22話:鈴鳴る園に揺れる花よ
エフェリアちゃんの回です。
――かわいいお隣さんは消えちゃって、ヘンテコなあの仔もどこかに行ってしまう。
「ねぇ待って!」
「待ってよ!」
アタシは必死に追いかけたケド、どんどん離れて行ってしまう。小さくなって、見えなくなってしまう。
「おいてかないで!」
あの仔にはアタシの声が全然届いていないみたいで、まるで止まろうとしてくれない。
だから、アタシは追いかけるのをやめてしまったノ。
「……」
アタシのお花たちが囁いている。その声がしている方に飛んでいけば、追いつけるのかもしれない。ケド、どうしてもその勇気が湧いて来なかったノ。
なんでかしら?
ただお花畑から出ていって、飛んでいくだけじゃない。どうしてこんなにも寂しくて、悲しくて、ヤになっちゃうのかしら。
よくわからないわ。
アタシは飛んできた道を戻って、木漏れ日の射し込むあの切り株の場所に戻ってきた。あの仔がいた場所。
ここは信じられないくらいに寒くて、凍えてしまいそう。ケド、今はこの寒さが、なんとなく落ち着く気がするの。
「――はっくちゅん……」
やっぱり寒い。このままじゃ、アタシは凍えて死んじゃうかもしれない。ケド、死んじゃったほうが、楽かもしれない。
どうせ、アタシがいなくなっても、次のアタシが生まれてくる。ワケがわからないままお花のお世話をして、ワケがわからないまま消えていくの。
――バカみたい。
アタシはずっとひとりで、遊んでくれるコなんて誰もいなくて、寂しかった。ニンゲンはアタシたち妖精が全然見えないみたいだった。ときどき、迷子になったおバカさんたちがやってきて、からかってあげようとしても、全然気がついてくれないもの。つまんないわ。
お花たちも踏んづけて、声だって聞いてくれやしないのよ。
だからさっさと追い出して、帰ってもらうノ。
でも、あの仔たちがやってきた。精霊はアタシたちのママみたいなものだけど、あの仔たちは全然、そんな感じじゃなかったノ。
どうしてかしら?
妖精も、精霊もアタシたちのお隣さんで、気のいいお友達。そんな風に思っている。それは、アタシたちにとって当たり前のことで、不思議なことじゃない。
――だから。
だから、アタシはあの仔たちとお友達に、家族になりたかった。一緒にいてほしかった。どこかに行ってしまうなら、アタシも連れて行ってほしかった。なのに――。
あの仔はどこかに行ってしまったノ――。
ヒドイ。ヒドイわ。
そんなの、ヒドイじゃない。アタシだけ置いていくなんて。
お友達になったのに。
家族にだってなるはずだったのに。
あの仔はアタシにお名前をくれて、呼んでだってくれたのに、どうでもいいように置いてけぼりにしちゃって。あの仔たちが羨ましい。姉妹みたいにソックリで、仲良しな仔たち。お互いのために泣きあって、咲いあう。アタシにも、ソックリなお隣さんがいればよかったのに……。
どうしてアタシはひとりなのかしら?
他の妖精のことなんて、全然知らないケド、なんとなく、アタシが普通じゃないことはわかる。
どうしてかしら?
それが記憶なのか、本能なのか、アタシには知る術がなかった。
サムイ。サムイわ。
息が凍ってしまいそう。でも、そのまま息が凍って、寂しさも一緒に固まってしまえばいいと思う。そうすれば、もう、アタシは寂しさを感じなくても済むのかしら。
アタシは大きな、大きな切り株の舞台に縮こまって座っている。膝を抱えて、涙を流している。靴を履いていない足先がかじかんで、少し痛い。こすって温めようとしてみても、全然温かくなりやしないもの。
お花たちがアタシを慰めるように囁いている。
――どうして追いかけなかったの?
だって。
だって、もし追いかけて、一緒になっても。
あの仔たちに「いらない」って言われたら?
その方が、もっと、もっと怖いもの。
そう言われてしまうくらいなら、お名前をもらった幸せに溺れて、ここにひとりでいればいい――。
「……やだよ」
「やだ、やだよ……アタシ、ひとりはイヤ……」
どんなに泣いたって、いまさらあの仔たちは帰ってきてくれない。
胸の奥がじんじん痛む。涙が勝手に溢れてきて、頬を伝っていく。
木漏れ日はいつしか森の枝に遮られて、細く、細く裂けた線になっていく。森には薄い霧みたいな寒さがまとわりついてきて、土の匂いまで冷え切ってしまっている。
後ろに誰かがいるような、そんな気配がした。振り返ってみると、そこにはアタシよりも頭ひとつ分くらい背の高そうな女のヒトがいた。
キレイな若葉色の髪は少しうねっていて足元まで伸びていた。目も優しそうな、穏やかな雰囲気をしている。
その女の人は両手を広げて、アタシを呼んでいるようだった。
「……おいで」
優しい声だった。
アタシは涙を拭って、立ち上がる。
「……ママ?」
女のヒトは微笑むだけだったケド、それが答えなんだと思う。
「ママッ……!」
アタシはママの胸に飛び込んで、強く抱きしめる。柔らかくて、いい匂いがする。全身が包まれるように温かい。
ママだ。ママなんだ。
初めて逢ったけれど、初めてじゃないような気がする。ずっと側で見守ってくれていたような、そんな感じ。それが嬉しくって、なんでか涙が溢れてきちゃう。
ママはそれを優しく拭ってくれた。
「ママ、どうしてこんなに小さいのン?」
「大きかったら、あなたを抱きしめられないでしょう?」
たしかにそうだ。アタシはとても小さい。お花や木が大きすぎるだけだとも思っているケド、やっぱりアタシは小さい。
ママがアタシを抱きしめてくれて、とっても嬉しい。
「あなたはどうしたいの?」
ママがそんなことを訊く。
「わかんないわ……」
「……家族になりたいのでしょう?」
「……うん」
「なら、行かないと」
ママは優しく撫でてくれる。
「……でも、怖いの」
「家族になれないのも、もう逢えないのも、どっちも怖い」
「大丈夫よ、あの仔たちは優しいから」
「わたくしも、あなたと、あの仔たちに謝らないといけないわね」
「……どうして?」
「どうしてママが謝るノ?」
「ひどいことをしてしまったから」
ママは遠くをみて、寂しそうに言う。
「……それじゃあわからないわ」
「そうね。でも、わたくしがそうしたいから、そうするのよ」
「わたくしはあなたを愛しているわ」
「愛しいわたくしたちの仔……」
「ほら、おいで」
「泣いて疲れたでしょう」
「今日はもう、おやすみなさい」
そう言うと、ママは座って膝に手を寄せた。アタシは誘われるまま、ママの膝に頭を乗せて寝転がった。
柔らかくて、温かい。
ママが歌を歌っている。きっと、子守唄って言うんだと思う。寒かった森も、冷たかった心も、なんだか温かいような気がするわ。
アタシは段々とまぶたが重くなって、そのまま眠ってしまったの――。
◆
翌朝、アタシは切り株の上で丸くなって眠っていた。いつの間にか葉っぱのお布団が掛けられていて、寒くなかった。
ママはもういなくなってしまっていたケド、昨日のできごとは夢じゃないと思う。
あの優しい匂いも、温もりも確かに覚えている。
また逢えるといいな。そう思う。
ケド、絶対にまた逢うときがくると、心のどこかで確信していたノ。どうしてかしら。
アタシはあの仔たちに逢って文句のひとつやふたつ、もっともっといっぱい言うためにアタシのお花畑を飛び出した――。
また新しいキャラクターが出てきましたね!
ママーッ!
ご読了ありがとうございます!
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