手や足に着けたりするとかわいいよ」

「ふわふわで痛くならない腕輪みたいでしょ?」


 エフェリアはわたしに言われた通り、腕に着けてみていた。その細く白い腕に着けられたシュシュは、最初からエフェリアの腕に着いていたかのように馴染んだ。

 花の色を映した淡い布は、エフェリアの動きに合わせてやわらかく揺れ、春の光を吸って仄かに温かくみえた。腕を少し振るだけで、花畑の一部が彼女と一緒に歩き出したみたいだった。


「……かわいい」


 エフェリアはそう呟いてから、少し遅れて照れたように笑った。自分の腕を何度も見返し、外しては着け直し、その感触を確かめている。

 

「気に入ってくれてよかった」


 その一言だけで、胸の奥にあった緊張が解けていく。作る時間も、選んだ花も、編み込んだ思いもすべてが今この瞬間のためにあったんだと遅れて理解する。


「髪飾りも着けてみて」


 エフェリアのためを思って作ったのは、なにもシュシュだけではない。髪飾りだって、エフェリアに似合う、かわいい仕上がりにした自信がある。

 エフェリアは片方の髪を耳に掛けて、その上に髪飾りを着けて止めた。

 両手で髪を止めるその仕草が、とてもキレイで見蕩れてしまいそうだった。


「……どうかしら」


 リラとわたしは、同時にかわいいと感想を言った。

 エフェリアは少し照れくさそうに、手を後ろに回してはにかんだ。


「次は、わたしの番ね」


 リラがエフェリアとわたしの顔を確認するように交互にみる。両手で大切そうに抱えていた藍色のリボンを、そっとエフェリアの前に差し出した。そのリボンは夜空のように深い藍色で、両端には細い蔓の模様が飾られている。


「これはエフェリアに」

「こっちはサフィに」


 どうやったらこんなにも繊細な装飾がなせるのだろうと感動してしまう。それくらいにキレイなリボンだった。


「リラ、ありがとう」


「ん……リラもありがと……」

「これ、どうやって着けたらいいのかしら?」


 エフェリアはしばらく黙ったまま、それを見つめていた。

 そのリボンは、エフェリアの身体の大きさには合わないほど大きかった。彼女の手から肘くらいまでの太さに、その背の倍くらいの長さがあった。

 エフェリアには大きすぎるし、彼女の髪型ではリボンを着けるのは難しい。なら、髪じゃなくて、体に着けてしまえばいい。


「腰に回してみたらどうかな」

「ちょうちょ結びにしたら、きっとかわいいよ」


 まずは横に半分に折って、細くする。それを前から回して、後ろで結ぶ。後ろでちょうちょ結びをして、横に半分で折ったところを少し崩せば、完成だ。

 着物の帯を結う感覚に近かったかもしれない。

 リボンの足元まで長く伸びたタレの部分がフリフリと揺れて、とってもオシャレだ。

 思わず歓声をあげたくなってしまうけれど、なんとか耐える。


「かわいい……」


 わたしのその声は、少しだけ震えていた。


「えへへ……そう……?」

「リラもどう?」

「アタシ、かわいいかしら?」


「うん、とってもかわいいわ!」

「サフィもはやく着けてみて」

「それとも、わたしが着けた方がいいかしら?」


「じゃあ……お願い」

「わたしじゃうまく着けられそうにないもん」


 わたしは後ろを向いて、リラに髪を梳き直して貰いながら待っていた。

 リラは鼻歌を歌いながら楽しそうに梳いている。時々エフェリアと一緒にどうやって着けたらかわいいかと相談しながら、何回も結んだり解いたりして、わたしの髪で遊んでいる。

 色々な髪型を試してくれているだろうに、鏡で見ることができないのがもどかしい。


「うーん……」

「ねぇ、サフィ」

「どんな髪型がいいかしら……」

「迷っちゃって決められないわ」


「じゃあ、昨日と同じ髪型でお願い」

「後ろで髪をまとめたところを、リボンで結んでみて」


 ハーフアップの髪型には大きなリボンがかわいい。一番シンプルでリボンそのものの良さを伝えられる髪型だと思う。

 リラは手馴れた様子でわたしの髪をハーフアップにアレンジしていく。一度しかやったことがないはずなのに、とても手際がよかった。


「でーきた」

「どうかしら」


「いいんじゃなぁい?」

「アタシはとってもかわいいと思うわ!」


「ふふっ……ふたりがそういうなら、間違いないね」

「じゃ、次はリラがリボンを着ける番だね」


「う、うん……じゃあ、サフィ、お願いね……?」


 わたしはリラがわたしに着けてくれたように、リラの髪をハーフアップにしてリボンを結んだ。


「はい、これでお揃いだよ」


「ん……どうかしら?」

「似合ってる?」


「えぇ、リラもかわいいわね!」


「うん、とってもかわいいよ」


 リラは褒められるのに慣れていないようで、ニヤけるように咲って、頬を手で押さえた。


「じゃあ、最後はアタシから!」

「リラ、横向いて?」

 

「……? こう?」


 エフェリアはリラの片方の耳になにかを着けると、もう片方の耳にも同じものを着けた。

 イヤリングだ。

 小さな鐘のような形をした白い花がリラの両耳に着けられた。

 リラは泉を鏡にして自分の姿を覗いてみる。顔を振る度に、チリリ、チリン。と、鈴のようなキレイな音が鳴る。

 

「キレイ……」

「あれ、でも、髪飾りじゃあないのね……?」


「始めはリラが言ってた通り、髪飾りにしようと思ったのよ?」

「でも、リラは髪飾りを持ってるし、今じゃリボンも着けているじゃない?」

「アタシのものも着けたら、お花畑みたいになっちゃうわよ」

「……髪飾りの方が良かった?」


「ううん、わたしのことを考えてくれたのでしょう?」

「ありがとう、エフェリア」

「この耳飾りも、とってもかわいくてステキだわ」


 少し俯いていたように見えたエフェリアも、その言葉を聞いて微笑んだ。

 誰かからの贈り物は、心が温められる。家族からの気持ちが籠もったものなら、なおさらに。

 それは春の陽気にも負けないくらい温かな、愛の形だと思う。


「天気もいいし、せっかくだから散歩しない?」


 わたしは、泉の縁に身を屈め鏡のような水面に吸い寄せられているふたりへ、そっと声をかけた。

 

 せっかくオシャレをしたんだから、じっとしているのはもったいない。見せるような観客はいないけれど、わたしたち自身の裡側に芽生える高揚がある。それに、リラやエフェリアには見てほしい。

 ふたりは同時に顔を上げ、元気よく返事をしてほとんど同じ調子で応じて立ち上がる。その揃い方がかわいらしくて、わたしは咲った。

 

 わたしはリラの手を取って、ゆっくりと泉の畔を歩く。エフェリアはリラの肩の上に乗っていた。

 足裏に感じる草の感触が少しくすぐったい。

 春の暖かなそよ風がリラの髪を揺らしている。リボンの長いタレも一緒になって溶け込んで、プラチナブロンドの髪に流れる藍色がいっそう映えていた。

 

 何を話すわけでもなく、ただ隣にいる。手から伝わるリラの温もりが心を落ち着かせてくれる。

 触れ合うほどに近い肩にワザと寄りかかって、押し返される。

 逆に寄りかかられて、押し返しもする。

 そんななんでもない時間が、一番幸せであるように思う。


 泉の上を歩いて、ホップスコッチを踏むように跳ねて波紋を広げる。

 それに続いて同じように跳ねて、後を追う。

 水を両手で掬って振りまくと、太陽の光を反射してビー玉みたいにキラキラと輝くのがキレイだった。勢い余ってリラとエフェリアにもかけてしまうと、みんなで水の掛け合いっこになった。

 いつしかそれは追いかけっこになって、少女たちの楽しそうな笑い声が空へ響いていった。


 ――この瞬間が、この時間が。


 ずっと続けばいいと、わたしは強く願った。

 意味づけを拒むほどに、ただ在るだけで満たされる時間。

 何にも囚われない、自由だったあの青い春の日を思い出す。


 泉に倒れ込んで、わたしたちは空を見ていた。エフェリアはわたしのお腹の上で大の字になっている。みんな息が上がって、笑いながら肩で息をしている。満足したと言うように、大きく息をついたんだ――。

 

ご読了ありがとうございます!

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