19話:花散る森の円舞曲
最高にハイってやつだ!
サフィちゃんさん、前世はゲームでFPSでもしてたんですかね。
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「――仕切り直しといこうかっ!」
花散る森に木漏れ日が射す。
それはまるでスポットライトのようにわたしたちを照らしていた。円舞曲はふたりでひとつの舞踏そのものだ。わたしは人間の姿に戻って、トレントの周りをくるくると回る。
「初めてのダンス相手がこんな唐変木だなんて、ヤになっちゃう!」
優雅なんて言葉は似合わないほどに激烈で、熱烈なダンスだった。ステップを踏みながら矢を放つ。
トレントが結晶化する度に、辺りに砕け散った魔氷晶が光を受けて煌めく。それはダイヤモンドダストのようで、戦っている最中でなければ感嘆を漏らしていたことだろう。
わたしたちの周囲はどんどん気温が下がっていき、いつしか息の形も捉えることができるようになっていた。トレントは寒さに強くないのか、蔓や根の攻撃の鋭さは衰えていた。
わたしが地に脚をつける度、その周りに霜が育つように魔氷晶が結晶を成す。
わたしたちはまるで最初からそう決まっていたかのように、円の中心で向かい合った。
木漏れ日の舞台。吹きすさぶ冷気の観客席。
足元には霜が花を咲かせ、空中には砕けた魔氷晶が星屑のように漂っている。
円舞曲はもう始まっていたんだ。
トレントが重々しく一歩踏み出す。それは舞踏会で相手の手を取る仕草にも似て――けれど、伸びてきたのは、優雅とはほど遠い鋭い蔓。わたしは軽やかに腰をひねり、スカートを翻すように身体を回転させて躱した。
「そんな誘い方じゃ、踊れないよ?」
くるり、くるり。わたしはステップを刻むように地面を蹴り、氷の矢を次々と放つ。矢が触れるたび、トレントの樹皮に白い霜が走り、音もなく凍りつく。
トレントはそれに応えるように、根を地面から抜いて振り下ろす。その太い根の軌跡は、ワルツの拍を刻む指揮棒のように重く、鋭く――わたしの足先ぎりぎりの土を抉り、凍った霜を散らした。
わたしは一歩後ろへ、踊るように二歩前へ。歩幅を揃え、呼吸を合わせるようにして動く。
軽やかさと重たさ。正反対のふたつのステップが、ひとつの旋律を奏でていた。
トレントが大きく腕を振り上げた。
わたしはその下へ滑り込み、横に跳んで矢を撃つ。
放たれた矢は、舞踏会のシャンデリアに落ちる光の粒のように煌めき、トレントの胴に刺さった。
威力が足りなかったのか、動きは止まらなかった。
「ほら、もっと合わせてよ!」
その声が聞こえているのか、トレントは怒りで蔓をしならせ、円のラインを乱そうと暴れる。
その動きすら、わたしにはステップの一部にすぎない。蔓の縦振りは二拍子、横薙ぎは三拍子。わたしはそのすべてを読み取り、舞うように避けていく。
魔氷晶がわたしの足元で咲き誇る。まるでわたしと一緒に踊っているかのようだった。
トレントはわたしのステップを砕きにくる。凍った枝を自ら叩き割り、破片をまき散らしながら枝を振り回す。その荒々しさでさえ、円舞曲の盛り上がりのパートに見えてしまうほどだった。
わたしはターンしながら後退し、下肢を牝鹿に変えて蹄で軽く地面を弾く。
その瞬間、霜を帯びた土がぱっと割れ、魔氷晶の花弁が舞い上がった。光の粉雪の中、わたしたちはまだ踊っていた。
わたしが踏み、トレントが叩き、わたしが回り、トレントが砕く。そのすべてが森に響くひとつの円舞曲となって……誰にも止められない、狂おしいほど美しい舞踏だったんだ。
――頭が痛い。
今のわたしは、最高に気分が良かった。自分の力に酔いしれて、昂揚している。気持ちがいい。
けれど、それと同時にわたしの思考回路は警鐘を鳴らしていた。
それがきっと、頭痛となって現れているのだろう。
そう、冷静に考えることはできるのに、身体は止まってくれなかった。
今ここで、眼の前にいる敵を斃さなければ気がすまない。安心できない。だから、止まれない。
跳ねて、回って、踊るようにしてトレントの周りを凍らせていく。
トレントも負けじとわたしの作った結晶を砕く。
パキン、と乾いた音がする。
トレントの枝先が、冬の朝明けに霜を踏みしめたときのように脆く砕け落ちる。葉が寒さで散っていき、紙吹雪のようだった。
わたしの吐息は濃く形を残して揺らめく。
舞踏会は終わりに近づいている。けれどわたしの身体は疲れ知らずで、まだまだ踊りたいというように火照っていた。
「……ふ、ふふっ。ねぇ、もっと踊りましょうよ?」
自分の声ではないように聞こえた。
芯が凍り、どこか上ずった声。わたしの身体も、限界を迎えようとしていた。それが頭痛の正体だ。
ズシン、と大地が震える。
トレントは根を地面から引き抜き、鞭のようにしならせて襲いかかってきた。その動きは鈍いはずなのに、重さゆえに掠めるだけで身体が削られるようだった。
わたしは足元にできた魔氷晶の欠片を蹴って跳び上がる。砕けた魔氷晶が散り、光に照らされて煌めいた。
「遅いってば!」
笑いながら放った矢は、トレントが新しく生やした蔓に突き刺さり、瞬時に凍らせる。
だが、トレントも黙っていない。
凍りついた蔓を無理やり振るって、その破片を弾丸のように飛ばしてきた。
――早いっ!
反射的に身をひねる。頬をかすめて、冷たい痛みが走る。
飛んできた木片は背後の木を撃ち抜き、幹に深くめり込んだ。
――氷の矢を放ったわたしの指先から、軋むような痛みが走った。指が凍っている。
その一瞬の隙が致命傷になった。
「カハッ……」
乾いた音が漏れた。
痛みなんてほとんど感じない。その油断が、このザマだった。
「……ッ!」
激しい痛みにわたしは身を強張らせる。
魔力だ。
身体に溢れる魔力が、わたしの感覚を過敏にしているんだ。
視覚や聴覚、瞬発力の上昇に加えて、痛覚も鋭くなっている。
トレントは、わたしが踏む地面を狙って根を走らせる。
ザザッ、と土が盛り上がる。
わたしがステップを踏むように跳ねるたび、追うように根が地面を割った。
地面から飛び出した根が足首を絡め取ろうと迫る。
わたしは反射的に矢を逆手に握り、魔力を流し込んで根を凍らせた。
パキッ、と鳴ると同時に蹴り飛ばす。
トレントの枝が横殴りに振り抜かれた。
空気を裂く重低音。
避けきれない――。
ドゴッ――。
鈍い音と共に、わたしの身体は吹き飛ばされた。
白い花の上に横たわって、動けない。
「カヒュ――ッ」
本来、わたしには息なんて必要のないはずのものなのに、空気の抜けるような息をしていた。
トレントの蔓が伸びてきて、見せしめのように首を締め付けられて吊るされる。
わたしの下半身は自重に耐えられず、千切れてしまった。
……あーあ。
もう、ボロボロだよ。最悪だ。
せっかくかわいくした髪も、リラと編んだ服も、ボロボロだ。切り裂かれて、土まみれになって、汚れてしまった。
ここで終わりか――。
わたしは力を抜いて項垂れた。
正直、もう力が出ないんだ。魔力切れだ。自分の実力に合わない力を引き出して、暴れ回ったのがこのザマだ。
「はぁ……これで終わりだね――」
サフィちゃんはおしまい!
次回、サフィ、死す! お楽しみに!
……え?
ご読了ありがとうございます!
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