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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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19話:花散る森の円舞曲

最高にハイってやつだ!

サフィちゃんさん、前世はゲームでFPSでもしてたんですかね。


X(旧Twitter)にて活動をはじめました。

更新情報などを発信していますので、ぜひフォローや拡散をお願いいたします!


また、創作をしている方とは積極的に繋がりたいと思っています!仲良くしてくださると嬉しいです♪



「――仕切り直しといこうかっ!」


 花散る森に木漏れ日が射す。

 それはまるでスポットライトのようにわたしたちを照らしていた。円舞曲(ワルツ)はふたりでひとつの舞踏そのものだ。わたしは人間の姿に戻って、トレントの周りをくるくると回る。


「初めてのダンス相手がこんな唐変木だなんて、ヤになっちゃう!」


 優雅なんて言葉は似合わないほどに激烈で、熱烈なダンスだった。ステップを踏みながら矢を放つ。

 トレントが結晶化する度に、辺りに砕け散った魔氷晶が光を受けて煌めく。それはダイヤモンドダストのようで、戦っている最中でなければ感嘆を漏らしていたことだろう。

 わたしたちの周囲はどんどん気温が下がっていき、いつしか息の形も捉えることができるようになっていた。トレントは寒さに強くないのか、蔓や根の攻撃の鋭さは衰えていた。

 わたしが地に脚をつける度、その周りに霜が育つように魔氷晶が結晶を成す。


 わたしたちはまるで最初からそう決まっていたかのように、円の中心で向かい合った。

 木漏れ日の舞台。吹きすさぶ冷気の観客席。

 足元には霜が花を咲かせ、空中には砕けた魔氷晶が星屑のように漂っている。

 

 円舞曲(ワルツ)はもう始まっていたんだ。

 トレントが重々しく一歩踏み出す。それは舞踏会で相手の手を取る仕草にも似て――けれど、伸びてきたのは、優雅とはほど遠い鋭い蔓。わたしは軽やかに腰をひねり、スカートを翻すように身体を回転させて躱した。


「そんな誘い方じゃ、踊れないよ?」


 くるり、くるり。わたしはステップを刻むように地面を蹴り、氷の矢を次々と放つ。矢が触れるたび、トレントの樹皮に白い霜が走り、音もなく凍りつく。

 トレントはそれに応えるように、根を地面から抜いて振り下ろす。その太い根の軌跡は、ワルツの拍を刻む指揮棒のように重く、鋭く――わたしの足先ぎりぎりの土を抉り、凍った霜を散らした。

 わたしは一歩後ろへ、踊るように二歩前へ。歩幅を揃え、呼吸を合わせるようにして動く。

 軽やかさと重たさ。正反対のふたつのステップが、ひとつの旋律を奏でていた。

 

 トレントが大きく腕を振り上げた。

 わたしはその下へ滑り込み、横に跳んで矢を撃つ。

 放たれた矢は、舞踏会のシャンデリアに落ちる光の粒のように煌めき、トレントの胴に刺さった。

 威力が足りなかったのか、動きは止まらなかった。


 「ほら、もっと合わせてよ!」


 その声が聞こえているのか、トレントは怒りで蔓をしならせ、円のラインを乱そうと暴れる。

 その動きすら、わたしにはステップの一部にすぎない。蔓の縦振りは二拍子、横薙ぎは三拍子。わたしはそのすべてを読み取り、舞うように避けていく。

 魔氷晶がわたしの足元で咲き誇る。まるでわたしと一緒に踊っているかのようだった。

 トレントはわたしのステップを砕きにくる。凍った枝を自ら叩き割り、破片をまき散らしながら枝を振り回す。その荒々しさでさえ、円舞曲の盛り上がりのパートに見えてしまうほどだった。

 わたしはターンしながら後退し、下肢を牝鹿に変えて蹄で軽く地面を弾く。

 

 その瞬間、霜を帯びた土がぱっと割れ、魔氷晶の花弁が舞い上がった。光の粉雪の中、わたしたちはまだ踊っていた。

 わたしが踏み、トレントが叩き、わたしが回り、トレントが砕く。そのすべてが森に響くひとつの円舞曲(ワルツ)となって……誰にも止められない、狂おしいほど美しい舞踏だったんだ。


 ――頭が痛い。


 今のわたしは、最高に気分が良かった。自分の力に酔いしれて、昂揚している。気持ちがいい。

 けれど、それと同時にわたしの思考回路は警鐘を鳴らしていた。

 それがきっと、頭痛となって現れているのだろう。

 

 そう、冷静に考えることはできるのに、身体は止まってくれなかった。

 今ここで、眼の前にいる敵を斃さなければ気がすまない。安心できない。だから、止まれない。

 跳ねて、回って、踊るようにしてトレントの周りを凍らせていく。

 トレントも負けじとわたしの作った結晶を砕く。

 

 パキン、と乾いた音がする。

 トレントの枝先が、冬の朝明けに霜を踏みしめたときのように脆く砕け落ちる。葉が寒さで散っていき、紙吹雪のようだった。

 わたしの吐息は濃く形を残して揺らめく。

 舞踏会は終わりに近づいている。けれどわたしの身体は疲れ知らずで、まだまだ踊りたいというように火照っていた。


「……ふ、ふふっ。ねぇ、もっと踊りましょうよ?」


 自分の声ではないように聞こえた。

 芯が凍り、どこか上ずった声。わたしの身体も、限界を迎えようとしていた。それが頭痛の正体だ。


 ズシン、と大地が震える。

 トレントは根を地面から引き抜き、鞭のようにしならせて襲いかかってきた。その動きは鈍いはずなのに、重さゆえに掠めるだけで身体が削られるようだった。

 わたしは足元にできた魔氷晶の欠片を蹴って跳び上がる。砕けた魔氷晶が散り、光に照らされて煌めいた。


「遅いってば!」


 笑いながら放った矢は、トレントが新しく生やした蔓に突き刺さり、瞬時に凍らせる。

 だが、トレントも黙っていない。

 凍りついた蔓を無理やり振るって、その破片を弾丸のように飛ばしてきた。


 ――早いっ!


 反射的に身をひねる。頬をかすめて、冷たい痛みが走る。

 飛んできた木片は背後の木を撃ち抜き、幹に深くめり込んだ。


 ――氷の矢を放ったわたしの指先から、軋むような痛みが走った。指が凍っている。


 その一瞬の隙が致命傷になった。

 

「カハッ……」


 乾いた音が漏れた。

 痛みなんてほとんど感じない。その油断が、このザマだった。


「……ッ!」


 激しい痛みにわたしは身を強張らせる。

 魔力だ。

 身体に溢れる魔力が、わたしの感覚を過敏にしているんだ。

 視覚や聴覚、瞬発力の上昇に加えて、痛覚も鋭くなっている。


 トレントは、わたしが踏む地面を狙って根を走らせる。

 ザザッ、と土が盛り上がる。

 わたしがステップを踏むように跳ねるたび、追うように根が地面を割った。


 地面から飛び出した根が足首を絡め取ろうと迫る。

 わたしは反射的に矢を逆手に握り、魔力を流し込んで根を凍らせた。

 パキッ、と鳴ると同時に蹴り飛ばす。

 トレントの枝が横殴りに振り抜かれた。

 空気を裂く重低音。

 

 避けきれない――。


 ドゴッ――。

 

 鈍い音と共に、わたしの身体は吹き飛ばされた。

 白い花の上に横たわって、動けない。


「カヒュ――ッ」

 

 本来、わたしには息なんて必要のないはずのものなのに、空気の抜けるような息をしていた。

 トレントの蔓が伸びてきて、見せしめのように首を締め付けられて吊るされる。

 わたしの下半身は自重に耐えられず、千切れてしまった。


 ……あーあ。

 もう、ボロボロだよ。最悪だ。

 せっかくかわいくした髪も、リラと編んだ服も、ボロボロだ。切り裂かれて、土まみれになって、汚れてしまった。

 

 ここで終わりか――。

 

 わたしは力を抜いて項垂れた。

 正直、もう力が出ないんだ。魔力切れだ。自分の実力に合わない力を引き出して、暴れ回ったのがこのザマだ。


「はぁ……これで終わりだね――」


サフィちゃんはおしまい!

次回、サフィ、死す! お楽しみに!

……え?


ご読了ありがとうございます!

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