10-3話:人間になりたい
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「――リラの、型を取ってもいいかな?」
ついに言ってしまった。もう後戻りはできない。ここまで来てしまったのであれば、土下座でも、切腹でもなんだってする。そしてなんとしてでも型を取らねばなるまいよ!
「うん……?」
リラはイマイチ意味が判らないようで、頬に人差し指を当てて少し首を傾げた。
「リラ、わたしはリラと同じように、人型になりたいの」
「えぇ」
「……だから、型を取らせてほしい」
「……どうするの?」
「取り敢えず……わたしがリラの腕を包んで、擬態できるようになるか試してみたいと思ってる」
「それでもし、リラの腕に擬態……再現できたら、次は全身を包んで、人型になりたい」
わたしは、イヤな汗が滴る感覚を味わった。全身が熱くなり、痒くなってくるようだ。
「それだけ……?」
「いいわよ、サフィのお願いだもの」
「しっかり、憶えてね?」
「えっ、いいの……?」
なんて、ふざけた返事をしたような気がする。なんの戸惑いもなく、承諾してくれるとは思ってもいなかった。わたしは歓喜と困惑が波打ち合って、よくわからない変な感覚に陥っていた。
「でも、いいの?」
「サフィは人間になりたいのよね」
「わたしは精霊だし……」
「精霊も、人間も外見は殆ど同じでしょう?」
「わたしは人間と言うよりも、人型になりたい、戻りたいんだよね」
「二足歩行で言語を発せることができれば、ある程度は許容できるし、さっきも言ったように、精霊は人間と外見は変わらないからね。むしろ精霊の方が神秘的でいいかもしれない」
わたしはなにを焦ったか、チャンスを逃すまいと言葉を連ねていた。
それを聞いたリラはそれで納得したようで、頷いて片手を伸ばしてくれた。もう片方の手が胸の位置にあるのは、心の中では恐怖を感じているのかもしれない。
わたしはそっと、その手に触れようとする。その前に、もう一度確認する。
「わたしを信じていいの?」
バカなことを訊く。と、自分でも思う。この乾いた嗤いは、わたし自身に向けたものなのかもしれない。
「……」
「えぇ、信じるわ」
「だって、わたしたち、もう家族でしょう?」
リラは咲う。
家族……家族か。そう言われてしまっては、もう何も言うことはない。リラがわたしを信じてくれている。なら、その信頼に応えないのは、失礼にも程がある。
「……ありがとう」
この信頼に言葉はいらない。わたしは彼女の手を取って、包んでいく。まずは肘くらいで止めて、マッサージをするような感覚で揉むようにして形を憶える。
それを同時に、身体から伸ばした触手のようなものに再現してみる。それは段々とリラの手の形になっていって、白く細い腕になっていった。
「ふふっ……少しくすぐったいわ」
「サフィ、どうかしら。よくできているように見えるけれど、うまく言った?」
わたしは再現したリラの手を動かしてみる。
肘より先しかないから、動かせるのは手首と指くらいだ。グー、パーと幾度か動かしてみて、問題がないことを確認する。関節がないから、あらぬ方向へも動かせると思ったのだけれど、自然に動かせる範囲で動かそうとするだけでは、そうはならなかった。記憶でもそのように曲げる想像ができないから、機能が制御されているのかもしれない。なにより、その方がありがたい。
人間を模倣した悲しきバケモノにはなりたくないからね。
「うん、よさそう」
「やっぱり、記憶を頼りに想像で再現するよりも、観察したり、取り込んだ方が正確だね」
「しばらくしても形が崩れないし、うまくいったと思う」
わたしがそう言うと、リラは自分のことのように喜んでくれた。
あまり表情が変わらない、微笑みが美しい泉の乙女。長い間ひとりでいたから、感情の表現があまり得意ではないのかもしれない。そんなことが想像できる。けれど、きっと彼女は楽しいことが大好きで、喜びを分かち合えるいいこなのだろう。
守りたい、この笑顔。そんな言葉が自然とでてきそうで、彼女のためにある言葉なのではないかと思うほどだ。
そんな邪な考えは……いえいえ、邪ではないですよ。いたって健全で普遍的な意見なのです。
コホンッと、わざとらしい咳払いをして、最後の確認をする。
「あの……リラ、うまくいったから、ね」
「その、全身を同じように包んでもいい……かな……?」
「えぇ、はやくやりましょ!」
「あ、でも、あまりくすぐったくしないでね?」
わたしよりもやる気なリラは、イジワルな笑顔を向ける。わたしだって、今はこんなナリではあるけれど、前世は女の子だ。いやらしいことをするつもりはない。
「なるべくそうするけど、ちょっとは我慢してほしいかな……」
そう言って、わたしは差し出された手をとって、絡みつく。
一度に全身を包んでも、再現できるかはわからない。だから、さっき再現した手から、段々と包んでいくことにした。
二の腕から肩へ。肩からもう片方の腕へ。そして、身体へ、脚へと伸ばしていく。
「ふふっ……変な感じ……まだ我慢しないとダメ……?」
「うん……もう少しお願いね……」
わたしは途中まで、型を取りながら再現をしていた。けれど、そのまま再現を続けるとリラの裸を晒すことになってしまう。それはいけない。たとえ家族であっても、恥ずかしいと思うことや、知られたくないと思うことはあるだろう。
わたしはその場で再現することはやめて、夜の時間帯に好きなだけ微調整をすることに決めた。
(※以下の描写はR18を含むため省略。読みたい方はあとがきのリンクからお願いいたします)
◆
――そしてその晩、わたしはある事実に、問題に直面していた。
それは、「再現できるのって外見だけじゃない?」問題である。
つまり、このままでは声帯を再現することができない。万年無口の美少女になってしまう。
――それはそれでいいかもしれないけれど、できるなら念話だけでなく、普通に話したい。歌とか歌いたいし、なにより人として生きていくのであれば、声は出せないとダメだろう。
ゆえに、わたしはリラの……リラの、口の中に。
……。
今考えるのはやめよう。わたしの心の健康のために。そして貞操のために。
まずはキャラクタークリエイトといこう。
素体は泉の乙女、リラ。
彼女の透き通った目は、ペリドットでもなく、エメラルドでもない。もっと深く、柔らかく、澄んでいる。そう、まるで極夜に靡く極光のように。ゆっくりと回って、彼女の目に当たる月明かりが変わるごとに、その極光もまどろむように重なり合い、波のように寄せては返す。まだ目覚める前の夢の中でしか見たことないような、淡く儚い神秘的な色彩。
けれど、外見は彫刻ではないかと思うほどに整っていて、冷ややかだった。
リラ本人からはこんな冷たい雰囲気は感じない。きっと、彼女の優しさがそうさせているのかな。
まずは髪を調整しよう。プラチナブロンドか、アイリッシュか、とても好きな色だし、むしろ双子のように瓜二つでもいいと思っている。けれど、少しくらいの違いはほしい。
わたしは、月明かりに照らされて、淡く光る髪をさらに白っぽくして、少しだけ水色で毛先からグラデーションをつけた。
髪の分け目を左右逆にして、長い髪に掛かったウェーブをもう少し強くする。
これでよし。
次は……目にしよう。
ここは彼女の目のまま、色を青っぽくした。
鼻、よし。唇はほんの少しだけ柔らかく薄桃色に。顎、よし。爪もよし。身長は……どうしよう。同じでいいかな。胸も……盛りたい気持ちはあるけれど、触らないでおこう。
リラは精霊であるせいか、容姿があまりにも整っていて、変えようと思うところがない。
美人は再現のコストがかからないって本当だったんだなぁ……と、しみじみ感じた。
整っていないと、肌の凹凸や傷、それぞれひとつひとつにコストを割かなくてはならない。それだったら、手を付けなくていい美人に擬態するのが最も簡単なのである。
そう思うと、人間に擬態して誘惑する魔物とかが軒並み美人なのは、こういう理由があったのかもしれないなどと考える。
それでも、試せることは試しておきたいので、頭の中でプリセット登録をするように、いくつか作り変えて見た。大人っぽい姿、幼い姿、男の子のような姿など……。
リラの容姿からかけ離れたものを作ろうとすると、うまくいかなかった。脳内の学習が足りないせいだろう。筋肉の付き方とかは、あまり詳しくはない。前世で美術部だったような気がするし、人体解剖学にも手を出していた記憶があるけれど、それはあくまでも標準的な肉付きだけだった。ボディビルダーのような姿は正直好みではないし、なりたくない。
そして、わたしは次なる問題に気づく。
「……服、どうしよっかな」
そう、服である。今のわたしはあられもない姿で、湖光に照らされている。胸を髪で隠して、大事な部分は辛うじて見えない状態なのである。
この状態のままで人間の住む村や街に行くことはできない。強制わいせつ罪でお縄につくこととなってしまう。
朝になったら、リラに服のあまりがないか訊いてみよう。
そう思って、空を見る。
集中していたせいで気が付かなかったけれど、空は淡く、朝の気配を漂わせつつあった――。
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R18版をムーンライトノベルにて公開いたしました。
タイトルは
精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした。 ― 青い、青い花の園 ―
となっています。
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※この作品は全年齢向けに執筆しているため
なのにR18があったことを前提に書き進めているヒトがいるんですよ。はい。わたしです。
高濃度純愛百合……いいですよね。




