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仕事

作者: 猫の真

「はぁ…」



仕事が一段落した深夜0時。ぬるい湯船に浸かりため息をつく。風呂を沸かしたのは…1時間前か。

入ろうとしたら仕事を任されてそこから…ふざけんなあのクソ上司…業務時間外に仕事任せるなよな…。

そう思いながら一度頭まで潜りすぐに顔を上げる。頭を2、3回振って髪の毛をまとめてゆるく絞り水気を少しでも取る。

そうしながら、湯船から出てそのまま脱衣所へ向かう。風呂に入れたのはせいぜい15分くらいだ。

もっとゆっくり入るつもりだったんだけどなぁ…。あ、湯船の栓取ってない。

バスタオルで体、頭を拭きながら思い出し、そのまま風呂場へ戻れば湯船の栓は抜かれて、蛇口の方にチェーンがかけられていた。



「お前がやってくれてたのか。ありがとな。」



どうしてそうなったかはわかる。俺の影にいる『ナニカ』が気を利かしてやってくれたのだ。

いつ頃かはもうわからないが、いろんな影をつたって、俺の「うっかり」のミスをよく助けてくれるだけで、害をなさないいいやつだ。

愛着が湧いて、今は「カゲ」と安直な名前をつけて呼んでいる。

カゲは俺の声を聞いて小さく音を数回鳴らした。これは喜んでいることの証。基本的に喜びのときの表現が小さいのはカゲの性格が控えめだからだろうか。

カゲの様子を確認して、脱衣所に戻って服を着る。バスタオルをそのまま洗濯機に投げ入れて脱衣所から出る。



「ぐぁ~~…寝るか…いや、その前に仕事の確認して、えーとあとアレも…」



リビングに戻って伸びをしたら思わず声が出てしまった。カゲの姿を見て気が緩んだのか。

寝ようと思ったが、頭に浮かんだのは先程の仕事と別の仕事。あとまた別の仕事と寝るのが難しいラインナップだった。

浮かばせるだけで嫌な気持ちになったがやらないと自分のせいにされる会社だ。やらないと。

そう考え重くなってしまった足を寝室兼仕事場へ向かわせる。ドアを開けてパソコンデスクの前に足を向けた、と思いきや足が向いている先はベッドだった。



「おぁ?…おいカゲ!またお前寝かせようと…!」



自分の意思は仕事なのに、体がベッドに向かっているということはカゲがなにかしている他無い。

部屋は暗く影しかない状態だ。そうなるとここはカゲの思うままの世界とも言える。

どうにか必死にパソコンデスクの前に体を向けようとするが時間をかけてベッドに向かわせられた。

うつ伏せにベッドへ倒された、と思えば寝返りをうたされて仰向けに。次第に体から動く気力がなくなって、眠気が襲ってくる。

背中に引いたまんまの薄い毛布がズルズルと抜かれ丁寧に肩まで被せられる。ゆっくりゆっくり、少し時間をかけて眠くなる。

まぶたが完全に閉じきる前目の端で人型が見えた気がした。まぶたが閉じて頭に軽いが何か重さを感じた。



『オ"やス"み…?』



聞き覚えの無い、耳障りだが明らかに暖かな声が聞こえ、完全に眠った。

あ、アラームかけてない。



ピピピピピピピピ…ピ



耳元でうるさく鳴るアラームを薄く目を開いて携帯を操作して止める。時間は7時。今日は仕事は休みの予定だ。

そのまま社内で利用しているチャットアプリを見るが、「出勤しろ」などの記載はない。

むしろ俺が寝てる時間であろう時間帯に俺が仕事をしている記録が残っている。

それに、俺はベッドから動いていないのにカーテンが開いて日差しが入ってきている。



「カゲ…おまえなぁ…。」



携帯を持ったままその手を額に当ててため息をつく。その後、パソコンデスク前にあった椅子が一回転した。

おそらく、カゲが俺を無理やり寝かせて、その間に俺がやろうとしていた仕事を全部やってくれたのだろう。仕事のことなんて何も教えていないのに何でできたんだ?

これまでは、アラームが鳴っても起きないところを起こしてくれたり、買い忘れのものを思い出させてくれたり、昨日みたいに無理に寝かせたりといったことしかしてこなかったのに仕事までカバーしてくれるなんて…。

いろいろ考えていると、カーテンがソロソロと閉まり始めた。完全に締まったと思えば寝室兼仕事場のドアがゆっくりと開いた。



「あー…いや、怒ってるわけじゃなくてな。うーん…やってくれたのはありがたいよ。」


なんとなく、雰囲気でカゲが「怒られた」と認識して、しょげていると思った。なので怒っていないとちゃんと伝えた。

体を起こしつつ、伝えたいことを頭の中で考える。

「やってくれてありがたいけど」は事実だけど変に受け取られそうだし、「そこまでしなくていいよ」もなぁ…。

それを言うことで、仕事代わりにしてくれなくなる可能性もあるし…それも少し嫌だなぁ…。



「うーん…まぁ、びっくりしただけ。ありがとうカゲ。またもしあればよろしく。」



これが一番だ。驚いた、のは事実だし、またもしあればしてほしいのも事実。

そう伝えるとカーテンが勢いよく開き、また日差しが出る。トントンと床を叩く音が数回聞こえる。喜んでいるみたいだ。

よかった。ベッドから降りて部屋を出る。今日は午前中に起きれたし、どこかに出かけようかな。

伸びをしながら考える俺の影には今日もカゲが一緒にいる。

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