21話:侵入
「当たり前の話だが、要塞都市に侵入出来たとしても隠密行動でシャルトルーズを救出するのは不可能だ、この都市が世界封鎖機構の領域である以上、あたしらの動きは丸見えだろうよ、突っ込んだ時点で正面から撃ち合う想定をしていた方が良い」
「ですが、そうなると世界封鎖機構の思うツボでは……」
「そうだな、だから一層派手に暴れて目を惹き付けてやる」
「……?」
疑問を孕んだ声に、ラスティは薄い笑みを浮かべ、頷く。暗闇の中で、彼の眼光が鋭く煌めく。闇夜に潜む獣がその牙を剥く瞬間のように、彼の決意は冷たく、しかし燃えるようだった。
しばし沈黙し、思案を巡らせた彼は、指を鳴らし、仲間たちを見据えた。その仕草は、まるで戦場の指揮官が最後の作戦を打ち出す瞬間だった。
「――陽動作戦?」
「正解だ」
「ど、どういう事?」
「成程……そもそも、私達の目的は世界封鎖機構を倒す事でも、護衛を倒す事でもありません、シャルトルーズを救出することですからね」
「主戦力の部隊が目立つ様に行動して、救出部隊が迂回してシャルトルーズを確保する……」
「……あぁ! 二手に分かれて行動するって訳?」
「そうだ、アタシら戦闘部門が真正面から突っ込んで騒ぎを起こしてやる、そうしたら世界封鎖機構も、こっちの相手をせざるを得ない。その間にリーダーがシャルトルーズを救出しろ、有象無象のゴーレム程度なら問題ねぇだろうし――どうだ、簡単な話だろう?」
「でも、実際に可能なの? こんな要塞都市って呼ばれる位の戦力を、戦闘部門だけで――」
「あぁ? あたし達を誰だと思っていやがる」
戦闘部門単独での陽動は、確かにアーキバスの精鋭ぞろいの戦力を活かすには最適だ。だが、世界封鎖機構の魔導士部隊と要塞都市の防衛システムを一手に引き受けるのは、リスクを伴う賭けだった。
その賭けは彼らの命を賭けた最後の賽の目だった。
「了解」
迷いはない。戦闘部門への信頼と、結束の強さが、彼女たちの瞳に宿る。敵は脅威だが、戦闘部門が一丸となれば、勝利を掴む可能性は十分にある。
彼らはチームとしてこそ真価を発揮する。個々の力は強大だが、全員が揃えば、その上を行く。その絆は、闇の中で燃える炎のように、ラスティたちを突き動かす。
「決まりですね、正面は私達――戦闘部門が担当致します」
「ふむ、ならば後方から潜入するのはラスティとエクシアとデュナメス」
「諜報防諜部門は遠隔で支援するよ、防衛システムのクラックには人手が必要だからね」
「任せて下さい、完璧にやり遂げて見せます」
役割が決まり、全員が力強く頷く。
ラスティは仲間たちの顔を見渡し、自身の頬を力強く叩く。鋭い痛みが精神を研ぎ澄ます。不安はあった。
だが、勇気がそれを凌駕した。戦士が己の魂を奮い立たせる儀式のようだった。
「これは世界を救う戦いではない。私の家族を救う戦いであり、またシャルトルーズという一人の個人を救う戦いだ。慈善活動組織アーキバスの理念は純粋な人助け。危険だからと封印処置されようとしている女の子を助けるために我々は立ち上がる! みんな、よろしく頼む!」
魔装ゴーレムギアを手に、ラスティは深く頭を下げる。ここに、シャルトルーズ奪還計画――要塞都市リッチドラム攻略作戦が決定した。
その決意は、帝国の命運を背負う重圧と、純粋な人助けの信念が交錯する瞬間だった。
「此処が要塞都市リッチドラム」
「厳密に云えば、その搬入口ね」
「ともあれ、漸く到着だな」
無人列車のコンテナから顔を覗かせ、ラスティ、エクシア、デュナメスは周囲を見渡す。諜報防諜部門が特定した搬入ルートを使い、秘密裏に潜入した地下ステーションは、絶え間ない機械音に支配されていた。
ドローンやクレーンの駆動音、列車の発着音、金属の擦れる音が、冷たく響き合う。まるで、この要塞都市の心臓が無機質に脈打つ音のようだった。一行は隙間を縫い、地上へ通じる通路へ進む。
ラスティたちは物珍しげに周囲を見回すが、諜報防諜部門のメンバーは手慣れた様子で通信を開く。
「良し、予定通り現場に到着した。問題なし、警報の類はどうかな?」
『大丈夫、全部黙らせてあるから……それより列車運行に問題はなかった?』
「はい、流石だね。凄く快適だった」
「うん、特に問題なし」
『そっか、ぶっつけ本番だったけれど上手くいったみたいだね』
無人列車には警報や探知機が備わっている。だが、諜報防諜部門がネットワークを制圧し、アラートを封じ込めた。この隠密行動の成否は、彼女たちの手腕にかかっている。
その事実は、彼らの命運を握る糸が、遠くで操られている。
「少し薄暗いな」
「この辺りは人の手による管理を想定していないのね、光も非常灯の類しか設置されていないみたい」
「或いは、まだ建設途中なのかもしれないな」
「防衛設備とか、インフラ、コア部分の建設が終わっているのなら、最低限機能はするだろうし……」
薄暗い地下通路を進む一行。剥き出しのパイプや配線が垣間見え、小型円形ロボットがふよふよと浮かび、プレートを溶接している。非常灯が等間隔で通路を照らし、遥か奥まで光が続く。
人の気配はない。要塞都市は、ゴーレムとドロイドで完結しているようだ。その無機質な光景は、人間の存在を拒絶する機械の王国だった。
「あそこに居る、何か小さいゴーレムとかは見つかっても大丈夫なの?」
『アレは整備、メンテナンス作業用のゴーレムだから大丈夫、通報システムとか、警報の類は搭載していない、ただ気を付けてね、その通路の先――地上に出たらもう都市内部に入るから、そうなったら警備ゴーレムも出て来ると思う』
『一応、こっちでも常にモニタリングしているから、何かあったら直ぐに伝えるよ!』
『ですが此方では拾えない何かが現れるかもしれません、警戒は怠らず、御注意を』
「了解」
通信に頷き、ラスティは端末で時刻を確認する。予定通りの到着。後は戦闘部門の合図を待つだけだ。
その瞬間、戦場に潜む静寂が、彼らの心を締め付ける。
「時間的に余裕はある、私達は一度此処で待機ど、戦闘部門が暴れたら騒ぎに乗じて行動を――」
『――待って』
オペレーターの鋭い声が割り込む。
『早速反応がありました、数は三!』
『気を付けて! 何か来る!』
通路の先に目を凝らすと、メンテナンスゴーレムより大柄な影が走行してくる。薄暗い通路を突き進む稼働音。照らされた外装と左右の銃口を目にした瞬間、ラスティは感嘆の声を漏らす。
「おや、中々素敵な子だね、迷子かな?」
「見た事ないタイプね……確かにミッドガルでは珍しい――」
「冗談言ってる場合じゃねーぜ、二人とも」
デュナメスが身を震わせ、叫ぶ。現れたのは世界封鎖機構の魔導士だった。その姿はこの要塞都市の冷酷な意志を体現する使者のようだった。
「もしかして、もうバレのか!?」
「作戦開始前なのに、速すぎる……!」
ラスティの声に焦燥が滲む。諜報防諜部門がコンソールを叩き、応答する。
『大丈夫! こっちで周辺ネットワークは制圧してあるから!』
地下のゴーレムはリンクを切断され、孤立している。欺瞞措置により、ネットワーク上では正常稼働に見える。破壊しても問題はない。その事実は、まるで彼らに一瞬の希望を与える光だった。
『本当なら、乗っ取ってしまうのが一番良いのですが……流石に、其処まで許してくれる手合いではなさそうです』
一行は胸を撫で下ろす。作戦の頓挫は免れた。だが、その安堵は一瞬でしかない。
「ふむ、悪くない走り出しだ、なら今の内に対処してしまおう」
「なるべく、派手な攻撃はしない方が良いわよね」
「そうだね、騒ぎは戦闘部門に起こして貰わないと、戦闘の際は周囲に配慮して戦うとしよう」
「分かりました!」
「りょ、了解です……!」
「よっしゃ、行くぜ」
静かな処理が求められる。開戦の合図は、魔装ゴーレムギアから放たれた魔力レーザーの甲高い音だった。その音は、まるで戦場の幕開けを告げる雷鳴のようだった。
『コードE3、攻撃を受けている増援を!』
『通信が……電波妨害か!』
『仕方ない、我々で対処するぞ』
『了解』
戦闘の火蓋が切られた瞬間、ラスティ、エクシア、デュナメスは、要塞都市の鉄壁に挑む最後の戦士のように、覚悟を胸に戦場へと踏み出す。




