第10話:学園の異変、そして新たな協力者
泥魔の出現から数日。 学園内は平穏に見えた。 だが俺には分かる。 異変の兆候がそこにある。
生徒たちの間に、奇妙な倦怠感が広がる。 集中力の低下。 些細なことで苛立つ者。 まるで生気を吸い取られているかのようだ。
サラも気づいていた。 「みんな、少しずつ元気がなくなってる」 サラは心配そうに言った。 「泥魔の仕業かしら」
ユウキは常に怯えている。 「冷たい感じが、学校中に広がってる気がする」 ユウキの声は震えていた。 彼の感知能力は正確だ。
俺は学園内を巡回した。 魔力視で異変の原因を探る。 微弱な魔力の流れ。 それは生徒たちから吸い取られている。
特定の場所で、その流れが強くなる。 体育館の裏。 誰も近づかない倉庫。 そこから魔力の波動を感じる。
放課後。 俺はサラとユウキを連れて倉庫へ向かった。 ユウキは震えが止まらない。 「ここです……一番冷たい感じがする」
倉庫の扉は固く閉ざされている。 鍵がかかっている。 俺は扉に手を触れた。 微かに魔力が宿る。
俺の魔力を集中させる。 かつての魔王の力。 今は微弱。 だが鍵を破壊するには十分だ。
扉が軋む音を立てる。 鍵が砕け散る。 サラとユウキは驚いた顔をした。 「レグナ……」
倉庫の中は薄暗い。 埃っぽい空気。 その奥に、奇妙な物体があった。 それは泥魔の残骸ではない。
黒い結晶。 掌ほどの大きさ。 それは脈動している。 周囲の生気を吸い取っている。
「これは……」 サラが息をのんだ。 「魔力の結晶。でも、こんなに邪悪なのは」 邪悪な魔力。
俺は結晶に近づいた。 その結晶から、微弱な魔力が放出されている。 それは生徒たちの生気を吸い取り、結晶へと変換している。 効率的な吸血鬼だ。
「これが異変の原因か」 俺は言った。 ユウキは後ずさる。 「触らないでください!気持ち悪い!」
俺は結晶に手を伸ばした。 サラが慌てて止める。 「危ないわ、レグナ!」 しかし俺は止まらない。
結晶に触れる。 冷たい感触。 だがその奥に、膨大な魔力の塊を感じる。 それは魔核とは違う。
しかし、俺の魔力を活性化させる。 まるで、俺の魔王の力を呼び覚ますかのように。 俺は結晶を握りしめた。 結晶が砕け散る。
黒い粒子が空中に舞う。 そして消えた。 周囲の邪悪な魔力も消える。 学園の異変は止まった。
「レグナ、無事?」 サラが心配そうに尋ねた。 俺は答えない。 体内に、新たな力が満ちていく。
砕け散った結晶の跡。 そこには何も残らない。 しかし俺の体は変化した。 魔力の流れがよりスムーズになった。
「これは……」 サラが驚いた顔をした。 「貴方の魔力が、増幅してる」 その通りだ。
「この結晶は、俺の魔力を高める」 俺は言った。 「異界の魔物が生み出すものか」 サラは頷いた。
「魔物がこの世界に現れると、周囲の生気を吸い取って、この魔力の結晶を残すことがあるって、古文書に」 サラは説明した。 「でも、こんなに早く現れるなんて」 異界の侵略は加速している。
「これを集めれば、俺の力は戻る」 俺は確信した。 サラは複雑な顔をした。 「でも、それは生徒たちの生気を吸い取ったものよ」
「支配のためには、必要な犠牲だ」 俺は言い放った。 サラは悲しそうな顔をした。 ユウキは怯えている。
「そんな……」 ユウキが呟いた。 俺の言葉に、彼らは反発する。 だが、それが魔王の摂理だ。
その時、倉庫の扉が再び開いた。 そこに立っていたのは、一人の男だった。 教師の制服。 だがその瞳は、鋭く俺たちを捉えている。
「君たち、ここで何を?」 男の声は冷たい。 彼は俺たちを警戒している。 そして、その男から、微かな魔力を感じた。
入学式で感じた、もう一つの魔力反応。 教師。 この学園には、魔力を持つ人間が多すぎる。 彼は何者だ。
「ここは立ち入り禁止だ」 男は言った。 「君たち、校則違反だぞ」 校則。
俺は男を睨みつけた。 彼の魔力は、サラやユウキとは異なる。 より訓練されている。 そして、隠されている。
「貴様は何者だ」 俺は問う。 男は冷笑した。 「私はこの学園の教師だ。それ以上でもそれ以下でもない」
嘘だ。 その言葉の裏に、別の意図を感じる。 彼は俺たちの行動を監視していたのか。 あるいは、この異変に気づいていたのか。
「君たちには、少し話を聞かせてもらう必要がある」 男は言った。 その言葉には、拒否を許さない響きがあった。 新たな協力者か。
あるいは、邪魔な存在か。 俺は男の魔力を探る。 それは俺の知る魔力とは違う。 だが、危険な匂いがする。
この学園には、まだ多くの秘密が隠されている。 そして、俺の支配の邪魔をする存在も。 全てを暴き出す。 そして、利用する。
夜の帳が降りる。 学園の異変は一時的に収まった。 だが、新たな局面が始まった。 魔王レグナの支配への道。