26話:家族へ気持ちを込めて
ようやくタイトルらしいことをします。
女の子はかわいくなってなんぼですからね。
リラとエフェリアは楽しそうに贈り物を作っている。
好きな花の話、好きな匂いの話。お昼寝が気持ちいいことなんかを話している。
こんな時間がずっと続いてしまえばいいとも思ってしまうほど、穏やかな春の陽気に耽っていた。
わたしはこの小さな身体よりも小さな花を掌に載せ、そっと魔力を流す。押しつけるのではなく、呼びかけるように。
花弁は微かに震え、柔らかさを失わないまま変質していく。
わたしの身体の中で溶かした魔氷晶を流し込んだ。すると、それは花の形、色をそのままに、ガラス細工のようになったのだ。
粘土をこねるように作らなくても、これならキレイなアクセサリーを作れそうだった。
試しにわたしは、リラの膝から降りて植物の種を想像して魔氷晶を作り、地面に埋め込んで見る。
それに魔力を流すと今度は魔氷晶の植物が育ち、花を咲かせた。
この方法もなかなか楽しそうだった。
……魔力が暴走したときみたいに、足元から霜が生えるように植物の形にできないものか。と考えた。
わたしはスカートの裾を少し持ち上げて、足から地面へと魔力を流した。
強く想像するのは命が芽生える様子。
魔力の植物が花咲かせるように、精霊が歩く度に命を育むような場面を想像する。
けれど、想像は思ったよりも慎重さを求めてきた。
流した魔力は地表で留まり、すぐには形を結ばない。霜のように白く広がり、土の粒子をなぞるだけで、芽吹きの兆しはなかった。
わたしは一度、目を閉じて息を止める。命を模すなら、急いてはいけない。
足裏から伝わる冷たさが、ゆっくりと温度を変えていく。
霜はほどけ、細い線となって地を走り、やがて小さな茎の輪郭を結んだ。葉は透けるように薄く、ガラスのようだった。
花が咲くまでには少しばかり時間が必要だった。ゆっくりと音もなく開いたそれは現実の花よりも曖昧で、夢よりも確かな儚い一輪だった。
「……すごい」
いつの間にか、エフェリアがこちらを見ていた。
その声に気づいて、リラも振り返る。ふたりの視線が、魔氷晶の花に集まり、同時に、わたしの足元へと落ちてくる。
「歩くたびに咲くの?」
「ううん……たぶん、今だけ」
わたしはそう答えながら、もう一歩、そっと前に出た。
同じことを繰り返そうとしても、さっきと同じ形にはならない。芽吹きは気まぐれで、意志だけでは縛れない。
それでも、もう一輪、今度は少し背の低い花が生まれた。
リラはくすりと笑って、手を合わせる。
「お散歩が花の道になるね」
「それじゃあ踏んじゃうじゃない」
エフェリアがそう言って肩をすくめると、魔氷晶の花は散っていってしまった。
その落ちる音が、春の暖かさに溶けていく。
わたしは残った魔氷晶の花をひとつ摘み取った。
その花も氷のように、水のようになって溶けていってしまった。
わたしの魔力で作った魔氷晶は結晶の形を保てないようだった。魔力が足りないのかもしれない。
わたしは小さな花をいくつか摘み取って、リラの膝上に再び腰を下ろした。
「リラとエフェリアはもうできちゃったの?」
「ううん、まだ」
「サフィが楽しそうなことをしてたから見ていただけよ」
「あ、そう、サフィ」
「リボンの色は何がいいかしら」
「わたしが決めてしまってもいい?」
「リラに任せるよ」
「楽しみにしてるね」
胸の奥では期待を膨らませている。何色でもいい。けれど、リラがわたしに似合う色を選んでくれるという事実そのものが贈り物のように嬉しく思う。
リラは頷くと、目を閉じて頭を揺らしている。きっと、どんな色がいいか考えてくれているのだろうと思う。
エフェリアはあの森の花畑に咲いていた花を模した髪飾りを作っている。白い花弁を指で撫でながら、その重なりを確かめている。日に透けた花の影が地面に落ち、揺れている。エフェリアの魔力で作り上げた花の髪飾りは揺れる度に鈴のようなどこまでも澄んだキレイな音を鳴らしていた。
時々リラの頭の周りを飛んで、どんな形が似合うのかを照らし合わせるようにしながら作っている。
わたしもエフェリアに似合う髪飾りを作らないと。と、気合いを入れるために頬を叩く。
魔力だけで作った魔氷晶の花は透明で少し寂しい。
本物の花に魔力を流し込んで固めた方が、自然の色がそのままになってキレイだった。
先程摘み取った花をいくつか編み込んで、形を整える。魔力を流して、ガラス細工のようにする。
それに魔力を固めて細い針の結晶体のようにしたものを三本作る。
エフェリアのエアリーカールヘアにも挿すだけで着けられる簪だ。
白、緑、黄の柔らかい色の簪。
ガラス細工のようになった花はキラキラとしていてキレイだった。
あとは……シュシュも作ろう。
ただ魔力で編むだけでは素っ気ないから、せっかくだから花の細工を付けてみたい。
魔力の布を輪っかにして結ぶ。表になるほうに付けようと思ったのだけれど、うまくできなかった。布が回って散ってしまうし、固くて少し邪魔に感じてしまう。
形を変えて腕輪にすればいいかもしれない。
けれど、今回はシュシュをプレゼントしたいから、また今度にしようと思う。
飾り気はないけれど、白くてフワフワしたシュシュができた。
――家族へ。
そう心の中で呟くと、胸の奥がじんわりと温かくなったような気がする。
きっと完璧じゃなくていい。
少し不格好であったり、形が崩れていても、贈り物に込めた時間と愛は、嘘をつかないはずだ。
リラとエフェリアの笑い声を背に聞きながら、わたしは微笑んだ。
◆
わたしはリラとエフェリアが贈り物作っている様子を見ることにした。
「エフェリア」
「なぁに?」
「作ってるところ、見ていてもいい?」
「えぇ、いいわよ」
「サフィはもうできちゃったのン?」
「うん、かわいくできたよ」
「後で交換会しようね」
「うん! 楽しみにしてる♪」
わたしはエフェリアの隣に座って、仲良く並んだ。
「なんだか不思議、妖精のお隣さんができたみたい」
「サフィってホント、ヘンテコね」
「ヘンテコってなによ」
「でもいいじゃない。わたしたち、一緒だよ」
わたしはエフェリアの肩に頭を預ける。
「……うん、そうね」
「サフィ、あの、ね……」
「アタシを家族にしてくれてありがと」
エフェリアは少し恥ずかしそうに答える。
わたしは、余計な言葉はいらない気がしたから相槌を打つことで返事をした。
エフェリアからは温かくて優しい花の香りがする。フラワーフェアリーだからかな。頬からエフェリアの体温が伝わってくる。
「ねぇ、わたしも家族よ?」
上から声がした。リラだ。
「ふふっ、そうだね」
わたしはリラの膝から降りて、元の大きさ、リラと同じ背丈になった。
「リラも大切な家族よ」
わたしはリラの頬に口付けをする。
「うん……」
「サフィはズルいわ……」
リラはそっぽを向いて、そんなことを言う。リラの耳は赤くなっていた。自分からやるのは結構積極的な気がするけれど、やっぱり他人からやられるのは恥ずかしいものなのかな。とも思う。
「リラはどう? わたしのリボンはうまくできそ?」
「うん、もう少しでできあがるの」
「色はね、やっぱり青色がいいなって思ったの」
リラの膝下には、藍色のキレイなリボンがヘビのようにとぐろを巻いていた。かなり長い。たぶん、リラの身長の倍くらい長いリボンだ。
「すごい長い……」
「これでひとつなの?」
「その……ちょっと夢中になっちゃって……」
「作りすぎちゃったかな……」
リラは恥ずかしそうに目を伏せた。
長いリボンもかわいいし、着けてみたいと思う。それに、長く作り過ぎてしまったなら、使う分だけ切って、別のものを作ってもいいと思う。そのことを伝えて、どうせなら。と、わたしは言葉を続けた。
「リラがいいなら、お揃いにしようよ」
「わたしはリラがリボンを着けている姿も見てみたいな」
それを聞いたリラの顔は、俯いたままであったけれど、咲っていたのをわたしは見逃さなかった。
「ねぇ、アタシは〜?」
エフェリアがリラの膝に手をつけて物欲しそうに訴える。
「じゃあエフェリアの分も作るね」
「えぇ、お願いね♪」
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