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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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21話:青い、青いその心根を

リラ……。゜(゜⊃ω⊂゜)゜。

「――ねぇ、あの仔、どこ行っちゃったのよ?」


 少しうわずった声が、花畑に灯された午後の光を点滅させた。項垂れていたわたしの背に、エフェリアの焦燥が深く刺さる。返事をするよりも先へ進みたい。という衝動が、心の奥底でざらついた音を立てた。

 

「ねぇってば!」

 

「ごめん、エフェリア」

「わたしももう、帰らないと」


「どこに帰るのよ!」


「泉」


「アタシは!?」


 ……エフェリアは? その叫びに潜んだ意味を測りかねたまま、しかし歩みは止まらない。

 エフェリアの家はこの花畑なんだから、ここにいればいい。遊びたくなったら、いつでも泉に来てくれればいいし、遊びに行けばいい――。

 

 わたしはそんな風に考えていた。

 

 そうだ。花畑は彼女の家であって、わたしの帰るべき場所ではない。わたしの思考は理性を失いながらひとつの方向へと細く、強く収束していった。

 

 泉に帰らないと。早くリラのところへ――。


「また遊びに来るから、待っててよ」

「じゃあね」


 わたしはエフェリアの返事も聞かずに走っていった。下肢を牝鹿にして、少しでも早く泉に帰れるように。


「あっ!」

「ねぇ待って!」

「――待ってよ!」

「……っ!」


 後ろからエフェリアが何か叫んでいる。エフェリアには悪いけれど、わたしの優先順位はリラのことが最優先だ。たったの数分のことでも、今は構っていられない。少しでも早く、リラを迎えにいかないと。


 ◆


 木々の影はいつもより深く沈んで見えた。胸の裡側に針のような罪悪感が突き刺さって、走り跳ねる度に痛む。

 木々の間をすり抜ける度、枝葉が肩を掠めていく。その痛みを感じないほど、わたしは急いで、焦っていた。

 森そのものが無言の審判となって、わたしを追い立てる。

 風も、森のざわめきも、みんながわたしを責め立てているように感じる。

 

 ぜんぶわたしのせいで、わたしの責任なのに。善人ぶって、守らなきゃだなんてどの口が言うのか。

 

 そのくせ他の命を蔑ろにして、わたしは花を踏み(にじ)っている。花々の揺れる音が、わたしの足音に潰されて消えていく――。

 

 最低だ。最低だっ。最低だっ!

 

 その言葉ばかりが頭の中を反芻する。


 森が延々と広がっているのではないかと錯覚してくる。どれだけ走っても、白い花と背が高く見下ろしてくる木々しか目に入ってこない。湿った土を蹴る度に泥が跳ねて服を汚していく。それはまるで自分の心の澱みを映しているみたいで気分が悪くなってくる。その澱みはわたしという存在への嫌悪を濁流のように胸に逆巻かせた。

 

 わかってる。自業自得だ。

 

 枝に頬を打たれて、痛みが走る。

 深く切り裂かれて、水っぽい液体が流れるけれど、わたしの身体はすぐに再生してしまう。

 これでは罰にならない。もっと痛めばいい。そう思っても、それはなんの贖罪にもならない。わたしには贖うことすら許されていないのだと思う。この心の呵責は、わたしが一生背負っていくべき罪なのだろうか。そんな大げさなものではないのかもしれない。けれど、わたしにとってこれは背負っていくべき罪で、忘れるべきではない感覚だと思う。


 踏み荒らされる花に、「ごめんなさい」と謝りたくなる。けれど、そんなことを言う資格なんてない。聞き入れてくれるヒトもいない。壊したものは、もう戻らないんだ。

 

 慣れない鹿の脚で走っていたせいか、もつれて転んでしまう。身体の構造上受け身も取れず、たくさんの花が潰れた。


 どうして……っ、どうしてかなぁ……っ!


 今までの選択に次々に後悔が浮かんでは胸を締め付けていく。昔からずっとこうだ。もっと、わたしがいい加減な人間で、過去を顧みず、他責思考だったら。もっと、楽に生きられただろうか。

 そしたらわたしは、今も笑っていられるのだろうか。

 でも、それでは。

 わたしはわたしでなくなってしまう。そんな気がする。

 罪を背負うからこその人間で、罪を認めるからこそのわたしなんだ。

 損な性格と誰かは言うだろう。だけど、それがわたしをわたしたらしめるための苦悩あるならば、易いものだろう。

 それに感じる優越も、希望も吐き気がするほど大嫌いだ!

 偉くもない、優しくもない。ただそこには永遠に答えを出すことのできない問いだけが天秤にかけられる。均衡は決して訪れず、生涯揺れ続ける審判だ。


 わたしはわたしがイヤになって、涙を零した。

 誰もいないこの世界なら、わたしはわたしを嫌いになって、泣いたって文句を言うやつはいない。

 泣くのは久しぶりだった。

 新しく生まれ変わっても、わたしはわたしのままだった。そんな当たり前なことが、この上なく恨めしい。

 そんな当たり前なことに、この上なく安堵している。

 

 わたしはわたしのままだった。

 

 ただ、それだけだ――。


 

 ◆


 

 ――幾ばくか時間が経って、ようやく花畑を抜けた。もう少しすれば、泉が見えるはず。

 わたしは本能的に、泉の方向がわかる。

 その本能が、こんなにもありがたいことだとは思いもしなかった。


「ハッ――ハッ――ハッ――」


 息を上げる必要のない身体が上がるはずのない息を上げて、しかし喘ぐように前へ飛び出し、風を切るように地を駆ける。


 ――泉が見えた。


 泉の中央で、ひとりの少女が座り込んでいるのがわかる。リラだ。白く小さい花のように、下を向いて祈っている。

 わたしはその花目掛けて走っていく。

 泉に差し掛かって、わたしは大きく跳ねた。脚を着けると、大きな波紋が泉に広がっていく。

 リラがそれに気がつくと、顔を上げて両腕を差し伸べた。

 わたしは人間の姿に戻って、リラのもとに走っていく。

 わたしたちはお互いに泣いていた。

 みっともなく顔を崩して、目を赤くしている。

 わたしはリラのその胸へ崩れ落ちた。泉はわたしたちを沈めることなく、わたしたちを受け止めて浮かせている。

 水面はわたしたちの感情を映すように揺れていた。

 リラの身体を強く抱きしめる。確かに彼女はここにいて、その温もりを、鼓動を感じられる。


「サフィ……わたし、わたし……怖かった……」

「怖かったよぉぉぉ……」

「ぅあぁぁぁぁん……」


「うん……うん……ごめんね、リラ。ごめんね……」 


「うぅっ……うっ……」

 

 わたしたちはお互いに涙か、汗か、はたまた水なのかわからないくらいに全身を濡らしていた。髪も、服もボロボロのままだったけれど、泉の水が汚れた身体と心をキレイに洗い流してくれているような気がする。

 

 ……そっか。


 わたしは怖がっていたんだ。わたしはリラが消えてしまうことを、この上なく怖がっていた。その感情に初めて気がついて、情けなく思って涙が出てくる。

 

 わたしたちは気が済むまで泣きあった。幼子のように泣いた。

 

 誰に見られるわけでもなく、ただ、胸の奥の痛みが溶けるまで。

  

 手を繋ぎながら仰向きになって、落ち着くまで空を眺めていたんだ――。



 

 ◆


 

 

「ねぇ……リラ……」


「なぁに……」


「……その、ごめんね」

 

「ん……いいの」

「ちゃんと来てくれて、嬉しかった」

「……わたしも、ごめんなさい」

「いっぱい、心配かけちゃった」


「……うん」


 わたしは起き上がって、リラの顔を見る。せっかく涙の跡もひいてきていたのに、また、かわいい顔にくっきりと跡を付けていた。わたしはリラの目尻に浮かぶ涙を拭う。


「ふふっ、サフィ、目が真っ赤よ」


 そう言って、リラもわたしの目に浮かんでいたらしい涙を拭ってくれた。


「リラだって真っ赤だよ……」

「ふふふ――」

 

 わたしたちはおかしく思って、お互いに咲った。そのせいでまた、目に涙が浮かんでくる。今度出てきた涙は、冷たくなかった。きっと、風に吹かれていないせいなんだろう。

 けれど、なぜだろう。

 それが、冷めきった心が温められたからだと思いたいのは、おかしなことではないように思うんだ。


「……服、直さないとだね」


「うん、そうね」

「サフィ、また、髪もオシャレにしてくれる?」


「もちろん」

「今、直しちゃうよ」


「うん……おねがい……」


 森へ行く前に整えたハーフアップの髪はなくなってしまっていた。わたしは乱れた髪を優しく梳いていく。一度に梳こうとすると、引っかかってしまうから、手で軽く掴めるくらいにわけて、毛先からゆっくりと下に梳いていく。絡まっていた髪はすんなりとほどけていく。

 リラも、わたしも言葉を交わすことはなく、ゆったりとした時間がただただ過ぎていった。

 髪を梳き終える頃、訊いてみる。


「今、もうオシャレにする?」


「ううん、今日はいい」

「また、明日おねがい」


「うん、わかった」


「じゃあ、今度はサフィの番よ」


「……おねがい」


 わたしはリラに櫛を渡して、後ろを向いた。わたしは少し俯き気味になって、水面に映る自分を見ていた。

 少しだけ、髪が後ろに引っ張られる。トレントと戦って、転げ回ったから、髪が傷ついてないか少し心配になったけれど、再生すればいいことを思い出してどうでもよくなった。

 わたしは髪も、身体もすぐに元通りにできてしまう。始めは興奮しているせいかとも思ったけれど、同じ傷を何度も受けると痛覚が鈍くなっているのもわかった。きっと、痛覚にも耐性があるのかな。

 わたしはわたしの腕を見る。白くて細い腕。リラの腕だ。

 わたしはリラを模倣した。だから、リラにとって、わたしは半身のようなものなのかもしれない。それがサフィなんだ。それなら、わたしが新しく人型を作って、リラの模倣を止めたのなら。わたしはわたしではなくなるのだろうか。

 わたしの身体は変わっても、わたしはわたしのままなのだろうか。

 きっと、そうなんだろう。

 どんな姿をしていても、リラはわたしを家族だと思ってくれると思う。

 その当たり前のような愛情が、こんなにも落ち着くものだとは知らなかった。


「サフィ」


 リラがわたしを呼んでいる。わたしは返事をして、振り返った。


「なぁに――」


 リラの唇がわたしの唇と軽く重なった。彼女は咲って、わたしの唇に指を当てた。わたしも釣られて、笑顔になる。


「ふふっ、終わったよ」


「うん、ありがとう。リラ――」



かわいそうは耐えられないのですぐに終わらせましょうね……


ご読了ありがとうございます!

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