15話:暗く、深く、冷たい場所
光を追ってしまったリラちゃんはどうなってしまうのか……
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――顔を上げて周りを見たとき、わたしはひとり森の中にいた。
キラキラした道は消えてしまって、どこに行ったのかも、どこから来たのかもわからなくなってしまった。
背の高い木々が、わたしのことを嗤うように上で葉を揺らす音のみが聞こえてくる。
わたしは薄暗い森の中に、独りになってしまった。
チリリ、チリン。と、足元のお花が鳴る。そのかわいらしい音ですら、わたしのことを嗤っている気がしてきてしまう。
わたしは走ってきたと思う道を戻っていく。けれど、下を見ていたせいかどこからきたのかわからなくなってしまっていた。
「……サフィー!」
「サフィ、返事してー!」
遠くの方で、「リラー!」と、サフィが呼んでいる声が微かに聞こえるような気がする。けれど、木々はその声が届くのを邪魔しているのか、どこから聞こえてくるのかよくわからない。
わたしはサフィの声が聞こえたように感じる方向へと走る。お花たちが散って潰れてしまうのも構わずに、木々の向こうへと駆け抜けていく。けれど、どれだけ走ってもサフィの姿は見えない。
お花たちが責め立てるように騒がしく鳴って、サフィの声を掻き消してしまう。
鼓動が激しくなって、息が上がっていく。サフィと逸れてしまった。このままでは、もう会えないかもしれない――。
「ハッ――ハッ――」
「――ッ」
わたしは段々と涙が込み上げてきて、うまく息ができなくなってしまう。右へ、左へと走って、ここがどこなのかもわからなくなる。どれだけ走っても、どこも同じような景色が繰り返されるばかりで見覚えのある場所に出ることはない。
誰かに頭を触られた気がして振り返ってみても、葉っぱを付けた枝が揺れているだけだった。
チリリ、チリン。と、聞こえた方に走っていっても、お花が風で揺れているだけだった。
黒々とした樹の幹が無数に立ち並んでお花畑から出ていくのを拒んでいるんじゃないかとも考えてしまう。
「……リラ――!」
そう呼んでいるサフィの声が聞こえた気がして、一目散に走っていく。
「サフィ――!」
けれど、どれだけ走ってもサフィの姿は見えない。
そして、お花に隠れていた木の根に引っかかって転んでしまう。その沈黙が、背中に重くのしかかる。
手を擦りむいて、服も破れて泥まみれになってしまう。
転んだわたしの前には髪留めが転がっていた。せっかく、サフィがオシャレにしてくれた髪型も、少し崩れてしまった。悔しくなって、乱暴に髪留めを握りしめても、何も変わることはない。
わたしは久しぶりに感じた燃えるような痛みに動けなくなり、終いには屈んで顔を覆ってしまった。現実から目を背けようとしても眼の前は真っ暗なままで、サフィがやってきてくれることもなかった。
怖い。
その黒い波が心の海を飲み込んで、嵐を起こそうとする。海は荒れて、波は唸っている。わたしの感情は溢れて涙と嗚咽になって外に漏れでてくる。
その波に脚を掬われて、どうすればいいのかわからない。もう、サフィと会えないかもしれない。もしかしたらこのまま消えてしまって、いなくなってしまうかもしれない。
わたしは泉に戻っているかもしれないけれど、サフィはずっと森の中で独りになってしまうかもしれない。
イヤなことがどんどん頭の中に溢れてきて、そう考えてしまった途端に我慢しようとしていたものが、どんどん溢れてきてしまう。涙は堪らえようとしても勝手に頬を伝っていく。声だって押し留めようとしても、助けを求めようとしてしまう。
金のカーテンの揺れる明るく、温かく見えたお花畑が、途端に冷めていくような気がした。
暗く、深く、冷たい場所で。
ただひとり、わたしは泣いていた――。
◆
立ち上がって、どれだけ名前を呼んでも、誰も慰めてくれない。誰も温めてくれない。サフィをわたしのところへ連れてきてくれる親切なヒトはいなかった。
「……サフィ?」
声を出したつもりなのに、わたしの喉からは消え入るような声しか出すことができなかった。
サフィの手の温もりが恋しい。手を繋いで歩いていたときの感触を確かめるように胸元で手を重ねてみてもただ冷たく、薄い布越しに自分の鼓動が跳ねているのを感じるだけだった。
木々の先で白い布が揺れたような気がして、見失ってしまう前にその場所へと走って行ってみる。けれど、そこで目にしたのはただの光で、サフィの服ではなかった。
胸がギュッと縮むような気がして、わたしはもしかしたらサフィがいるかもしれないと思って辺りを見渡してみる。目に入ってくるは白いお花の絨毯ばかりで、サフィの姿はどこにも見えない。
「サフィ……返事して……」
わたしが通る度にその葉を、花を揺らす草木がひそひそと囁くようにする。わたしは思わず身を屈めて耳を塞ぎたくなる。それを我慢すると、涙が溢れてきてしまう。
みんなはそれを見て嗤っているように感じて、余計に悲しくなってくる。
お花の間をどれだけ進んでも、彼女たちは道を教えてくれない。
木も、お花もみんな知らん顔をして、わたしのことを無視する。
森の冷たい空気が肌を刺す。
いつもは寒さなんて感じないのに、今は凍えてしまうように冷たく感じる。
足先が冷えているのは、わたしが消えかかっているせいだろうか。それを確かめるのが怖くて、目を向けることができなかった。
独りがこんなにも怖くて、寂しいものだと思わなかった。
ずっと泉の中に独りぼっちで、それが当たり前だと思っていた。
けれど、いつからか冒険者って言う人たちがやって来るようになって、たくさんのお話を聞いて、独りでいることが寂しくなっていった。怖くなっていった。
冒険者……人間には、家族がいることを知った。誰かと一緒にいることを知ってしまった。
泉が凍って息が形を持つ季節。冬になる度、わたしの中の冷たさは大きく、大きくなって、いつしか埋められなくなってしまった。
寂しい。
いったいどれだけの冬が訪れたかわからない。いったいどれだけのお話を聞いたかも覚えていない。いったいどれだけ、家族がほしいと願ったかも、忘れてしまった。
あの日。サフィが泉にやって来た日。神様がわたしに授けてくださった、家族というものの温かさを知ってしまってから、独りになるのがとても怖い。
でも、それでもサフィがいなかった方がよかったと思うことはない。神様に願ったことを後悔することもない。
わたしの目は少し赤くなって、頬には涙の跡が付いていた。涙を押し付けた服が少し湿っている。
鼻をすすって、涙を拭う。
頭の中でいっぱい考えたけれど、森の中を彷徨うように答えに辿り着くことはなかった。
サフィなら、なにか思いついたのかな。そんなことを考える。
流せる涙がなくなってしまったせいなのか、わたしはようやく落ちついてきた。
なにか見つけられないかと、ゆっくりと辺りを見渡してみる。
すると、背中から鈴のようなキレイな声が聞こえてきた。
「アナタ、弱っちいのネ――」
かわいそうはかわいいですからね。しかたないですね。
で、誰ですかリラちゃんを泣かせたやつは……
わたしですね。
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