4 面倒そうな相手に聞かれてしまいました。
とう!
と少女は一声叫び、木からベランダへ飛び移って来た。
「サビーナ・ピントンって名前が聞こえたから」
ここ2階のベランダだし、わたしらそこまで大きな声で喋ってなかったよね?
「……それで木を登って来たんですの?」
それは貴族の子女としてはどうよ?
「今日はズボンだったから! ジェリーも怒らないからね!」
そもそも、なぜ女子なのにズボン佩いてるの?
「ジェリー?」
「あたしの相棒! じゃなかったコンニャクシャ! 下にいるから入ってもらってもいい?」
え、この場所に、ほかの人間入れるの? なんかいやだ――
「ええ、いいですわよ」
サラがあっさり言った。
「え」
「じゃあ、今すぐ呼んでくる!」
貴族の子女らしからぬ素早さで、少女は駆け下りていった。
「いいの?」
「あれは、ヤマザルですわ。婚約者というのは多分、貧乏画家」
その言葉でピンと来た。
「あれが噂の」
ヤマザル。貧乏画家。
それは今年の新入生の中でも、異色な生徒に陰でつけられた綽名のうち二つ。
辺境伯の娘――しかし、3女で、しかも養女。さらに、氏素性が怪しい平民を拾ってきたらしい。
だからヤマザル。
その婚約者は、子爵の4男。
今は健康らしいが生まれつき病弱で、成人後は辺境伯が持っている爵位のみの男爵位を貰うらしい。
画家の卵らしい。だから貧乏画家。
このふたりがくっついたとて、卒業後、大した力をもつとは考えられない。
これが、一般的な辺境伯と子爵家の婚姻なら、話題にさえならない。
継承権もなければ、選良の血筋でもない者どうし、お貴族的な見方からすればゴミや虫けらどうしの婚約。話題になったとしても嘲笑混じりか侮蔑か憐憫でだろう。
まぁ……わたしは人のことをどうこう言える血筋じゃあないけどね。
だけど、あのふたりは、
「……アレって触らぬ神に祟りなし案件だよね?」
「そうですわ。あくまで噂ですけど、あのふたりにちょっかいを出した侯爵家の不良三男坊、四男坊の愚連隊がふたつばかり、合法的に処分されたとか」
いくら三男四男とはいえ、侯爵家の係累が法律通りに処分されたとしたら……背後に何があったのやら。
「それヤバイじゃん」
「ヤバイですわね。ですけど……もし、あのヤマザ、おほん、彼女の言葉が本当なら貴重な機会が手に入るかもしれませんわ」
「確かに……どういう友達なのか話を聞いてみるしかないか……」
なんか、面倒くさいことになりそうな予感。




