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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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13話:オシャレは乙女の嗜み

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 ――髪をオシャレにしてから、一日が経って、朝を迎えた。わたしは夜に眠る方法を確立した。

 それは、魔力を浪費すること。魔力の操作になれるため、意識がある間はなるべく糸を作ったり、転がっている魔氷晶を捏ねて玉を作ることにした。これが結構疲れる。慣れるまでは人間みたいに寝られると思う。それに、夜寝ることに慣れれば、そのうち夜には勝手に眠くなる体質になるかもしれない。


「サフィ、おはよ……」

 

「おはよう、リラ」


 最近、リラは朝起きる時間が遅くなってきている。気がする。わたしが目覚めて数日しか経っていないし、スライムであった時期の記憶は朧気にしか覚えていない。けれど、その時期のリラは、夜明け前には目覚めていた気がする。

 リラはわたしの胸の中で再び眠ろうとする。

 わたしたちは泉の底で、抱き合うようして眠っていた。スライムであった時期からこうしていたらしい。それで、ここ数日は離れて眠っていたけれど、リラが寂しいというから一緒に寝ることにした。


「ほら、リラ。起きて。朝よ」


 リラは唸って、わたしを締め付ける力が強くなる。仕方がないので、放って置くことにした。別にやらなければいけないことがあるわけではない。学校に行く必要も、会社に行く必要もない。泉の魔力を吸収すればいいから、ご飯を食べる必要もない。だから、いつまでも寝ていたって怒られることはない。


 わたしはリラの頭を優しく撫でる。寝顔がかわいい。その柔らかな頬を指でつついたり、唇を触ったりしてみる。あまりイジワルをしていると起こしてしまうから、程々にする。

 リラは昨日から髪を崩そうとしない。今も頭の後ろに2つのお花を咲かせたままにしている。よほど気に入ったらしい。嬉しいのだけれど、少しだけ複雑な気分になる。そのままにしておくと跡が付いてしまうし、痒くならないか心配になる。

 昨日は押し負けてそのまま寝てしまったのだけれど、今日は解いてもらおうと思う。

 きっと嫌がるだろうから、あまり髪の負担にならない髪型を考えておかないといけない。けれど、わたしは美容師ではないから編み方を知らない髪型も多い。絵を描くときに色々と調べていたこともあったけれど、その構造をすべて覚えているわけでもない。


 そういえば、頭の中のプリセットに髪型の記憶をしていなかった。形をしっかりと覚えて、いつでも簡単に髪型を変えられるようにしておこう――。


 ◆


「ん……よく寝たわ……」

「ふあぁ……」

 

 二度寝から覚めて、気持ちのいいブランチを迎える。

 泉には金の光のカーテンが差し込んで、ゆらゆらと揺れていた。


「お寝坊さんだね」

「よく眠れた?」


「うん」


 リラはまだ眠そうな顔で、わたしの頬に軽く口付けをした。

 わたしが驚いて固まっていると、リラは不思議そうに首を傾げる。


「……リラ、そういうことはあまりしちゃダメだよ」


「ん……どうして……?」

「人はこうするって、冒険者って人たちから聞いたもの……」


「そういうのは恋人とか、大切な人としかしないものなの」


「じゃあ、サフィとはいいじゃない」

「わたしの大切な家族だもの……」


 リラは眠そうに半開きの目を擦る。その顔で、彼女は咲った。


「……イイヨ」


 わたしは負けた。否定できるはずがない。かわいいものを前にして、人類は無力なのだ。どのような理屈も勝てることはなく、それはスライムも同じだった。


「じゃあリラ、取り敢えず髪を解こうか」


 そう言うと、リラは髪を押さえて今にも崩れ落ちそうな顔をする。


「ど、どうして……? せっかくかわいくしたのに……」


 思わず退いてしまいそうになるけれど、その気持ちを堪えて、苦悶しながらも優しく諭す。


「ずっとそうしていると、髪に跡が付いちゃうよ」

「リラの髪は真っすぐでキレイだから、もったいないし……」

「髪は洗わなくても大丈夫なの? 痒くならない?」


「毎日キレイにしてるもの、少しくらい心配ないわ」

「泉の水はキレイだし魔法だって使えるわ。一日くらい……」


 これはいつまでも言い訳をして、引き伸ばしていくやつだ。だから、子を叱るようにする。


「ダーメ。リラは魔法とかでキレイにできても、髪を傷めちゃったら意味がないでしょう」

「今日は別のかわいい髪型にしてあげるから」

 

「……本当?」

「かわいくしてよ?」


 リラはようやく、大人しく髪を解かれる。わたしはリラの髪を梳いている途中で気がついたことがあった。

 水の中にいるのに、水の抵抗や浮遊感をまったく感じない。髪は少し揺れているけれど、散らかってしまうことはない。

 これもたぶん、リラやわたしが水に生きる存在だからなのだろう。そう思っておくことにする。


 気を取り直して、わたしはリラの髪を梳いていきながら、あらためてどのような髪型にしようか考える。

 あまり跡がつかないようにしたいし、リラの髪の良さをそのまま伝えられるハーフアップがいいかもしれない。わたしは早速、アレンジに取り掛かる。

 耳の上の髪をまとめて、緩い三つ編みにする。それを両側でやって、即席で魔力の糸で輪っかを作って後ろでまとめる。それを内側に入れて、髪留めで止めれば完成だ。

 シンプルで簡単にできる上に、かわいい髪型。それがハーフアップだ。大きなリボンをつけたり、毛先にウェーブをかけたりして、色々なアレンジができるのもいいところだと思う。


「リラ、できたよ」


 わたしがそう言うと、リラは近くにあった大きな魔氷晶を姿見の代わりにして髪型を確認する。どこかのお嬢さまのような、お淑やかな雰囲気がより一層強くなったように見える。

 ツバの広いキャペリンを被って、フレアスカートのワンピースを着てほしい。そよ風の吹く野原で、振り返ってみてほしい。


「わぁ……かわいい……」

「うふふ……」


「髪だったらいつでもやってあげるから、寝る前には解かないとダメだからね」


「はぁい」

「ありがとう、サフィ」


 機嫌を直してくれたようでよかった。


「じゃあ、今度はわたしの番ね」

「サフィ、早く座って?」


 どうやらわたしの髪を梳いてくれるらしい。断る理由もないので、任せることにした。正直に言えば、リラに髪を梳いてもらえている間、とても幸せを感じていた。前世ではこうやってゆっくりとしている時間はあまりなかったし、お母さんにやってもらったことも、ずっとずっと昔のことのように思う。

 ――わたしは誰かに甘えたいのだろうか。

 そんなことを考える。


 リラは少し慣れない手つきで優しく髪を編み、同じようなハーフアップの髪型にしてくれた。わたしも魔氷晶を姿見にして、その髪型を確認する。頭を左右に振るとまるで無重力下にいるように、ゆっくりと髪が揺れる。広がった髪は太陽の光を受けて、金色に透けていた。


「リラもありがとう」


 リラは咲って、わたしの感謝を受け取ってくれる。

 今日もせっかくオシャレをしたんだし、何もしないのは少しもったいなく感じる。


「そうだ、リラ」

「今日は外までお散歩に行かない――?」



さぁ……泉かでるよーっ!


ご読了ありがとうございます!

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