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精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ― 泉の精霊だってオシャレがしたい ―  作者: ぺぺ
第一幕:とある泉でのこと

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10-2話:人間になりたい

わたしもリラになでなでされたい。


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今回は少しギャグ回です。

「――リラの、髪を少しくれない?」


 わたしは最低限の方法で擬態できそうな方法を思い出した。髪だ。髪は古くから神秘的なものとして扱われ、儀式で捧げることもあったという話を読んだことがある。現代の作品でも魔法の媒体にしたり、生贄の代わりにしたりなんて使い方を目にする。実際、わたしの生まれ育った地にも呪いの髪だとかいう話がある。

 ならば、髪を吸収すればそれで擬態できないだろうか? いや、できてほしい。

 わたしは抜け毛の一本だけでもいいから試させてほしい。と、透き通ったスライムボディで訴える。


「髪……?」


 リラはその長い髪を前に持ってきて、手で梳く。たおやかな髪が細く白い指の隙間を流れるように溢れていく。彼女の困惑はもっともだろう。突然、髪がほしいなんて言われたら、誰だって不気味に思う。

 特に、髪を伸ばして大切にしている人からしたらたまったものじゃない。

 髪は女性にとって、命よりも大切なものだって言う言葉があるくらいだ。得体のしれないスライムに髪に触れることを快く許してくれる人なんていないだろう。


「まぁ……いいけど……どれくらいほしいの?」


 けれど、リラは困惑しつつも首を縦に振ってくれた。


「毛先を少し吸収させてくれれば大丈夫……それか、一本だけでも」


「そんなに少なくていいの?」


 リラのキレイな髪を粗末に扱うなんてことは、わたしにはできない。そんなことをしたら、自分の良心の呵責が許してくれないだろう。


「うん。量が多くても、少なくても同じ髪だし、結果は変わらないと思う」


 もし、これが魔法や呪いの類であれば違うのかもしれない。けれど、わたしの擬態はその言葉の通り。言ってしまえばただの模倣、コピーだ。

 それなら、髪のひとつからすべてを再現してしまえばいい。

 わたしはそう考えて、リラの淡く金に光る髪を受け取った。


 身体の中に取り込んで、溶かして吸収する。なんとなく、リラの魔力を吸収したような感覚が身体に広がった。

 次はリラの姿を想像して、擬態するだけだ。

 わたしはそうイキんで、身体を変形させようとした――。


「ふん……っ!」

「……」


 ――そこにはプラチナブロンドの髪を靡かせる、小さなスライムがいた。


「……」

「いや――、いや、ナニコレ」


 ふぁっさぁ――と、髪が風に攫われて、ぷるぷるのスライムボディが露わになる。

 見た目は完全に、カツラを被ったスライムだった。

 静寂(しじま)の向こうに、呆然としているスライムと、言葉を失っている精霊の姿があった。すべての時が止まってしまったかのように世界は息を呑んで、その光景に戸惑っているようにも感じられる。

 この一瞬のできごとが、さも永遠かのようにすら感じたのは、きっと気の所為ではないだろう。

 

 いや、わかるよ。わかる。誰だって、こんなものが目の前に現れたら現実から目を背けてしまいたくなるよ。現にわたしは失望か、羞恥か、絶望かもわからない蠱毒になった気分だった。

 リラを見てよ。あの明るくてかわいい彼女ですら、言葉を失って――。

 ……。

 どうしてお腹を抱えているんですか。

 しゃがまないでください。

 リラさん。

 わたしを見て?


「んふふっ……」

「ふふっ……」


 リラは声を殺すようにして笑っていた。必死にお腹と口を押さえて、笑いを堪えている。わたしであったら、きっと笑い転げて死んでいることだろう。

 リラはいいこだ。わたしのことを笑うまいと耐えているのだから。そういう風に思っておこう。


「……リラ」


「んっ……ダメッ……! ふふっ……」

「ご、ごめんな、さいっ……なんだかおかしくって……」


(ふぁっさぁ――)


 わたしはまた、髪を靡かせてみた。


「んーっ! んふふっ……」


 うん。どうやら、髪を吸収しただけでは擬態できないようだ。吸収したものしか再現できないのだろうか。もしそうなら、わたしが人型になるためには、それに準ずる体型の生物を吸収しなければならない。

 つまりそれは、今のわたしが人型になるためにはリラを吸収する他ないということだ。

 それはダメだ。

 他の方法を考えなくてはいけない。

 わたしはお腹を抱えて丸まっているリラを傍目に、前世の知識からなにか方法がないか必死に思い出してみる。

 神話や民間伝承から何かヒントを得られないだろうか。

 人ではないナニカが人になろうとした伝説……。

 ギルガメッシュ叙情詩、フランケンシュタインの怪物、混沌、パラケルスス――。

 粘土を捏ねたり、作ったり、人型に型を取る……。

 そういう話はいくつもあるけれど、スライムが人型になる話なんて、都合の良いものは思い出せない。

 ……いや、人型に型を取って、冷やして固めたら人型になっているなんてことはないだろうか。

 別に吸収なんてしなくても、わたしの頭の中には人間の体の構造にある程度の理解がある。美術を嗜むものとして、人体解剖学は気休め程度にかじっていた。

 そもそも、前世は人間なのだから、形さえ解ってしまえばなんとかなるんじゃなかろうか? という疑問が生まれてきた。

 そう、例えばリラの身体に巻き付いて、その表面だけを分析して型を取るような……。

 そう考えて、なんとなくできるような気がしてきた。

 少しでも可能性があるのならば、試してみたいという気持ちが湧いてきてしまった。

 

 わたしは生えてきていた髪を引っ込めて、ただのスライムに戻る。


「ねぇ、リラ――」


「……うん? どうしたの、サフィ」


 リラは目尻に浮かんだ涙を拭って、わたしに微笑む。

 言葉にしてしまえば、もう後戻りはできない。けれど、わたしにはそれを言わないなんていう選択肢は、既になくなっていた。

 

「あなたの――リラの、型を取ってもいいかな?」

誰ですか。こんなふざけた感じにした人は……

はい。わたしですね。たまにはふざけ倒したいときって、ありますよね……?あるって言ってほしい。


ご読了ありがとうございます!

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