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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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90-2話:湖の乙女たち

※シャナの目線のお話です。

 ◆


 私は今、サフィとリラに手を繋がれて湖の上を歩いている。こうしている今でも信じられないけれど、私は湖の上を歩いているの。

 足の裏に水の冷たさが伝わってきて、なんだか不思議な気分だわ。サフィとリラの横顔を見ると、とても嬉しそうにしていて、見ている私までも嬉しくなって来てしまう。

 段々と近くに見えてきたエフェリアと女の子に声を掛けると、少し遠いここからでも驚いている様子が見えた。


「アラ、シャナどうしちゃったのン? いったいいつからお水の上を歩けるようになったのよ」


「シャナお姉ちゃんも、青いお姉ちゃんたちもすごーい!」


 ふたりの元へ行くと、エフェリアはサフィに呆れたような目線を向けて、女の子は水をじゃぶじゃぶと音立てながら、わたしたちの周りを回るの。

 エフェリアはサフィがなにかしたってすぐにわかったのね。サフィはエフェリアにじっと見つめられて、そっぽを向いて乾いた笑いを漏らしていた。


「もう、シャナ? サフィのヘンテコな提案に乗っちゃダメよ?」

「サフィったら、むちゃくちゃなことばかり言うンだから!」


 エフェリアのその言葉を聞いて、私も乾いた笑いを漏らす。確かに、サフィの提案はとってもヘンテコで、とっても怖かった。あんなに怖いと思って、心臓が跳ねるように脈打ったのはひさしぶりだったもの。


 でも、良かったと思っているの。怖かったことは確かだけれど、サフィやリラと一緒に湖の上を歩けるなんて、おとぎ話みたいだわ。

 私自身、遠い昔におとぎ話の存在になってしまった人間だけれど、ありえないことを現実にしてしまう魔法を見るのは久しぶりだった。サフィのおかげで悲しませてしまったリラにも笑顔が戻って、私も嬉しくて仕方がないの。

 サフィやリラ、エフェリアと出会ってからは毎日が夢みたい。それくらい、楽しいことばかりなの。

 もしかしたらサフィたちは、幸せを運んでくれる青い鳥さんなのかもしれない。もしも違うと言うのなら、さしずめ幸せを運んでくれる青い精霊さんね。


 そんなことを考えていたら、なんだかおかしく思えてきてしまって、笑いが込み上げてきた。口元に手を当てて、みんなが私の周りで楽しそうにしているのを眺めていた。


「ねぇねぇ! 青いお姉ちゃん! あたしもお水の上を歩きたい!」


 女の子はリラの手を取って、待ち切れないと訴えるように跳ねていた。リラは少し困ったようなお顔をすると、屈んで女の子と同じくらいの目線になって、エフェリアに頬をつつかれているサフィを見上げた。


「サフィ、この子もお水の上を歩けるようにできるの?」


「どうだろ……魔法が使えるなら絶対にできると思う」


「あたし、お姉ちゃんたちみたいに歩けないの?」


「サフィお願ぁい……」


「サフィ、私からもお願い」


 私はリラの真似っこをするように、同じように女の子の後ろについた。


「サフィ? こぉんなにお願いされちゃったら、断れないわね?」


 エフェリアはイタズラな笑顔を浮かべて、サフィの耳元で囁いた。


「お……お姉ちゃんに任せて……!」


 サフィはできるかもわからないことを、勢いで首を縦に振ってしまった。女の子はその言葉を聞いて、とても嬉しそうに跳ねている。その嬉しさが水飛沫になってスカートの裾を濡らしていくように、私たちの服はもうすっかりびしょ濡れになっていた。


 ◆


 サフィが風邪を引かないように。と、服の水気を魔法で取ってくれて、みんなで水の上を歩く練習を始めた。エフェリアもどうせなら水の上を歩けるようになりたい。と、私と一緒に練習をしている。エフェリアと私は既に水の上を歩けるようになったのだけれど、気を抜くと沈んでしまいそうになるから、いつでも水の上を歩けるように常識と意識を変えていく練習をしている。


 けれど、女の子は中々上手くいかないようで、先生役のサフィも悩んでいるようだった。


「お姉ちゃん、難しいよぉ……」


「うーん、どうしたものかな」

 

「ふたりとも、どう? なにか掴めるものはあった?」


 湖畔に座り込んでいるサフィも、女の子も首を横に振って、寂しそうに俯いた。


「やっぱり、魔法が使えないとダメそうだね。それに人間の魔力量だと、すぐに歩けなくなっちゃうと思う」


 通常、人間ひとりが保有する魔力量はスプーン一杯にも満たないと聞いたことがある。僅かに使える人はカップ一杯。そして、魔法使いなどの才能のある人たちはバケツから樽くらいの大きさだと云う。

 たぶん、妖精や精霊である私たちは樽くらいの大きさ……ということになるのかしら。

 もしかしたら私はの魔力量はバケツくらいしかないかもしれないけれど。だって、サフィやリラの魔力量の方が私よりもずっと多いことは見ただけでもわかるもの。


 残念なことにおばあちゃんの家系は魔法使いじゃない。だから、才能があったとしてもカップ一杯の魔力があるかどうかだと思う。

 女の子は今にも泣きそうになってしまっている。私は女の子に寄り添うと頭を胸に抱くようして撫でてあげた。少しでも気が紛れてくれればいいなって思ったの。

 そしたら、サフィは悩ましいといったように言葉を吐き出した。


「一応方法はあるんだけどね、これからもずっと自由に……っていうのは無理かな」


「それはなに?」

 

「簡単なことだよ。わたしが手を繋いだまま一緒に歩けばいいんだ」

「でも、これだと手を離した途端に沈んじゃうし、みんなと遊ぶのは難しいかなって」


 確かに、お水の上を歩くことは叶ってもそれだと少しばかり物足りない。サフィはもっと、自由にしてほしいんだと思う。

 けれど、それはちょっぴり……そう、ちょっぴりだけ贅沢さんね。

 だって、わたしたちにとってはほんの少しだけでもお水の上を歩けるなら、それはもう夢と変わりないもの。


「サフィ、それでもいいから一緒にお水の上を歩きましょう? 遊ぶことはできなくても、お散歩くらいなら満足にできるでしょう?」


「うーん……あなたはそれでもいい?」


 サフィはまだ何か満足できないようで、女の子に意見を求めた。その質問に女の子は大きく頭を動かして、目を輝かせた。


「うん! お姉ちゃんたちとお散歩する!」


 ◆


 陰っていたお顔はもうどこにもなくって、向日葵のように立派な笑顔を咲かせていた。片手にサフィ、もう片方の手で私の手を取って、跳ねるようにしながら歩いている。ホップスコッチを踏んで湖に波紋が広がるのを楽しんでいた。

 リラとエフェリアも一緒になって歩いている。サフィはそんなお転婆娘たちに振り回されるようになっていて、身体を絶え間なく左右に揺らしていた。その度に彼女の長く白い髪は光を反射して青く煌めいていた。

 サフィは苦しそうなお顔をしながらもどこか嬉しそうに咲っていて、お転婆娘たちに振り回されれるのを楽しんでいるように見えた。

 

 サフィはみんなのことが大好きなのね。だって、とっても幸せそうな色をしているの。彼女の色は私には眩しすぎて目を細めて見るしかなかったのだけれど、ちょっぴり羨ましく思っちゃった。

 あんなにも深い青色は、私は見たことがなかった。深い、深い青色だというのに、その色はちっとも澱んでいなくってどこまでも澄んでいるようにみえたの。おかしいわよね。色が濃いのに澄んでいるなんて。

 でもね。たしかに澄んでいるの。

 きっと今までたくさんのことを悩んで、考えて、それでも希望を見続けてきた色なのね。少なくとも私はそう思った。そういう色を、サフィの魂はしていたの。


 湖に吹く風は今までのものと違って、お花の匂いはしなかった。この身体を突き抜けるような、澄んだ匂いが水の匂いなのかもしれない。花の香る甘く温かい風も好きだったけれど、今感じている涼しい澄んだ風も良いなって思ったの。



 

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