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【悲報】婚約者の病弱な妹は本当に病弱でした。  作者: マンムート


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5 ヤマザル令嬢と貧乏画家


「お招きいただいてありがとうございます」


 ヤマザルが連れて来た相棒兼婚約者は、黒髪、黒目の小柄な少年だった。


 顔はかなり整っているから、美少年、に分類されるだろう。


 背はヤマザルとほとんど変わらない。


 うちの学園の制服は、上着に関しては男女であまり差がないので、少年がふたり並んでいるように見える。



「おかけになってください」


 少年は、隣で意味もなく、ニコニコと笑みを浮かべているヤマザルの分の椅子を引き、


「ジェラルド・バランダイン。普通科一学年所属です。バランダイン子爵家の4男です。以後おみしりおきください」


 いかにも貴族的な礼と共に席へついた。


 貧乏画家、もとい、ジェラルド・バランダインは礼儀をわきまえていた。


 こちらが自分より爵位が上の家の相手だと判っている礼儀だ。


 まぁ、これくらいはできないと、下位貴族の子息は務まらないんだけど。



「オリーは自己紹介した?」


「あ、まだだったです!」


 ヤマザル嬢は、それなりにきちんと座り直すと、 


「わたしは、オリビア・ゆーくのーむ。普通科一学年所属です。ユークノームへんきょーはく家のメ……じゃなくて4女です」


 バランダイン子息はヤマザルにちいさく、


「3女」


「あ、3女です。以後おみおしりおきください」


 ヤマザルは、もとい、オリビア・ユークノーム嬢は、礼儀正しくあろうとはしていた。


 ニコニコしていたのも、なるべくボロを出さないためだろう。


 その努力は、去年のわたしを思い出させてくれて、ちょっとほっこり――



 まずい、これに親しみなんか感じたらまずい。



 このふたり自体は、さっきも言ったけど、とるにたらない。


 だけど、ふたりの背後にある家が問題をややこしくする。



 ユークノーム辺境伯家は、国境の守りとして我が国有数の軍事力を持ち、寄子や分家は軍の要職を占め。


 バランダイン子爵家とその一族や寄子は、代々、各省の次官を輩出している――現当主は宰相府次官、長男は財務次官補、その嫁さんは内務次官の長女、長女は官房付秘書、次男は国務次官つき秘書、3男は司法省の次官補――となると、話は違ってくる。



「あ、このクッキーおいしい!」


「これは、ローズウッドのですか? なかなか買えないという」


「ええ。よくおわかりで」


「少し包んで持って帰ってもいい――よろしいでしょうか? メリーやアンにも食べさせたい!」


「近いうちにお店へ一緒に行こうよ」


「うん!」




 サラとなごやかに会話しているふたりは、力があるふたつの貴族が手を結んだという象徴なのだ。


 最大の軍事力を持つ一族と、子爵家とはいえ王宮内の政治の全てに通じ、隠然とした力をもつ官僚一族――の政略結婚なのだ。




 辺境伯本家は長きにわたって、中央とのつながりをほとんどもたず。


 政治的な野心はないとみなされていた。


 子爵家も、一族内や、官僚を輩出している他の爵位が低い家との婚姻が主だった。


 そんな両家の結びつきは、王宮でのゲームのルールを変えかねない。




 この婚約は、両家を結びつけるためだけに、拾ってきた者と余り者で仕立てられたのは明白。


 逆に言えば、わざわざ手駒をでっちあげてまで結ばれた両家の婚約なのだ。


 政治のなまぐさい匂いを感じないほうがおかしい。



 だから、このふたり、周囲は扱いに困る。


 女の方の血筋のいやしさ、男の方の爵位の低さ、卒業後の力のなさ、を考えれば。


 平民も同然に扱ってもいいのだけど――わたしとしてはそーゆー発想が余り好きではないけど。


 背後にあるふたりの実家のことを考慮すれば、無碍にするのは危険すぎる。



 こういう存在に対する無難な接し方は、ただひとつ。


 触らぬ神にたたりなし、のはずなんだけどね。



 わたしは咳ばらいをひとつして、


「ええと……なごやかなところ悪いんですけど。さきほど、サビーナ・ビントン令嬢と友達だとおっしゃいましたよね?」


 このベランダで、改まった話し方をするのには、どうも違和感がある。


「うん。サビーは友達! 友達です」


 ヤマザル嬢は、かなり無理をして話してるようだ。


 いつもは余り喋らず、さっきのようにニコニコしてごまかしているのだろう。


 わたしは、ざっくらばらんに切り替えることにした。


「でも、あの方はひどく病弱で、滅多に表へ出てこないって聞いてるんだけど。どういう経緯で知り合いに? 差支えない範囲で教えてくれない?」


 ヤマザル嬢は、え、という顔をして。サラは、まぁ仕方ないですわね、という顔をした。


「去年のでびゅたんとの時、目の前で、いきなり倒れそうになったから、バシッと受け止めて控室へ運んでいったの。軽かったなー」


「あ」


 わたしが視線をやるとサラはうなずいた。



 去年のデビュタントで倒れて、そのまま消えた御令嬢こそが、サビーナ・ビントンそのひとであったらしい。


 で、回収していったのが目の前のヤマザルだったと。



 それにしても、ヤマザル嬢もニセ妹サマも遅いデビュタントだ。


 たいてい10か12くらいでする。


 ヤマザルは、なんとか人前に出せるように仕上げるのが大変だったのだろうけど。


「少し休んでから送ってったんだ。どうなっちゃったか心配だったから、会いに行こうと思ったんだけど、急に会いにいっちゃだめってジェリーに止められてさ。しょうがないよね。面倒だけど、こっちではそれがルールだから。お見舞いに行きたいって書いた手紙を送ったんだ」



 こっちのルールって、その前は別のルールで暮らしていたみたいな……。


 ああ、平民だったんだもんね、このひと。


 貧乏画家令息が発言を引き取って、


「そうしたら、あきらかに別人の書いた礼状が来たんです。もう大丈夫だから、見舞いはいらないって」


「サビーとは、手紙を遣り取りしようって約束してたのに、ぷんぷんだよ」


「別人と、どうして判りましたの?」


 基本的に、自分あての手紙には、自分で返事を書く、というのがマナーだ。


 でも、これは結構有名無実で、筆記専門の人間を置いている貴族家が多い。


 だから、自筆だと確認できる手紙を貰ったことがない限り、本人が手ずから書いたかは判らないはずなのだが。


「あの子さー、指の力なかったから、あんな流れるようなしっかりした立派な文字が書けるわけないんだ。あたしが馬車の中で膝枕しててあげた時、よほど心細かったのか、ずぅーっとあたしの手を握ってたんだよね。それが必死なのに弱弱しくって、それで、ちがうなーって」


「このことをボクが父に話したら、父が何か働きかけてくれたのか、オリーには面会の許可が下りたんです」


 そりゃ。官僚の大物から手紙が来たらね……しかも、ヤマザル嬢の背後には辺境伯だもの。


 いくら侯爵家といえども無視できないよね。


「それからは、半月に一回会ってるんだー。でも、とてもじゃないけど、外出なんかできないと思うよ。ちゃんと療養所かなんかに入ったほうがいいと思うんだよね」


 やっぱりニセ妹は、実在するらしい。


 サラがつぶやいた。


「少なくともビントン侯爵邸に、病弱な令嬢が実在するのは間違いない、ということですわね」


 あ、そうか。


 その病弱な子が、デートしてた相手かどうかまでは確認できないものね。


 だけど、デビュタントで倒れて、このヤマザルさんに送ってもらった令嬢は実在するらしい。


「今度の日曜日、会いに行くんだけど、先輩たちも来る?」



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