25話:花のように小さな
サフィは独白が多めです。
なぜって?
いいこだからですよ……たぶん……
お昼前の泉の畔、穏やかな風が春の妖精たちのいい香りを運んできて、気持ちが落ち着く。泉は青くキレイな空を映して、波立つ度にキラキラと宝石のように輝いている。
わたしはリラと並ぶようにして、手を繋ぎながら畔の芝生に座っている。
エフェリアはわたしの膝の上に寝っ転がっている。
わたしたちはお互いに贈り物をすることになった。
リラはわたしへ。わたしはエフェリアへ。エフェリアはリラへ贈り物をする。
それぞれで作るのかと思っていたのだけれど、みんなで寄り添いながら作ることになっていた。まだ魔力の操作がうまくできるとは言い難いので、ありがたかった。
「リラはわたしになにを作ってくれるの?」
できるまでのお楽しみ。というのもあるのだろうけれど、隣で作るんだし、今回はリラに作って貰う側だけれど、どうせなら一番喜んでくれるものを作りたいとも思う。
でもこういうのって、相手を思って一生懸命悩んだ末の結果が大事なんだっけかな。と考える。
「そうね……サフィはなにがいい?」
「うーん……」
「大きなリボンの……髪飾りとか……?」
ネックレスとか、腕輪とかも考えたけれど、着け慣れていないから気になってしまいそうだった。耳飾りでもいいかなって思ったけれど、耳に穴を開けるのは少し怖い。
……あれ、わたしはスライムだから痛くないし、簡単に穴を作れるのか。と、今になって気がつく。
「リラはなにがいいのかしら?」
「んー、じゃあ、エフェリアのお花の髪飾りがいいな」
「とびっきりのを作ってあげるわね」
エフェリアはリラの肩に飛んでいくと、頬に口付けした。
「うん、ありがと。楽しみにしてるわ」
「エフェリアはなにがいい?」
「わたし、あまり小さいものを作れる自信がないんだけど……」
「んー、そうねぇ……」
「アタシもみんなと同じように、髪飾りがいいな……」
「わかった、頑張るね」
エフェリアの髪型、ミドルボブ……エアリーカールに似合う髪飾り。カチューシャ、バレッタ……シュシュもいいかもしれない。
シュシュなら、手や脚に着けることもできるし、今のわたしでも作れるかもしれない。魔力で編んだ糸なら、伸縮性を持たせることだってできる。
……よし、シュシュにしよう。
髪飾りではなくなってしまうけれど、今のわたしの技術ではそれくらいが限界な気がする。
エフェリアくらいに小さくなれれば、小さな装飾も作れるかもしれないのに……。
……エフェリアみたいに小さくなればいいのでは?
わたしはあらためて、彼女のその小さな身体を頭の先からつま先まで見つめる。お人形さんのように小さくて、かわいらしい。
けれどそれは、余計なものをいっさい許さない、完成された形でもある。
光が髪を透かす度、彼女の顔に淡い影を落として、精巧な人形にしか宿らないような冷やかな美しさを放つ。
エフェリアの細い腕や脚は細工師が長い夜を費やして磨き上げた象牙のように滑らかで、淡い色づきは春の息を閉じ込めたかのように柔らかい。どこか現実離れしていて、その不自然ささえ、彼女にとっては魅力になっている。
瞬きでさえも、まるで誰かがそっと糸を引いて合図をしているかのような整い方をしている。どんな生き物よりも美しい。自然の摂理よりも調和している。そう思わせるだけの完成度が彼女にはある。
エフェリアは、人形のようにかわいい。という軽い言葉では収まらない。
むしろ「人形であることの美しさ」を、ひとりの小さな躯体が極めてしまった――そんな稀有な存在として、そこに息づいているかのようにさえ思えてしまう。
今のわたしはスライムだ。
つまり、どんな形にもなれる。
それは、等身大のものだけではない。今だって、ただのスライムだったときより、体積は何倍にも膨れ上がっている。一部分だけを変形させれば、エフェリアに擬態することだってできるはずだ。
エフェリアに擬態しなくても、身体を縮めるだけでいいかもしれない。
そうすれば、細かい装飾も作れるようになるかもしれない。
シュシュはすぐに作れるだろうから、小さな簪も作ってみよう。
リラとエフェリアは既にそれぞれの作業に入っていた。ふたりとも鼻歌を歌いながら、上機嫌に作っている。
その横顔がなんとも愛おしい。きっと、相手が喜んでくれる顔や、身に着けてくれている姿を想像しながら作っているのだろう。とても優しい顔だった。
(それじゃあ、わたしも喜んでもらえるように作らないと……)
わたしはエフェリアへの贈り物を作ることになっている。だから、まずはエフェリアくらいの大きさに身体を分裂できるか試すところから始める。
手を広げて、その上に小さな人型を作る。意外とうまくいった。
ただの水のような身体が、段々と色付いて小さなわたしができあがる。服もそのまま再現してみようとしたら、これもうまくいった。よかった。たとえ小さくても裸なのは恥ずかしいからね。
本当に人形みたいな、小さなわたしが掌の上に立っている。その身体も不自由なく動かせるのだけれど、ひとつ問題があった。
視点があわないのだ。
わたしは今、ふたり分の視界を同時に処理しているようで、情報が混乱して酔いそうだった。
目を閉じて視界を遮り、魔力感知も止めて、ようやく酔いが収まってきた。
わたしは小さくなったわたしの目を開けてみる。
すると、世界が大きくなってしまったように、全てのものが大きく見える。これが妖精の世界かぁ! と、感動した。
「わぁ……」
「リラー! エフェリアー! みてみてー!」
わたしはわたしの掌の上で手を大きく振りながら跳ねる。
「どうした……の?」
「まぁ! サフィなの?」
「なぁに? アラ、アタシみたいに小っちゃくなっちゃってる!」
「なになに、アナタ、そんなこともできるのン?」
「アタシたち、お揃いね♪」
エフェリアは嬉しそうに小さくなったわたしの手をとった。
「まぁ、かわいい♪」
「いいな、わたしもサフィとエフェリアみたいに小さくなってみたいわ」
「ねぇ、こっちのいつものサフィはどうしちゃったの?」
リラは目を瞑ってジッと動かないわたしの頬をつついた。
「視界がふたつあると気持ち悪くなっちゃうから、動かないようにしてるの」
「あ、ちょっと待ってて」
わたしはそう言うと、もういひとつの方法を試して見ることにした。
今、わたしは掌から小さな身体を生やしている状態だった。けれど、身体そのものを縮めてしまえば電源の切れたロボットみたいにならなくて済むかもしれない。
分裂してそれぞれを動かすことができれば、色々と便利だろうけれど、それはまた今度試すことにしようと思う。
そして、わたしはエフェリアと同じくらいの背丈の、小さい身体だけになった。
身体がなくなったことで、魔力で編んだ服が覆いかぶさって、大きな布団を被ったみたいになる。
そういえば、服は自分の身体で作っていないんだった。吸収できないかな。と手を伸ばしてみたら、吸収できてしまった。
そのことに少し驚きつつも、深く考えるのはやめることにした。
当たり前だけれど、視界が低い。大きな向日葵の迷路を思い出す。いつもは見下ろしている草花が、今やわたしと同じくらいか、わたしよりも高い位置にある。
「まぁ、サフィがいなくなっちゃった」
「ここだよー」
わたしはリラに手を振って、その手に乗せてもらった。
「サフィ、小さくてかわいい」
リラはわたしの頭を優しく撫でた。身体が小さいとリラの温もりを全身で感じられて、これはこれで悪くない。
「これならエフェリアへの贈り物もうまく作れそう」
わたしはエフェリアに微笑みかける。
「えぇ、楽しみにしてる♪」
「……あ、ねぇ」
「アタシもアナタのお名前、呼んでもいーい?」
「うん? いいよ?」
「だって、わたしたち、家族じゃない」
「好きに呼んでいいんじゃない?」
「ね、エフェリア」
「う、うん……! ありがと! サフィ!」
思い出したように訊くエフェリアに、わたしが微笑みかけると、彼女はパッと花のように咲ってくれた。
「もう、ふたりだけズルいわ」
「わたしも一緒がいいわ……」
リラは少し拗ねたように、エフェリアとわたしを交互に見る。
その姿がかわいらしくって、わたしたち小さなふたりは笑ってしまった。
リラは頬をふくらませたまま、視線だけで抗議する。その瞳が僅かに潤んで揺れているのを、見逃すほどわたしたちは無神経ではいられなかった。
エフェリアがわざとらしく肩をすくめ、花弁がはらりと落ちる。
「そんな顔しなくてもいいじゃない」
「リラ、好きよ」
そう言いながらも、その声はやさしく、どこか機嫌を取るようだった。エフェリアはリラの頬にキスをする。
リラはちらりとこちらを見て、また視線を逸らす。
拗ねるという感情が、こんなにも愛しいものかと。わたしはこのとき初めて知った。
「わたしも好きだよ、リラ」
リラは無言でわたしの乗っている手を頬に近づける。キスをしてほしいということだろう。わたしはリラの望み通り、エフェリアと同じようにキスをした。
それでようやく機嫌を直してくれたリラは咲う。
小さなわたしたちはリラの膝の上で贈り物を作りあうことにした――。
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