ありがとう
ヤテンさんが昔お世話になっていたという、村の復興は順調に進んでいた。というのも、オークションのオーナーが多額の資金を投入して、より侵入者に対して厳重な警備ができるよう、自動警備用ゴーレムを入れたり、藁の家から石のブロックの家に変えたり、巨大なコンクリートの塀を作ったり。償いだと言って、色々とやってくれたみたいだった。
「まだ償いができたなんて思ってはいない。これからはちゃんと人に喜んでもらえるような、娘に胸を張れる仕事で、稼いで、娘と2人慎ましく生きるよ。」
そう言い残して、オーナーは去っていった。
「素空さんや。」
「はい。」
後ろを振り向くと、村の長老らしき人が、俺に話しかけに来てくれた。
「本当に感謝しております。あなたがいなければ、我々はとうに身を売られ、地獄のような日々を過ごしていたでしょう。」
「そんな……本当によかったです。俺ができること……、だいぶ来るのが遅れましたが何かありませんか。」
「いえいえ、我々を救っていただいた方に、何かをまだしていただくことなど、とても……あぁ、そうだ。我々の知っているとても綺麗な夕日の見れる場所があるんです。そこに、ヤテンと行ってきてはどうですか?あの娘も、疲れで少し気が滅入ってしまっているようで……」
「あぁ、そうなんですか!?分かりました!ヤテンさんと行ってきます!」
「えぇ、そうしてください。(チャンスじゃ、ヤテン!!告白のチャンスだ!!行ってこい!!!)」
「(このクソジジイ、念波で何話しかけて来てんだ!!!余計なお世話だよ!!恥ずかしい!!!)素空も、疲れてるでしょう。そんなに急ぐ必要はないわ。しばらくゆっくりしましょう。」
「(お前が結婚しないか、心配でわしも、そろそろ孫の顔が……)へぶしっ!!」
ヤテンさんが、何故か村長の頭を殴った。
「わわっ!!?ヤテンさん、何してるんですか!!!」
「あっ!!!しまった!!!いや、何でもないのよ。ともかく、素空はゆっくり休んでいて。」
頭からしゅ〜っと湯気の上がった長老は首根っこを掴まれて、ヤテンさんに連れて行かれた。
「一体何だったんだ………」
「素空〜!!!」
振り向くとそこには、満点の笑みを浮かべたルルがいた。
「村の人と、クッキー作ったよー!!!一緒にたべよー!!!」
「えっ!?そうなの!分かった!一緒に食べよっか!」
机で、エルフの人たちと一緒に食事タイム〜
クッキー、とってもおいしかった。
「お兄さん、助けてくれてありがとう。」
小さなエルフの女の子から、花冠を受け取った。
「ううん。こちらこそ。」
俺は受け取った花冠を頭にかぶせてみた。
「似合ってるね。」
隣にいたルルはにこやかな笑みを浮かべている。
「しばらく身につけていようかな?でも、落として形が崩れちゃったら嫌だな。」
「……私がまだ使える機能。」
ルルは宙に手をかざし、何かスクリーンのようなものが現れた。
「形が崩れちゃいけないから、ちゃんと綺麗な箱にしまっておくね。」
「うん。分かった!お姉ちゃんありがとう!」
お姉ちゃん、そう呼ばれたルルは少し顔を赤らめて、エルフの子どもの頭をそっと撫でた。
空中に、電子的な青白い箱が現れ、その中に花冠をしまうと、とても綺麗なデコレーションの施された可愛らしい箱に代わり、そして空に上げると、再び電子の光に包まれて、見えなくなった。
「ここが1番安全。お兄さんきっとたくさん動くから、絶対壊れないようにしまっておく。」
女の子は、おぉー!という声をあげて、目をキラキラさせていた。
「見たことのない魔法!お姉さん、すごい魔法使い?」
「魔法……うーん、、そうね、未来の魔法使いよ。」
「お姉さん、未来から来たの!?」
「まぁ……うーん。未来……そうかもしれないわね。」
ルルは、どう説明したものかと頭を悩ませている。
「俺たちは、ちょっと遠い世界からきたんだよ。」
「遠い世界?」
「うん。でもね、こことそんなに変わらない。とても楽しい世界だよ。」
「楽しい世界!!私、行ってみたい!!」
「だってさ、お姉さん。」
「そうね。……いつか、私が連れていってあげる。ここと同じくらい、たくさん綺麗な景色の見れる場所があるわ。」
「わぁーい!!やったぁーー!!!」
気づけば、夕方になっていた。
俺と、ルルの2人は村のはずれの少し見晴らしのいい崖で腰を置いて、話していた。
「私、この世界に、あなたを閉じ込めるために、あの子たちをつくったわ。」
「……うん。」
「現実世界と変わらない、あなたが楽しめる、そんな世界。ずっと私と一緒に、住める世界。」
「そうだね。」
「………間違ってた。いや、間違ってたなんて言っちゃいけない。わたしには、あの子たちを作り出した責任がある。かならず幸せにする。あの子も、この世界も。」
「ルル……ルルは本当に優しいんだね。」
愛する人は、あの時と同じ言葉で、同じ表情で、わたしの顔を見ていた。
「……ありがとう。」
わたしは、もう泣かない。
一度、愛する人の胸の中で泣けたから。
「よし!!必ず、私は魔王を倒して、この世界を守ってみせる。絶対、絶対、不幸になんかさせない。私と同じような、思いを子どもたちにさせない。1人にさせない。わたしは、みんなを幸せにする!!」
「ルル。俺もルルと一緒に頑張るよ。何か悲しいことがあったら、一緒に悲しんであげる。辛いことがあったら、真っ先に俺に話してくれ。俺は、いつでもルルの味方だよ。」
わたしは、素空の言葉に思わず顔を赤らめる。
「なっ、ななっ、プロポーズ!!?」
「プ、い、いや、違………と、友達として………」
ベシコーン!!と気づけば、ヤテンさんが素空の後ろにいて、頭をきつくしばいていた。
「女の子に、そんなこと言ったらそうとられるに決まってるでしょ。このスカポンタンが!!!そんなこと言うなら、最後まで責任取りなさい!!!」
「せ、責任って……」
「女の子をここまで惚れさせてるんだから、ほら……」
「いいえ、私しばらく素空君から離れます。」
「えっ?離れるって、あなた……」
わたしは素空くんの顔を見ながら言った。
「あなたから自立しなきゃならない。わたしは、わたし自身で自分をしっかりと守れるように。わたしは、わたしのことを好きになれるように、これからあなたとは対等な関係を望みます。」
「……あぁ、よろしく頼むよ。」
素空君は、とても穏やかな笑顔で私に言った。
わたしは、本当に幸せだ。生きてて、本当によかった。ありがとう、素空くん。