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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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12話:泉の乙女は着せ替え人形

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 わたしはあられもない姿から、ようやく服を纏うことができた。これで、どこに出ても恥ずかしくはない。

 ――と。

 そう思ったのは、一瞬だった。

 服と言っても、前世であったシャツように袖や襟があるわけでも、ボタンやチャックがあるわけでもない。

 ただの長方形の布だ。

 わたしには古代ギリシャのキトンの纏い方は、知識になかった。バスタオルのように巻き付けるのは違うだろう。それはわかる。わたしはリラの服の着方を、つま先から肩までじっくりと観察をしてみた。

 けれど、どうやったら布一枚でそのような美しい着方ができるのか、さっぱりわからなかった。

 

「……」

「あ、あの、ね……リラ……」


 リラは恥ずかしそうにするわたしを見て、きょとんとして首を傾げた。


「どうしたの? サフィ」


「どうやって着ればいいか……わからない……」


 わたしはなんだか恥ずかしくなって、顔が熱くなる。赤くなっているだろう顔を隠そうと、持っている布を顔に当てて、目を背けた。


「ふふふ、じゃあ、手伝ってあげるわね」


 口を手に当てて、困ったように咲う姿もかわいらしい。


「わらわないでよ……」


 わたしはちょっぴりイジワルになって、怒る。


「もう、ごめんってば」

「ほら、サフィ。ついてきて」


 リラはわたしの手を取って、泉の中に入っていく。泉の水は冷たいはずだけれど、リラやわたしには何も感じない。水の中でも陸と同じように、普通に過ごすことができる。

 リラは岸辺で小さい魔氷晶をふたつ拾うと、それに魔力を流してブローチのような形に変えていった。粘土を()ねるように、簡単に形を変えているけれど、きっとすごく大変で、技術がいるのだろうと思う。リラはこの泉の精霊で、魔氷晶と相性がいいだろうし、魔力の扱いにも慣れているからできることなのだろうと思う。

 わたしも早く、リラのようにうまくなりたいと思った。


「ほら、貸して」


 リラと一緒に編んだ布を渡す。彼女はその布をふたつ折りにして、次に上縁を表側にして折り込んだ。

 それでわたしを包むと、両肩にさきほど作った魔氷晶のブローチを挟み込んで、数歩引く。

 彼女はわたしを観察するように全身を見て、頬に片手を当てて唸った。


「もうちょっとオシャレにしましょうか」


 リラはまたひとつ、魔氷晶を拾うと、今度は魔力の布とあわせて、(おもり)付きのヒモのようなものを作っていた。

 さらには魔氷晶を糸のようにして、一緒に編んだ服に混ぜ込んでいった。それに魔力を流して傷をつけると、その糸の部分だけが紺色に染め上がっていった。布の端にキレイな模様が浮かび上がっていくのはとても幻想的で、思わず声をあげてしまうほどだった。


「白くならないの?」


「うん。乱暴にしないで、魔力を混ぜるようにすると、色が変わるのよ」


 どうやら、傷つけるだけではなかったらしい。魔力の糸は流す魔力の量や、その強さで色や質感を変えられるらしい。望んだものを作るのはかなり難しいのかもしれない。

 縫い終わった布をさっきと同じようにわたしに被せると、今度は腰をヒモで押さえて、体のラインが出るようにしていた。

 模様がついたことで、真っ白だった服が途端にオシャレになったように見える。袖やスカートの端の部分に当たる箇所が色付いて、境目がわかりやすい。


「ど、どう……?」

「かわいい……?」


 リラはさっきと同じようにして考え事をしている。


「髪も結んでみる……?」


 リラ自身は髪をそのままにしている。おさげにしたり、お団子にしてもかわいいと思う。それなのに、わたしだけオシャレするのはなんだか納得がいかない。


「わたしは今のままでいいよ……」

「リラと一緒がいい」


「じゃあ、サフィがわたしの髪を結んで?」


 そう言われてしまうと、断るわけにもいかない。わたしは渋々といった感じで、承諾した。


「わたし、あんまりオシャレにできないよ?」


「サフィがやってくれたなら、なんだっていいもの」


 無責任なことを言ってくれる。わたしも意地になって、考えられる一番かわいい髪型にしようと意気込む。わたしはリラを芝生に座らせて、後ろに立つ。


「ねぇリラ、櫛はある? あと、髪留めとか」


 リラが屈んだかと思えば、またいくつか魔氷晶拾って、それを捏ねて櫛にする。はい、これ。と、渡されて、少し困惑する。ここはそういうものなのだろうと割り切って、髪を梳くことにした。

 リラの髪は長いのに、まったく引っかかることもなく櫛が通った。

 彼女はわたしが髪を梳いている間に髪留めを作っているようだった。少し覗くようにしてみると、簪のように尖らせた魔氷晶に、花の形に変えた魔氷晶をあてがっていた。ガラスのように透明で、とてもキレイな簪だ。リラはそれを少しだけ白っぽくさせて、丸い花芯は真珠のようにも見えた。


「髪留めはこれでいいかしら?」


「うん、ありがとう」

「もう少し持っていて」


 リラの作業に見惚れていて、髪を梳くのを忘れてしまっていた。急ぎつつも、丁寧に優しく、撫でるように梳いていく。髪の分け目が見えないように、大きくジグザグにしてふたつに分ける。

 ここで、ヘアゴムがないことに気がついた。

 ならば、作ってしまえばいい。

 片方の髪を持って、その場で魔力を練る。服を編んだ時のようにすればできるはず。魔力を輪っかにして、ゆるくならないように縮めていく。

 ……できた。

 もう片方も同じようにする。括った先を三つ編みにして、それぞれお団子にする。それに余らせておいた髪を巻き付けて、かんざしで止めればダブルシニョンの完成だ。


「……あ、リラ、ごめん」

「もうひとつ同じ髪留めを作れる?」


「うん、いいよ」


 今度こそ完成した。リラは満足そうに水面の鏡で自分の姿を見ている。やっぱり、オシャレをすると気分があるし、かわいくなれて嬉しいと思う。

 髪を下ろした自然な姿もかわいいけれど、その細い首を顕にして、頬や耳も出すと頭の後ろに咲かせたふたつの花が、彼女のかわいさを引き立たせてくれているようにも感じる。

 それに、普段は髪に隠れて見にくかったかけれど、彼女は顔が白くてキレイだから、赤くなるのがよくわかる。彼女は振り向くと、手を後ろで組んで咲った。

 その姿が、なんとも愛おしい。


「えへへ、とってもかわいい……!」

「サフィ、ありがとう!」

「さぁ、今度はサフィの番よ!」


 そう言えばそうだった。リラの笑顔を見ていてすっかり忘れていたけれど、お揃いにするんだもんね。

 今度はわたしが岸辺に座って、髪を梳かれる番になる。

 

「じゃあリラ、お願いするね」


「任せて!」


 リラはとても張り切っていた。彼女は鼻歌を歌いながら、わたしの髪を梳いていく。

 こうして誰かに髪を梳かれるのは久しぶりだなぁ。と、感慨深くなる。美容院に行ったとしても、こうも優しくされることはないと思った。

 

 なんとなく、こんな時間がいつまでも続いてほしいと思う。遠い未来に悩むこともなく、過去に苛まれることもない。今この瞬間の幸せを噛み締めるだけでいい時間。

 ずっと、ここにいるままでもいいかな。なんてことを考えて、心の中で頭を振る。

 それはそれで、幸せなのかもしれない。けれど、それでは何も知らないままだ。リラは泉の外に行ってみたいと言っていた。今まで、ずっと独りで寂しさを堪えていたのだ。もっと、たくさんの楽しいことを、幸せなことを知ってほしいと思う。

 たぶん、天界らしき場所で話した神様もそう思っていると思う。

 なによりわたし自身が、その望みを叶えてあげたいと強く思っている。


 リラの手つきは大切なものをお手入れするときのように優しく、愛を込めて髪を梳いていた。それはリラにとって当然のことであっても、愛を持って触れることは簡単にできることではない。

 

 その後、サフィはリラに何回も髪型を変えられて、オシャレをさせられるのだった――。



ご読了ありがとうございます!

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