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身バレしたら即引退!双子Vtuberは正体を隠し通す!  作者: 夢達磨


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1/1

プロローグ


「みんなーっ! 今日もルミカの“歌ってみた”配信を見に来てくれてありがとーっ!

懐かしの名曲、最高に気持ちよかったー! また会いに来てねー!」


『希望の船:ルミカちゃんの歌声、癒されたー!』

『桃黒:ルミルミ〜! 今度は新作ゲームの実況してよー!』


「お金に余裕があったら、ねっ!」


『(金)ユズネコ:ルミッちこれ使って!』


「わあぁっ! 金スパ!? ユズネコさんありがとう! 大切に使わせてもらうね! またねー!」


 ──笑顔のまま、俺は深く息を吐いた。


(……ふぅ。今日も“清楚系美少女Vtuber・ルミカ”は完璧、っと)


 カメラを切り、ライトを落とす。

 真っ暗な部屋に戻ると、モニターに映るのは、素の俺の顔だけだ。


 そして、俺は大人気Vtuber『ソウマ』の配信を開く。


『楓・ソウマ様に叩かれたい:ソウマ様〜私をぶってー!』


「おい、俺は暴力は振るわねぇぞ。それよりお前ら! さっさと寝やがれ! 今何時だと思ってんだ。……また来てくれよな」


『ユキ@ソウマ様推し:ソウマ様〜今日もありがとー!』

『ソウマ様の踏み台:ソウマ様ツンデレー!』


「はぁ? ばっかじゃねーの!? 俺が早く配信を切りてーだけだよ。もう寝ろよ、バカ」


『(銅)ソウマ様推し:また話聞いてねー!』


「おいおい、俺推しかよ! センスねぇな〜。……でもありがとな。大事に使わせてもらうぜ」


 ──こちらも配信中。


 その声の主は、俺の双子の姉・風間美月かざまみづき

 男アバター“ソウマ様”として活動する人気Vtuberだ。


 どうやら今日の配信も、そろそろ終わりらしい。

 俺もソウマの配信を閉じ、ベッドに倒れ込んだ。



 6月の終わり。

 昼休みの教室は、湿気と笑い声でむせ返っていた。


「ねぇねぇ! 昨日の配信見た!? ソウマ様マジで尊かった〜!」

「わかる! 『もう寝ろよ、バカ』って、あの言い方最高すぎた!」


 女子たちの黄色い声を背に、俺は机に突っ伏す。


(……マジかよ。よりによって姉貴の話題か)


 そう、彼女たちが熱狂している“ソウマ様”とは俺の姉・美月。

 そして──俺もまた、清楚系美少女Vtuber『ルミカ』として活動している。


 このことを知っているのは、じいやとばあや、そして美月だけだ。


「おい、まりおー! 放課後サッカーしねー?」


 声をかけてきたのは、お調子者の小林。


「……誰がまりおだ。やらねぇよ」


「ちぇっ、ノリ悪ぃなー。でもいいよな、まりおは。あんな美人な姉ちゃんがいて。優しいし、お嬢様っぽいし。毎日楽しいだろ〜?」


 俺の名前は風間理音かざまりお

 名前の響きのせいで“まりお”と呼ばれている。

 どこかの有名な配管工とは違って、俺は全然人気者じゃない。


「別に楽しくねぇよ。話題にされるだけで迷惑だ」


 美月は学校じゃ誰にでも笑顔で、口調も丁寧。

 成績優秀、容姿端麗──完璧超人だ。


 だが、それは“表向き”の顔にすぎない。

 本当の美月はそんな善人じゃない。

 家に帰れば、ソウマとして暴言を吐きまくる。それが本性だ。


「でもよ〜、白髪ロング、成績優秀、完璧スマイル。もう世界照らしてんぞ?」


「……そうでもないけどな」


「あんっ!? 嫌味かぁ!? お前のその茶髪、正反対じゃねーか! 本当に双子かよ!」


 俺はため息をついて無視した。

 すると、メガネの首藤が口を開く。


「なぁ、美月さんって彼氏いんの?」


「いきなりかよ……知らねぇ。でも、気になる人はいるって言ってたな」


「おっ、まじで!? もしかして俺じゃね?」

「いやいや、俺かも!」


(いや、お前らの線は一ミリもねぇ)


 どうせ姉のことだ。V界隈の誰かに夢中なんだろう。


 俺たちは『花ノ道高等学園』に通う高校一年生。

 文武両道を掲げた私立校で、サッカーやテニスが強い。

 俺は親父の“試練”のせいで、家から近いここに入った。


 そんな日常を、今日もかき乱す存在がやってくる。


「理音、一緒に帰りましょ?」


 美月だ。

 その瞬間、教室がざわつく。


「うおっ! 美月さん今日も綺麗っすね!」


 小林に笑顔を向けて手を振る美月。

 首藤は顔を真っ赤にして、「好きな食べ物何っすか!?」と聞いた。


「興奮する質問じゃねーだろ……」


「そうですねぇ。私はビーフシチューオムライスが好きですよ。理音と行ったお店のが絶品で♡」


「おい、まりお! 美月さんとは外食しないって言ってたじゃねーか!」


 小林が胸ぐらをつかむ。


「2人で行くわけねーだろ! じいやとばあやも一緒だったんだよ!」


 そう言うと、「なら、よし!」と手を放す。


(チョロいな……)


 美月はその様子を楽しげに見ていた。


「小林君、理音は今日、私が預かるわね? 祖父母が心配するから」


「はいっ! 生意気なやつですが、よろしくお願いします!」


(俺はこいつの何なんだ……)


 そんなやり取りのあと、俺たちは一緒に家へ帰った。



「ばあや、ただいまー!」

「ただいまー!」


「おかえりなさいませ、理音坊ちゃん、美月お嬢さん」


 帰ると、じいやとばあやが深々と頭を下げる。


「さぁ、【風間家の月末査定タイム】の発表よ! 今月は伸びてるから期待できるわ!」


 ポニーテールを結び直す美月。

 俺は頭を抱えた。


(またこの時間かよ……)


 風間家では月末に「収益」と「支出」を計算する“査定タイム”がある。

 俺たちの主な収入源は、Vtuberとしての広告収益やスパチャ。

 家賃や学費を差し引かれるため、毎月マイナスになることもしばしばだ。


 じいやが発表する。


「理音坊ちゃんの今月の収益は──広告収益3万5千円、スパチャ4万2千円。合計7万7千円でございます」


「おっしゃ! 確実に伸びてる!」


「でも、そのスパチャで新作ゲーム買うつもりでしょ?」


「ぐっ……!」


「続いて出費の発表です。学費3万8千円、家賃10万円、光熱費7千円。合計14万5千円。今月の理音坊ちゃんはマイナス6万8千円となり、借金総額は41万8千円です」


「くそぉ……!」


「アチーブメント達成ボーナスは──今月はなしでございます」


「うあぁ! 先月達成したのに!」


「ちゃんと確認しないからよ。私の足を引っ張らないでね」


 続いて美月の番。

 収入13万8千円、出費14万5千円。マイナス7千円だが、ボーナスビンゴで+2万5千円。

 最終的に+1万8千円。借金はちょうど30万円になった。


 俺の借金は41万8千円。

 合計で71万8千円。


 じいやが新しいカードを差し出す。


「では、7月分のアチーブメントカードです」


 俺はすぐに目を通す。


『期末テストで各教科70点以上を取る』『家庭科の料理テストで「良」以上』──など、テスト関係ばかり。


「……期末テストばっかりじゃねぇか!」


 カードを叩き落とすと、美月が右下を指差した。


「ちゃんと見て。“2人で無事に終業式を終える”って書いてあるわよ」


「……親父ぃ」


「これ、完全にボーナスマスでしょ。チャンスじゃない」


「……確かにな」


 アチーブメントカードは月ごととシーズンごとの二種類。

 お題を達成すると報酬がもらえる。

 ビンゴすれば、さらにボーナス。

 だが、借金が100万円に達したら──親父の南の島で『バナナ収穫労働』が待っている。


 しかも、Vtuber活動がバレたら即引退&即転校。


 ふざけたルールだが、それが風間家の“試練”だった。


(勉強も配信も、全部金と借金に直結……)


「今日も配信するか」

「もちろん。みんながソウマ様を待ってるからね」


 マイクのスイッチを入れる。

 ライトが灯り、カメラが回る。


 画面の向こうにいるのは、“理想じゆうの自分”。


 現実を隠し、今日も笑顔を作る。

 秘密の稼ぎで、生き延びるために。

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