0話:ボクらの愛しい彼女たち
現在、第三幕(王都編)をのんびり執筆中です。
2026.8/3
泉の畔でどこまでも澄み渡る青い、青い空を眺めていた。ゆっくりと流れていく薄い雲の間から宝石のように輝きを放つ太陽が顔を見せる。それはキミたちの元に幾筋もの金のヴェールを靡かせ、泉にその輝きの欠片を落としていった。
キミは左手を翳して、その薬指に嵌められた蔓と花をあしらった指輪に見惚れていた。指輪の縁が露を反射したように煌めいてキレイだったんだ。
泉の向こうでは、泉の精霊と花の妖精の愛しい彼女たちが咲っている。水面の上を跳ねるように回り、彼女たちから溢れ出す幸せの波濤が泉に溶けて広がっていった。そよ風が彼女たちの髪を攫い、小さな花びらを宙に舞い上がらせる。水面に揺蕩う無垢の花びらは光を含んで淡く透き通り、やがて泉の青に溶けていく。
泉の精霊、リラはスカートの裾を持ち上げて、揺れる水面を蹴り上げた。それは宝石が砕け散るかのように幾つもの煌めく雫となって小さな虹を描いた。
花の妖精のエフェリアは黄色い悲鳴を上げて、どんなに大きく美しい花にも負けない顔で笑っていた。小さな彼女もリラに仕返しをするように、その小さな手で青い宝石たる雫を掬ってみせた。
彼女たちは円舞曲でも踊っているかのように身を翻しては跳ねて回り続けていた。
「サフィ~! 一緒に遊びましょ~!」
「そうよ! 早くしないと逃げちゃうンだから!」
愛しい彼女であるリラとエフェリアがキミを呼んだ。遠くで手を振る彼女の指の付け根が、時折光って見えた。キミが嵌めている指輪と同じものだ。キミは咲ってゆっくりと身を起こして伸びをした。身体の裡に新鮮な空気をめいっぱい取り込んで、吐き出した。
「今行くよ~!」
キミはそう言って、当然のように泉の上を歩いていく。一歩進むごとに波紋が広がっていって、花びらでお化粧をしている水面を揺らした。
すると彼女たちは黄色い声を上げながら咲って逃げていく。追いかけっこの始まりだ。キミは仕方がないとワザとらしく息を吐いて、両手で頬を叩いた。思わずニヤける顔に気合いを入れるためにね。
キミが手を伸ばした先で指輪の花はキミの鼓動に合わせて仄かに灯り、彼女たちはくるくると回り続ける。スカートの裾が水面を掠め、水飛沫が光という名の玉を砕いて散らす。その一瞬一瞬が、宝石よりも確かな輝きを持っていたことだろう。
キミは思う。
この光こそがキミが掴み取った幸せの証なのだと。
この光景をずっと見ていたい。と。
ならばそれを叶えて見せよう。
だってそう、これは。
ボクらの愛しい彼女たちの、この世界で最も透き通った、幸せの青き物語なのだから――!




