10-1話:人間になりたい
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――わたしがとあることを決意して、力が増してから数日が経った。
今日も穏やかな朝を迎える。
草木は夜にわたしの水魔法で作られたエメラルドの露を纏い、それをピアスにして美しくドレスアップしていた。見惚れていれば、それを見せつけるように踊り、煌めかせる――。
おさらいをしよう。
リラは魔力量が大きく増えて、魔力の制御が一段とうまくなったらしい。それに加えて、水に関することであれば、魔力の消費量もほとんどなくなったらしい。
らしい。というのは、リラ個人の感覚でしかないし、わたしも魔力についてはまったくといっていいほど理解がないので、正確なことがわからないからだ。
わたしの方は、魔力による周囲の把握が目で見るような感覚と同じになった。無意識でも視覚を得られるようになったことは、大変喜ばしい。さらに、目という感覚器官に依存していないので、死角が存在しない。いつかのゲームをプレイしているような三人称視点で景色を把握できるのは、とてもいい。別に死地に身を投げるつもりではないけれど、インフラ設備や法律が整っていなさそうな異世界だ。戦闘するときにはとても役立つと思う。
もちろん、一人称視点で、目で見るときと同じようにすることもできる。
他には、魔力の流れを視ることができるようにもなった。これができれば、魔法を使った痕跡とか、不可視の魔法……呪いのようなものも可視化できると思う。
ついでになんかすごい雷魔法や水魔法を使えることがわかった。わたしにもチート無双の時代が来たのかもしれない。まぁあまりに目立って命を狙われたくないし、しばらく出番はないであろうことを願おう。
わたしはまんまるでゼリー状の身体をハネさせて、喜びを表現した。
朝の散歩を終え、昼も近くなったところで、わたしは遠くを見る。
空は澄んでいる。青々とした草に、土の匂い。大自然を全身で感じている。
ふと風に頬を撫でられて、甘い匂いが香る。一瞥を投げかければ、誰にも見られないことを知ってもなお、咲くことをやめなかった小さな祈りの声が目に入る。
他に興味を惹くものもないので、近くに寄れば、茎は細くしなやかで、何度も泣いた後が散らばっていた。気まぐれに慈悲を与えるように、魔力を含んだ水を根本に掛ける。
すると、その泣き顔はみるみるうちに笑顔になって、咲っているようにみえた。
――ふむ、いいことをした。
なんてことをして、わたしは泉に向かう。
今日もいい天気だ。空は澄み渡って、泉も凪いでいる。映し出された空には昼だというのに、夜の時よりも眩しい星々が輝いているようにも見える。その力強い輝きは、わたしとって眩しすぎるくらいだった。
「――」
「人間になりたぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」
「きゃ! なぁに? どうしたの?」
わたしは叫んでいた。
人間になりたい。
そう、わたしのとある決意というのは、人間になることであるっ!
なんですか? スライムって。冷静に考えてもワケがわかんないですよ?
それにほら、もう少し他になにかなかったんですか? エルフとか、妖精とか!
この際、人型ならなんだっていいですよ! ……あ、やっぱりゴブリンとかオークはなしで。
悪魔とか獣人とかビジュがいいのでお願いします。わたしは欲望タラタラなんです。
「人間っ……人型になりたいっ……」
さも、苦虫を噛み潰したかのような声を絞り出す。今、できることと言えば触手のようなウネウネを伸ばすことくらいで、スライムという存在の定義から逸脱することはできていない。
「それじゃあ、擬態をしてみたらどうかしら?」
リラがそんなことを言う。
「擬……態……?」
できるンですか? そんなこと。いやまぁ確かに、スライムがそういうことをする作品もあったような気がする。人型のスライムとかもいるし、牝鹿を吸収した後にはわたしは牝鹿になっていた。
ならばできる。やるしかない。わたしの身体はゼリー状なんだから、どんな容貌にだってなれるはずっ……!
ならばここは気合いを入れて言ってやろうじゃありませんかっ! せーのっ!
(変っ身っ!)
流石に声を大にして言うのは恥ずかしいので、頭の中で魔法の言葉を唱えた。するとなんとなく、光が身体を包んだような気がする。ついでに視界の高さも変わった気がする。
「……鹿さん?」
わたしは自分の姿を魔力で捉える。
……牝鹿ね。精霊に牝鹿、神話っぽい組み合わせ。
残念ながらバレエは踊れない。
牝鹿じゃ意味がないじゃない! と、わたしが頭の中で暴れ回っていると、リラがわたしのことを撫で始めた。
「かわいい……ふさふさ……」
「ぴぃ……」
わたしはくすぐったくなって、思わず声を出してしまった。完全に鹿の鳴き声である。わたしはもう鹿になってしまった。
それにしても、素晴らしい再現性だった。毛並みはしなやかで、全身を覆う体毛が細部まで完全に再現できているように感じる。さすがに体内はただのスライムだろうけれど、魔力で形を感じ取る限り、完全に牝鹿にしか見えない。
「ふふっ……ここがいいのね……いい仔いい仔……」
「ぴぃぃぃ……」
あぁ、クセになりそう……撫でるのが大変お上手で……コレが精霊の手つき……常日頃から泉に立ち寄った野生動物と触れ合っている御手は違うね……。
快楽に抗う理由もないので、わたしは自分の命運を委ねることにした。
身体のいたるところを弄られ、まさに生まれたばかりの仔鹿のようになっていた。
わたしはすべてを諦めて、吸収しなくても、型を取ったら擬態もできるようにならないかなぁ。などと考えていた。今のままでは、人間を吸収、もしくは消化しないと、人間へと擬態できないことになってしまう。それは非常にまずい。
現在の状況では、その対象がリラしかいない。無論、そんなことは論外なので、できる可能性とすれば、『たまにやってくる冒険者たち』である。『たまに』って、どれくらい? 話を聞く限り、精霊であるリラの時間の感覚は怪しいものがある。
それに、冒険者たちには悪いけれど、吸収したり消化したりしたモノのみが対象なら、その人達には擬態したくない。深い森の奥であろうこの地にやってくる冒険者たちが、美男美女である確率は低いだろう。そもそも、女性は少ないだろうし、男性に擬態するつもりもない。エルフならなんとかならないだろうか。
……あとは男の娘なら考えなくもないか?
そもそも自分のアイデンティティを他人に依存したくないというのが、本音かもしれない。
わたしはキャラクリには凝るタイプなんだ。
◆
リラが飽きるまで撫で回されたあと、いつものように泉の畔で日光浴をしながら流れていく雲を眺めていた。
わたしはリラに撫でられていたときに考えていたことを言おうか、何度も逡巡していた。
リラを捕食することはない。けれど、スライムに包まれるだけでも嫌悪感はあるはずだ。こんなことで拒絶されて、関係に瑕ができてしまうのは望んでいない。
捕食するわけではないなら、いいのではないか? けれど、わたしであれば首肯するには躊躇することだろう。なぜなら、単純に考えても、わたしは『魔物』でしかないからだ。
魔物の考えていることは判らないものだ。相手が人間であっても、真意を理解するのは難しい。嘘だってつく。
ならばもしも、魔物が嘘をついていたら? 捕食しないと言うスライムが、本当に捕食しない保証がどこにあるのだろうか。
リラとわたしの間に、その疑念を払拭できるほどの信頼が築かれているのか。わたしには答えを出すことができない。
これは悪魔の証明だった。自分以外の意思が介入する問答に、自分独りで答えることは不可能だからだ。
そんなことを考えていたら、キレイな歌のようなものが聞こえてきた。
草笛だ。
甲高い音が空を突き抜けていく。
なんという歌なんだろう。歩くような、緩やかな歌だった。アンダンテ。名もなき詩よ……。
リラの草笛を聴いていたら、わたしの悩みはどうでもいいような気がしてきた。今わたしが、わたしの歩く速さで前に進むには訊くしかない。この悩みにはどんな心配も、忠告もただの妨害でしかない。わたしは、わたしの歩みを否応なしに邪魔されるのが、この上なく嫌いなんだ。
「ねぇ、リラ」
その一言で、心地よい歌は聞こえなくなってしまう。
「なぁに、サフィ」
「あなたの――リラの、髪を少しくれない?」
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