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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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24話:賑やかな泉の畔で

これからはエフェリアちゃんも一緒です!

かわいいね。

 わたしたちは泉の畔でお昼寝……お昼寝をしていた。

 春先の少し肌寒い空気に、陽の光がちょうどいいくらいに温かくて、気持ちが良い。太陽が昇ってくると、瞼の裏まで光が射し込んできて少し眩しく思う。


「――てっ!」

 

 自然と眠りが浅くなって、目を醒ます。ゆっくりと目を開ければ、眼の前にはかわいらしい寝顔をしたリラがいた。

 リラはまだ、気持ちよさそうに眠っている。

 わたしはもう少し一緒に寝ていようと目を閉じた。


「おぉきぃてっ――!」

 

 ……そういえば、さっきから誰かの声が聞こえる。かわいらしい声だ。鈴のような、花のような。そんな声。


「起きなさぃよぉっ!」

「ねぇぇぇえ! もうお昼じゃないノ!」

「起きなさいってば!」


 思い出した。エフェリアの声だ。

 ……うるさい……わたしはまだ寝ていたいのに……。それに、そんなに大きな声を出したらリラが起きちゃうじゃない。

 わたしはエフェリアを払うようにして寝返りをうった。


「もぉぉぉぉぉう!」

「なによっ! なによっ!」

「せっかく来てあげたのに、失礼しちゃうわ!」

「悩んでたアタシがおバカみたいじゃない!」

「もう許さないンだからっ!」


 エフェリアがわたしの顔をその小さな手で叩く。ポコポコと音が鳴りそうなくらい弱く痛みも感じないものだったけれど、わたしは余儀なく目を醒ます羽目になった。


「んー……なぁに……エフェリア……」

「リラが起きちゃうじゃない……」


 わたしは目をこすりながらゆっくりと身体を起こす。眼の前には手のひらより少し大きいくらいの妖精、エフェリアが頬を膨らませている。

 表情が豊かだなぁと思う。

 

 ……どうして泣きそうになってるんだろう?


「……ほら、起きたから。泣かなくてもいいじゃない」


 エフェリアは唸りながらわたしの頭をポカポカと叩こうとしてくる。何故かわからないけれど、ものすごく怒っている。わたしは昨日のことを懸命に思い出して、ひとつの答えに辿り着く。

 リラが消えてしまった後、わたしはエフェリアに説明もせず、そのまま走り去って行ってしまった。きっとそれで怒っているのだろう。

 わたしはまた、失敗したなぁ……と反省する。

 どんなにリラのことを心配していて、一秒でも早く迎えに行こうとしていたとしても、別にエフェリアに説明する時間くらいはあったのではないか。

 たったの数分であってもリラを優先してしまったのは、正しいことだったのか、それとも正しくなことだったのか、わたしには答えが出せそうになかった。


「あー、えっと……ごめんね?」

「花畑に置いてっちゃって、悪かったって」

「だからもう泣かないで、ね?」

 

「ぐすっ……」

「ホントにそう思ってるのン?」

「もう置いていかない?」

「アタシだって、家族でしょ……?」


 エフェリアは鼻をすすって、一息に言う。花のような服の裾を強く握って、涙を堪えていた。わたしには彼女の幼子のようなその仕草は、彼女の純粋さを表しているようにもみえた。

 

 最低だと思った。


 彼女にとっては、妖精にとっては。

 家族というものはきっとものすごく大事な物なのだろう。そのことはリラとの関わりでとっくに知っていたはずなのに、わたしはそれを蔑ろにしてしまった。

 

 ――家族。


 それはお互いを愛し合う、大切にし合うという、最も単純で簡単な理解だ。

 わたしはエフェリアから向けられた愛を、気持ちを踏みにじってしまったんだ。

 そのように解釈した。

 情けない。


「……うん、そうだね」

「エフェリアは大切な家族だよ」

「……ごめんなさい、エフェリア」

「わたしはあなたを傷つけちゃったんだよね……」


 たぶん、人間には理解できない、妖精や精霊だけの感覚なんだと思う。名前を付ければ、家族になれて、よりいっそうお互いを大切にし合う存在。

 エフェリアは妖精や精霊は、みんながお隣さんで、友達で家族だと言っていたような気がする。お互いを大切にし合うのが当たり前のことである彼女にとって、置いてけぼりというのは、酷なことだったと思う。


「んっ!」


 エフェリアが泣き顔のまま両手をめいっぱい広げている。たぶん、抱っこしろ。ということだと思う。


「……ほら、おいで」


 わたしもエフェリアには大きすぎるその両手を広げて、迎え入れる。エフェリアはわたしの胸に飛びついて、顔を擦り付ける。

 わたしはその背中を、翅が傷まないようにそっと撫でてあげた。


 エフェリアは……なにになるんだろう。妹かな。昨日まではまったくの赤の他人だったかもしれないけれど、大切に思うなら、家族として迎え入れるなら。いっぱい甘えてほしいし愛してあげたいと思う。


「ねぇえ、リラはいつまで寝てるの?」


 エフェリアはわたしの胸に寄りかかって、服を掴んで埋もれたままになっている。

 リラはまだ、気持ちよさそうに眠っている。起こしてしまうのも悪い気がするけれど、もうそろそろお昼だし、せっかくエフェリアが来ているのだから起こしてしまうことにした。

 わたしは優しく、リラの身体を揺すった。


「リラ、そろそろ起きよ」

「もうお昼だよ」


 リラは唸って、もう少し……と寝言を言っている。

 わたしはリラの頬をもみくちゃにした。柔らかくて、温かい。いつまでも触っていられる。

 リラはうぅーっと唸って、威嚇しているようにも聞こえる。

 

 でも、起きないリラが悪いんだ。だからこのモチモチはリラが起きるまで続く。起きないならそれだけわたしが幸せな気分になるから、一石二鳥だよ。


「ん……サフィ、起きるからぁ……」

「起きるってばぁ……」


 リラもあまえんぼさんなのか、目を瞑ったまま両手を広げて、起こすように催促してくる。仕方がないので、抱き寄せて起こしてあげる。

 すると、リラはわたしに飛びついてきて、わたしたちはそのまま倒れ込んでしまった。

 

「んっ?!」

「んー! んーっ!」


 エフェリアがリラとわたしの胸の間に挟まってしまって、苦しそうに暴れる。


「きゃっ! なぁに?」

「……エフェリア?」


 リラは驚きで目を覚ましたようだった。すぐに気がついて離れたから、エフェリアがぺしゃんこの形になってしまうことはなかった。


「もうっ! なにするのよっ!」

「リラのおバカ!」

「潰れちゃうかと思ったじゃない!」


「あぅ……ごめんなさい……ワザとじゃないの……許して……?」


「仕方がないわネ、まったくもう」


 エフェリアは顔を拭うような仕草をしながら、そっぽを向いてしまう。たぶん、さっきまで泣いていたから、その顔を見られたくないのだと思う。


「許してくれるって」

「リラ、おはよう。よく眠れた?」


 リラは微笑んで、わたしの頬に軽く口付けした。わたしも同じように、リラの頬に頬を寄せて、チュ。と、小さく音を鳴らす。キスをするのは少し恥ずかしいからね。それに、このやり方が海外での挨拶だった記憶がある。チークキス。あれはキスをするんじゃなくて、ただ音を鳴らすだけだったと思う。


「ん……キスしてくれないの……?」


 リラが残念そうな顔をして、物欲しげにわたしを見てくる。

 そんな顔をされても……と、わたしはそっぽを向く。

 するとリラは顔を近づけて、今度は唇を重ね合わせてきた。軽く触れ合うだけだったけれど、それだけでもわたしの顔は熱くなって、赤くなっていたんじゃないかと思う。

 リラのいい匂いが鼻をくすぐって、顔の近さに胸が高鳴ってしまう。


「もう……サフィ、おはよ」


「……う、うん」

「ほ、ほら、リラ。エフェリアが遊びに来てくれたよ」

「だから、今日はみんなで遊ぼうよ」


 リラは咲うと、元気よく返事をした。エフェリアも恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうだった。

 

「あ、そうだ!」

「ねぇ、サフィ、この前の約束は覚えているかしら」


 リラは手を合わせて、わたしに微笑む。

 わたしの記憶の中では、約束したことといえばひとつしかないのだけれど、少し心配になってくる。というか、その約束はもう少し後にしたいとも思っている。


「えっと……一緒にアクセサリーを作ろうってことだっけ……」


「えぇ、そうよ」

「エフェリアも一緒に、みんなで交換しましょ?」


 普段通りであったら素敵な考えだって賛成したいところなんだけど、今は少し、ほんの少しだけ間が悪い。それに、そうなるとエフェリアが仲間外れみたいになってしまう。

 わたしからの初めての贈り物は指輪にしたかったのだけれど、ここは折れて、なにか別のものを作ろうと思う。

 それに、初めての贈り物が結婚指輪……いや、婚約指輪? は、些か重すぎるだろうと考え直せばいい。うん。そう思っておこう。

 

 ――そんなことを考えたけれど、周りの草花を見ていたら、なにも魔氷晶で作ることに限らなくてもいいんじゃないかという考えがよぎった。

 

 春先に咲く花はキレイだし、花冠を作ってもいいかもしれない。いつかは枯れてしまうし残すことはできないけれど、思い出にはなると思う。

 あとは、使う日が来るかはわからないけれど、押し花なんかでもいいと思う。花を魔氷晶の板で挟み込んで、くっつければ作ることができそうだ。


「うん、そうしよっか――」


ご読了ありがとうございます!

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