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第11話:教師、高橋の問い


倉庫の奥。 現れたのは高橋という教師だ。 彼の顔は厳しく俺たちを捉えている。 微かな魔力反応。

「君たち、なぜこんな場所に?」 高橋の声は低く響いた。 その視線は鋭い。 彼は俺たちの行動を疑っている。

サラが戸惑う。 ユウキは完全に怯えている。 俺は冷静に高橋を見つめた。 敵意はない。警戒がある。

「用があった」 俺は答えた。 高橋は眉をひそめる。 「用?立ち入り禁止の場所に?」

彼は砕け散った鍵の残骸に目を向けた。 俺の魔力によるものだ。 高橋の表情がさらに険しくなる。 「君がやったのか?」

「ああ」 俺は隠さない。 高橋の瞳に驚きの色が浮かんだ。 だがすぐに隠される。

「君たちは……何者だ?」 高橋が問う。 その言葉に、明確な探りが含まれている。 彼は俺たちの魔力に気づいている。

「俺は黒須レグナ」 俺は答える。 「そこの女は蒼月サラ。少年は花村ユウキだ」 隠す必要はない。

高橋はゆっくりと俺たちに近づいてきた。 その動きには隙がない。 彼はただの教師ではない。 武術の心得がある。

「君たちから、奇妙な『気配』を感じる」 高橋は言った。 「私と同じような」 やはり彼も魔力保持者。

「貴様も魔力を持つのか」 俺は問うた。 高橋は一瞬驚いた顔をした。 すぐに冷静さを取り戻す。

「どうやら、私と同じ『側』のようだな」 高橋は言った。 「私は高橋だ。この学園で体育と歴史を教えている」 教師。

「なぜ我々に接触する」 俺は問う。 高橋は俺の目を見つめた。 「君たちの行動は、あまりに目に余る」

「学園で異変が起きていることにも、君たちが関与しているのか?」 高橋が問う。 彼の言葉には、既に確信がある。 鋭い男だ。

サラが慌てて口を開く。 「それは違うんです!私たちは、その異変を」 俺はサラを制した。 真実を告げる必要はない。

高橋の目的が不明だ。 彼の背景も。 迂闊な情報は与えられない。 利用される。

「我々は異変を排除した」 俺は簡潔に言った。 高橋の視線が砕けた結晶の跡に向かう。 彼は状況を把握している。

「あの『澱み』を消したのか」 高橋が呟いた。 澱み。 彼も異界の存在を知っている。

「どうやってだ?君たちの力で?」 高橋は詰問する。 その言葉には、俺たちへの探りが入る。 力を測ろうとしている。

「貴様には関係ない」 俺は言い放った。 高橋の顔に苛立ちの色が浮かんだ。 だが、すぐに消える。

「関係ない?この学園の、生徒たちの安全に関わることだ」 高橋は言った。 「私は彼らを守る責任がある」 責任。

この世界では、責任というものが重要なのか。 俺には理解できない概念だ。 支配者は全てを統べる。 責任ではない。

「貴様は何を知っている」 俺は問うた。 高橋は深い息を吐いた。 「私と君たちは、同じ問題に直面している」

「異界からの侵略だ」 高橋が言った。 サラとユウキは驚きの顔をした。 彼も知っていた。

「貴様は対処していたのか」 俺は問う。 高橋は頷いた。 「細々とだがな。だが、最近は手の付けられない状況になりつつある」

マラや泥魔の出現。 状況は悪化している。 この男は、その異変に単独で対処していたのか。 ならば、それなりの力がある。

「協力する気か」 俺は単刀直入に尋ねた。 高橋は俺の目を見た。 その瞳の奥に、強い意志が見えた。

「私には君たちの力が不可欠だ」 高橋は言った。 「君たちの力は、私が知る限り、最も強力だ」 最も強力。

それは俺の魔力のことか。 あるいはサラの聖なる力か。 この男は、俺たちの力をどこまで把握している? 警戒が必要だ。

「貴様の目的は?」 俺は問う。 高橋は迷いなく答えた。 「この世界を守ること。生徒たちを守ること」

守る。 また同じ言葉だ。 俺の支配欲とは相容れない。 だが、目的の一部は共通する。

「貴様、我々を利用する気か」 俺は言った。 高橋は少し笑った。 「それはお互い様だろう」

その言葉に、俺は少しだけ驚いた。 この男は、俺の意図を見抜いている。 賢い。 そして、恐れを知らない。

「条件を提示しろ」 俺は言った。 高橋は表情を改めた。 「まずは、君たちのこと。全て話してもらう」

「そして、私の指揮下に入ってもらう」 高橋が言った。 指揮下。 支配される側になる。

「断る」 俺は即答した。 高橋の表情が凍り付く。 サラとユウキも驚いた顔をした。

「なぜだ」 高橋が問う。 「俺は誰の指揮下にも入らない」 それが魔王の矜持だ。

高橋は俺を睨みつけた。 彼の身体から、微弱だが確かな魔力が放たれる。 威圧。 だが、俺には通用しない。

「君たちの力は未知数だ。放っておくわけにはいかない」 高橋は言った。 「それが、私の責任だ」 責任。

「責任は貴様が負えばいい」 俺は言い放つ。 「だが俺は支配する側だ。支配される側ではない」 この世界の魔力を持つ人間も、愚かだ。

高橋は深くため息をついた。 「分かった。ならば、別の提案だ」 彼は言った。 「情報共有。協力体制。指揮は対等」

対等。 それは俺には屈辱だが。 今の状況では、悪い話ではない。 未知の情報は貴重だ。

「考える」 俺は答えた。 高橋は俺の返答に少し驚いた顔をした。 そして、僅かに笑った。

「賢明な判断だ」 高橋は言った。 「明日の放課後、またここに集まってくれ」 彼はそう言って、倉庫を後にした。

残された俺たち。 サラは俺を見た。 「レグナ、どうするの?」 「この男は、使える」

俺は言った。 「利用する」 サラは複雑な顔をした。 ユウキはまだ怯えている。

高橋という男。 新たな敵か、手駒か。 彼の情報と知識は、俺の支配に役立つ。 だが、彼の「責任」という概念が邪魔だ。

夜の帳が降りる。 学園は静まり返っている。 しかし、その水面下では、新たな勢力が動き出した。 魔王レグナの、新たな策謀が始まる。



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