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【悲報】婚約者の病弱な妹は本当に病弱でした。  作者: マンムート


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6/8

6 ちょっと……いや、かなり、うらやましい。


 約束の日曜日は、晴天だった。


 サラと寮の前で待ち合わせて、丁度よくやって来た2台のリキシャでバランダイン子爵邸へ向かう。



 リキシャが止まって、


「つきやしたぜ」


 という言葉と共に、ステップが置かれて、そこを降りると目の前に、


「ちいさ!」


 もう一台のリキシャから降りて来たサラが、


「そういうことは口に出して言うものではありませんわ」


 と言われても、バランダイン子爵家の邸宅は、ちいさかった。


 単なる子爵家だとしても小さすぎる。


 2階建てで、ちょっとした商人の家と変わらない。


「邸宅はあちらですわ」


「え?」


 サラの視線の方を見ると、同じ敷地内に立派な邸宅がある。


 目の前に建っているものより、ふたまわりは大きい。


 貴族とのものとしては小さいが、子爵家としては十分だ。


 そちらには鋳鉄製の立派な門があり、門番も立っている。、


「じゃあ、こっちは?」


 目の前には小さいが石造りの頑丈……というより武骨な門があり、あちらの門番よりも筋骨隆々とした門番がふたり立っている。



 門番が逆じゃね?



「別棟、ということですわね。別の門があるのも珍しいことではありませんわ」


「なんで?」


 サラが顔をしかめて、


「……顔を合わせたくない者同士が、同じ敷地に住んでいる場合には、こうするものですわ」



 あ。察し。


 当主の愛人とかですね!


 でもなぜこっちに?


 リキシャ2台は、何の迷いもなくこっちへ止まった。


 なぜ。



 わたしたちを運んで来たリキシャの男は、門と同じくらい武骨な門番に気安い調子で、


「お嬢に、客人を連れて来たって伝えてくれ」


 門番のひとりがうなずき、別棟の中へ入ろうとするより早く、


「あー、来た来た! 入って入って」


 扉から出てきたのは、ヤマザル嬢であった。


 学園の制服を着ているところを見ると、出かける用意はできているらしい。


 ほんと、学園の制服は便利。


 学生の間は、これさえ着ていれば、どこへ行っても服装で咎められることはない。


 楽だー。



 彼女はリキシャの男に、


「ゴーシュ! ご苦労様でした!」


「なーに、お嬢の頼みとあれば、リキシャ一同、たとえ火の中、水の中」


 リキシャの車夫と、ヤマザル嬢は気安い様子だった。


 門番が咎めないところを見ると、いつものことなのだろう。


「……ぴったりの時間にリキシャが来たのは、こういうことだったのですわね」


「こういうこと?」


「わたくしたちが出る頃合いを見計らって、リキシャが来てくれたわけ」


「ああ……そういうことか」


 ヤマザル令嬢が、顔見知りの車夫に、頼んでくれていたのだ。





 邸内は、新築の香りがした。


 改築したばかりなのかな?


「ユークノーム嬢は、ここに住んでいるんですの?」


「そうだよ」


「え……」


 別棟とはいえ、婚約者のお屋敷に住んでいる?


 結婚前の貴族の子女が?


 まさか。


「ここは、ジェリーの5代前のご先祖様が、愛人さんのために建てたんだって」


 サラの推測通りであったらしい。


 と、そんなことより。


「ここバランダイン子爵家の邸宅だよね?」


「そだよ。だけど、今はわたしのおうちで、ジェリーのアトリエで、ゆーくのーむ辺境伯家のタウンハウスもかねているんだ」


「あなたの婚約者のアトリエ?」


「そだよー」



 わたしとサラは顔を見合わせた。


 このふたり婚約者なのに、もう、同じ屋根の下に住んでいるということ?



「……爛れてますわ」


 サラが、こっそりそう言うから、


「うーん。そうはみえないんだけど」


「同感ですけど……」



 確かに、最初遭った時から、ヤマザル令嬢と貧乏画家の距離は近かった。


 婚約者同士にしても、異例なくらいだ。


 だけど、なんというか、仲良しの男の子同士みたいで、色気というものが全くなかった。




 そのまま2階のアトリエに案内されると、画家令息がいた。


「今日は、ジェリーも一緒に来るんだよ」


 この前と同じように、画家令息は礼儀正しい様子で、


「おはようございます。今日は、同道することになりまして」


「急に決まったことですの?」


「ビントン侯爵から、ビントン嬢の肖像画の依頼がありまして」


「肖像画?」


 ヤマザル令嬢は、誇らしげに、


「ジェリーは絵がとってもうまいんだよ」


 周りを見ると、イーゼルには描きかけの絵が、壁には完成した絵が、並んでいる。


 しかも絵のうちの8割くらいは、ヤマザル令嬢を描いたものだった。


 メイドだったり、猟師だったり、学生だったり、いかにもお嬢様っぽいドレスを着ていたり。



 絵心の乏しいわたしでも判る。


 うまい。


 しかも、単なるうまい絵ではない。


 やさしく、あかるく、生命力にあふれている。


 対象への愛がなければ描けない絵だ。



「ほーら、みんなわたしそっくりでしょ」


 いや、そういうレベルじゃないから!


 描かれている当人は判っていないらしい。



 しかも、今よりも若い、もっと少年っぽかった彼女の絵もある。


 かなり前からふたりは知り合いだったということだ。


 何の関係もない平民を養女にして、婚約者に仕立てた、というわけでもないみたいだ。



 愛されてるなぁ。


 ちょっと、いやかなり、うらやましい。



「先輩は、そのまま行くんですか?」


「!」


「そうですわ。いくら、関心をもたれていない婚約者だと言っても、流石にバレると思いますわ」


「だいじょうぶ! わたし変装してるから!」


 わたしは、くいっとメガネをあげた。


 この日のために買った黒縁眼鏡だ!


 いつもより知性が2割くらい(個人の感想です)あがってみえるぞ!



 サラが断言した。


「ばれますわ」


 苦笑と共に貧乏画家が言った。 


「ばれるでしょうね……」


 ヤマザル令嬢が、驚いた顔で、


「変装してたの?」


 

 なぜ!? 完璧な変装なのに!






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