11話:服は魔力で編むもの
やっっっっと人間になれましたね!!!
良かったです。わたしがいちばんホッとしてます。
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――わたしは身体の動きを確かめるためにも、黎明の散歩をすることにした。
畔はいつものように静かで、虫たちの夜明曲のみが聞こえてくる。草木も夜に別れを告げるように、悲しそうにすすり泣く。
夜の名残を湛えた空気の中に、仄かに湿った朝の匂いが漂う。真珠のような歌声が、またひとつ、空に高く響く。その声はどこまでも透き通っていて、森の奥から誰かが呼んでいるかのように感じた。
わたしはそっと身体を起こし、僅かに湿気った畔を歩く。ひんやりとした朝の空気が頬を撫でる。森の梢はまだ淡い霧の毛布を被り、葉先に宿った雫が朝の光を受けて煌めいていた。その静かな朝の気配に包まれながら、遠い森の奥を見つめた。
わたしは早くも、人間になるという目標を達成することができた。
次は魔力の操作をもっと上手にできるようになることだろうか。そして、リラと一緒に魔氷晶のアクセサリーを作る。
……そういえば、こうしてゆっくりと泉の畔を散歩したことはなかったような気がする。この泉は、一言で泉と言うにはかなり大きい。池や、湖に近いかもしれない。けれど、池や湖に水源はなく、窪みに水が溜まることでできあがる。この泉には、いくつも湧き水がある。あの砂が盛り上がって吐き出される光景は、心を無にして見ていられる。
芝生を踏みつける度に足裏が濡れて、くすぐられる。前世では街に出てから、中々感じる機会がなかった。こうして自然に触れていると、こうも心が落ち着くものなのかと思う。
芝生の上に寝転がれば、空はエメラルドグリーンのグラデーションになっている。わたしはこの夜と朝の境目の空が好きだった。とても短い時間しか見ることができないし、普通の生活をしていたら見る機会はない。
そうやって、緩やかな時を過ごしていたら、空からはすっかり夜の気配は消え去って、森も背伸びをし始める。
リラもそろそろ起きる頃かな。そう思いながら、わたしは目を閉じて大自然のオーケストラに耳を澄ませるのだった。
◆
「サフィ、おきて、おはよう」
「うん……? おはよう……」
わたしは眠っていた。本当に眠っていたのだろうか? よくわからない。けれど、レム睡眠のような状態になっていたと思う。
これが本当なら、少しばかりありがたい。前まではやりたいことが多すぎて、睡眠も、食事もいらない完全生命体になりたいだなんて思っていたものだけれど、それはそれで寂しい。寝るのは気持ちいいし、美味しい食事はいっぱいしたい。
わたしは身体を起こして、はにかんだ。
夜の気配はなりを潜めて、朝を迎えつつあった。
「ね、ねぇ。サフィ……あなた、どうして服を着てないの……?」
リラは顔を背けて、顔を赤らめながら言う。
そう言えばそうだった。大事なところは髪で隠れているものの、わたしはほとんどリラの姿形であることを忘れていた。
「あ……ごめんねリラ、服を持ってなくて……」
「リラの服に余りってある……?」
リラは自分の服を両手で摘んで、裾を広げるようにした。
「これ、魔力で編んでいるから、余りはないの」
「サフィ、魔力で服を作れることも知らなかったのね」
「魔力で編む……?」
そんなことができるらしい。つまりはオシャレな服も、魔力で編むことができるのだろうか。この話は是非とも詳しく聞きたい。
「それって、どうやるの?」
「魔力を集めて細い糸にして……それをいくつも重ねるの」
「えっと、こんな風にするのよ」
リラがそう言って手元に魔力を込めたかと思うと、それはいくつもの細い糸となってたちまち編み込まれて一枚の布になっていった。
いくらかの長さにすると、リラは手慣れた手つきでそのしなやかな布の端を折って編み込みが解れないように縫い付けていく。
「どう? キレイでしょ?」
半透明で、とても柔らかそうな布になっていた。でも、このままだと色々と見えてしまう。その不安を感じ取ったのか、リラは言葉を続ける。
「これに少し乱暴に魔力を流すとね……ほら、白っぽくなった」
純粋すぎると、透明になってしまうのだろう。それを傷つけることで、光が透過しなくなる。と、いったところだろうか。
でも、どうやればいいのか、コツがまったくわからない。
わたしが手を見つめたまま固まっていると、リラが後ろに回り込んで膝をつく。そして、後ろから抱きつくようにしてわたしの手を取った。
「大丈夫、わたしが教えてあげるわ」
リラがわたしの手に細く魔力を流す。わたしは、リラの魔力を感じ取って、そのまま外へと出すようにしてみる。すると、ゆっくりと半透明の糸状になった魔力が指先から出てきた。
それらをゆっくりと縦、横と垂直に交差させていく。
魔力を流している間、その布は宙に浮いて、水の中を漂っているようだった。
いくらかすると、手ぬぐいくらいの長さの魔力で編んだ布ができあがった。
リラとわたしで編んだ布は、少しだけ青っぽかった。
「できた……」
わたしは嬉しくなって、それを抱き寄せる。柔らかい。シルクのように滑らかでいて、温かみのある不思議な布だった。
その姿を見て、リラはわたしの肩に手を置いて咲う。
「それが魔力で編んだ布なのよ」
「リラ、ありがとう」
「……あ、でも、服にするには小さすぎるね」
「じゃあ、一緒に作りましょうか」
「うん」
さっきと同じ体勢になって、リラはひとつ息を吸う。
彼女の呼吸も、鼓動もわたしとひとつになったように感じられる。その優しい息遣いが、不安を振り払ってくれた。
リラとわたしは、もう一度魔力を込める。
その瞬間、ふたりの間に漂っていた透明な光が、細い糸のように伸びていく。
糸は硬質な煌めきを帯びながらも、触れればすぐに溶けてしまいそうなくらい儚かった。
集中を切らさないように、わたしの手には力が入って小刻みに震えていた。もしかしたら、緊張のせいかもしれない。
「サフィ、もう少し細くして。大丈夫、わたしがついているもの」
「力を抜いて……そう……上手よ」
わたしは言われた通りに、力を抜こうとする。
わたしの胸の奥から、指先から。微かに青色を帯びた魔力が出て空気に混ざり、リラの編みあげる光糸へと吸い込まれていった。
すると、糸はゆっくりと青を帯び、まるで泉の底の光を閉じ込めたような透明感を得る。
ゆっくり、ゆっくりと布が編みあがっていく。呼吸も忘れてしまうほどに集中して、その様子を見守っていた。
リラがわたしの腕を動かす度に、魔力の布が波打って煌めく。彼女の指が宙を滑る度に、糸はすっと集まり面を成していく。
ところどころに光の粒が散っていて、布と言うよりも星空の帳のようだと思った。白く染めあげれば、キレイなミルキーウェイになることだろう。
朝を迎えて森も目覚め始めた頃、大きな一枚の布ができあがった。
リラは微笑みながら、編みたての布を優しく撫でた。
「サフィの魔力の色は、清らかな水みたい……」
「とても綺麗ね」
あとはちょっぴり乱暴に魔力を流せば、白くなるはずだ。けれど、わたしはもう少しリラと一緒に編んだ、夜空のような布を見ていたかった。
「なんか、白くしちゃうのがもったいないね」
「また編めばいいわ」
「そのときは、もっとすごいのを一緒に編みましょ?」
「うん」
「……ねぇ、白くするのも一緒にやってくれる?」
ちょっぴり乱暴に魔力を流す。とはいっても、その力加減がわからない。魔力を流しすぎて、せっかく編んだ布をダメにはしたくない。
リラは首肯すると、わたしの隣に座って、手を取った。
「わたしはサフィの手に魔力を流すから、それと同じように布に流してみて」
添えられたリラの手から、シャワーの水流が手の甲に当たるような感覚が伝わってくる。コレが、乱暴に魔力を流している状態。魔力の流れを乱されている感覚なのだろう。
「もう少し乱暴にすると、段々と艶がなくなって、少し固くなるのよ」
つまり、麻のような布にできるのだろう。ひとつの素材でいくつもの質に変化できるのは、とても魅力的に思う。
わたしはリラに言われた通り、手に流されている魔力の強さで布に魔力を流す。
すると、水が布を濡らしていくように、半透明の夜空を映した布が白く染まっていった。
シルクのように艶があるのに、肌触りは羽毛のように優しい。こんなにも質が良さそうな布を自分で編めるは、とても嬉しい。これを覚えることができれば、オシャレな服をたくさん作れるかもしれない。
「リラ、ありがとう――」
わたしは立ち上がって、太陽を背にしてリラに向かって微笑んだ。彼女の白い髪は光を受けて淡く輝いていた。彼女は頬に掛かった髪を耳にかけて咲う。その姿が、なんとも様になっていて、見惚れてしまう。
「ふふっ、どういたしまして、サフィ――」
魔力は万能ですね。
人間もできるの? それはまぁ、のちのち。
ご読了ありがとうございます!
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