7 へんしん!
というか、完璧な変装を、変装とすら思ってもらえていなかったなんて!
これはあれだ、あまりにも自然すぎて変装と気づかれなかったんだ……。
変装を変装してわからなくなっていた! わたしすごい!
そういうことにしよう。
「変装するなら、マーサにやってもらおう!」
「マーサ?」
「マーサはすごいんだよ! 毎朝、わたしをケダモノから、お嬢様っぽく変身させるんだー」
自分で言うか!
と突っ込みたかったが、その時には、ヤマザル令嬢はバタバタと階下へ駆け下りていった後だった。
画家令息が穏やかな声で言う。
「僕の乳母です」
ヤマザル令嬢がつれてきたのは、ふっくらした体形のメイドさんだった。
「マーサ! 毎朝アタシにいつもやってるようにこの人も、パパっとやっちゃって! 変身させちゃってよ! 青虫からチョウみたいにしてくれるじゃん!」
「オリーお嬢様。私、お嬢様を変身などさせておりませんよ」
「えーっ。アタシを毎日、ケダモノからおじょーさまにしてくれてるじゃん!」
「してくれてる、と申されましても……」
マーサさんは、困ったような顔で、画家令息を見た。
画家令息は、あいかわらず穏やかな声で、
「バンダルバンダ男爵令嬢の黒縁眼鏡が、不自然に見えないように、整えて欲しいんだ」
「わたくしからもお願いします。これでは、似合わない仮装みたいですもの」
ええっ!? サラってばそこまで言う!
「……」
マーサさんは、じっとわたしを見た。
ちゃんと変装になってるよね!? ひとりくらいは分ってくれるよね!?
「確かに……。これでは仮装、しかも地味すぎて、仮装にすらなっていないという感じですね」
わたし以外の3人がうなずいた。
容赦なさすぎない?
「さしでがましいことを言わせていただきますが。いっそ、外してしまったほうがよろしいのでは? お顔の作りにあってるとは……もっと細いフレームのモノのほうがお似合いだと」
またも、わたし以外の3人がうなずいた。
「マーサの言うことはもっともだと思う。だけど、今日はすぐこれから出かけなきゃいけないから。とりあえずできる範囲でしてもらえないかな?」
「あー、なるほど、そーゆー言い方するんだ」
なぜかヤマザル令嬢は、メモをしだした。
「わたくしからもお願いします。このままだと、『本人だけは仮装をしているつもりですが、周りじゅうにはばれていて、単にセンスが悪い眼鏡をかけているかわいそうな令嬢』になってしまいますわ」
ええっ!? サラってばさっきより具体的でひどくないそれ!?
「……」
マーサさんは、じっとわたしを見た。
うわ。今度はどんな感じの容赦ないことを言われるのかな?
ここまで言われると、楽しみになってくる。
「確かに、これでは『本人だけは仮装をしているつもりですが、周囲からは仮装とは全く思われていなくて、今日は、美的センスを疑われるような似合わないメガネをかけている色々と気の毒な御令嬢』と思われてしまいますね」
わたし以外の3人がうなずいた。
すごい! さっきのサラの言い方もひどかったけど、それを上回った!
「わかりました。精一杯させていただきます」
「うわ」
鏡を見せられて、わたしは絶句。
映っていたのは別人だった。
黒髪、黒縁眼鏡の、いかにも勉強が出来そうな外見の真面目っこがいるよ!
ほっぺたに触ってみると、鏡の中の真面目っこもほっぺたをさわる。
「うわ……わたしが、わたしじゃない……」
「精一杯務めさせていただきましたが……どうでしょうか?」
「流石マーサ! すごいよー!」
ヤマザル令嬢はやたら感心し。
「これなら、先方もキャルだとわかりませんわね」
サラは、納得という感じでうなずいた。
「マーサありがとう」
「いえ、ですが、もう一押し必要ではないでしょうか? バンダルバンダ嬢は、2年と聞いておりますが。坊ちゃんとお嬢様のご友人であるなら、1年に見えるようにしたほうがよろしいのでは?」
「確かにそうですわね……ですが今から用意するわけには」
「大丈夫でございますよ。うちのお嬢様のリボンタイの予備がありますから」
そういうと、わたしの襟もとのリボンタイを、赤いのに変えてくれた。
鏡の中の見知らぬ女の子は、1年の真面目っこになっていた。
「ですが……こうなるとモンテローザ嬢のほうも変装したほうがよろしいのでは?」
「わ、わたくしもですか? わたくしは、先方と直接い知り合いではありませんから」
「いえいえ、モンテローザ嬢は、バンダルバンダ嬢の親友だとか。その線で露見するということもありえましょう。であるなら、モンテローザ嬢も、1年に変装したほうがよいのではありませんか?」
アレ? ついさっきまで、このマーサさんって人、変装なんて自分はさせられない。
って、言ってなかったっけ?
「確かに……では、よろしくお願いします」
わたしと入れ替わって、鏡の前にキャルが座る。
「モンテローザ嬢は、どのような変装をお望みですか?」
「……では、キャルとお揃いで、真面目っこ2号という感じで」
アレ? さっきちょっと嫌がってたそぶりだったのに、サラも結構ノリノリじゃん!
「承知しました。髪型は三つ編みなどいかがでしょうか? 野暮ったい真面目感を強めるのでは? バンダルバンダ嬢との差別化も図れると思われますし」
「それはいいアイデアですわね。でも、二人ともメガネというのも芸がありませんわね」
うわ。すごい勢いで三つ編みが!
「では、少し垂れ目になさっては?」
「それは面白そうですわね」
というわけで。
わたしとサラは、一年のマリアンヌとソルボンヌに変身した!




