ひとりの世界
あの人が戦っている。
あぁ、変わらないな。
ずっと君は人を救って、傷ついていく。
もうすぐ、迎えにいくから待っていてね。
ドンッ!!
ひとつ拳を振るたびに、何人もの野盗が吹き飛ばされていく。
「そ、そんな馬鹿な!!?こんなガキが何故!?」
「悪いことしてたらよ、ちゃんとお天道様が見てるんだぜ!!もう悪いことできないように、俺がちゃんと懲らしめてやる。ほら、さっさとかかってきやがれ。」
「く、一斉にかかれ!!!たかが1人の武器もないガキに何ができるって言うんだ!!!!」
野盗は一斉に飛び掛かるが、
俺は振りかぶった拳一発で、野盗を吹っ飛ばした。
恐れを為した残りの者たちは、
次々と逃げ出していく。
「そ、そんな馬鹿な!?」
ジリと、オークションの主は後ずさる。
そんなオークションの主に対して俺は言った。
「さぁ、どうすんだ。今すぐ、お前が連れてきた罪もない人々を残らず解放するか、それともここでもっと痛い目みて、被害を被るか。どっちだ?」
「お、お前、な、何者だ!?」
「さぁな。今はそんなことどうでもいい。でもな、村を燃やして、罪もない老人や子ども、女の人を怖い目に合わせたお前の罪は重いぜ。」
「くっ!?」
オークションの主は後ろに振り返り、素早く逃げようとする。
しかし、ザッ、と気づけばヤテンさんが、回り込んでいた。ヤテンさんは、キッと、オークションの主を睨みつける。
「焼けた村や、みんなが負った心の傷は2度と元に戻らない。しっかりと、罪を償ってもらうぞ。」
そいつは、なおも、背を向けて別の方向に逃げ出そうとする。それを追おうとしたその時だった。
オークションの主は不意に、立ち止まり、諦めたように、ハァ、と息を吐く。そして、再びこちらに向き直り、その頭を地面につけて言った。
「私は、死んでもいい。だが、どうか、どうか今生のお願いだ。魔物に囚われた、娘を助けてほしい。」
「?それはどう言うことだ。」
オークションの主は、覚悟を持った面持ちで俺たちに、強く、口を結んだ。そして、しばらく俯いた後俺たちに言う。
「今回の献上金が間に合わない以上、生贄が必要だ。それには私が向かう。だが、どうか救ってやって欲しい。娘は、ただ、平穏に暮らしていただけのいい娘なんだ。」
俺はゴクリッ、と息を呑む。その目は、その言葉は、本当に覚悟を持ったものだと、分かったからだ。
ヤテンさんは言った。
「話を聞こう。」
オークションの主は頭を下げる。
「すまない。」
オークションの主は語り出す。
俺の村は、燃やされた。
嫁は殺され、村の仲の良かった、親友、両親、
そして、全ての人々が無惨に目も当てられない姿で、殺されたんだ。
だが、たったひとり、娘は、生きていた。
帰ってきた俺は
その惨状を目にし、必死に抵抗した。
だが、何もできなかった。
連れられていく娘だけは、どうかと、
俺はどうなっても良い。娘だけは、と。
その言葉も、何も聞き入れられなかった。
何度も殴られ、何度も蹴られ、
目も見えなくなった頃に、
やっと娘に触れられたと、思ったその瞬間、
その腕は、どこかに飛んでいた。
「飛んでいったって………」
俺は、ゴクリと息を呑む。
「ほら、このザマだ。」
服を捲り上げたその腕には、木製のまるで造られた人形のような腕が取り付けられていた。
「街の製造所にたのんで、繕ってもらったんだ。そのおかげで、いまは不自由なく動けているが、今でも、ずっと傷が痛むよ。」
「そんなことが……」
俺は、少しだけ申し訳ないような気持ちになった。
「……だが、だからと言って、お前が味わったような恐怖を、痛みを、私の仲間に、同じように味あわせていいはずもない。」
ヤテンさんは口をきつく結んで言った。
「あぁ、当然だ。罪は償う。」
歓楽街を抜けた道中、3メートルくらいの幅、断崖絶壁の山道を、私たちは歩いていた。
『ヤテン、人を助けるんだ。』
昔の師匠の言葉が、ふと甦る。
人のいい、師匠だった。
人のために怒り、人のために犠牲になる。
なんとなく似ている、素空に。
ふと、隣から声が聞こえる。
「大丈夫ですか、ヤテンさん。」
考え事をして、フラフラと歩いている私を心配してくれたようだ。
「あぁ、大丈夫だ。」
私は、フッと笑う。
素空は、不思議そうな顔をした。
馬を連れているため、この狭い崖ではなかなか早く移動する事はできない。
しばらく時間をかけて、頂上に辿り着いた。
そして、
「ここになります。」
小さな洞窟の入り口だ。
「ここに?」
私は、訝しんだ。
あれだけの野盗を連れていた、オークションの主が、この小さな洞窟に住まうほどの魔物を恐れているのか?
オークションの主は言う。
「穴は小さいですが、中は大洞窟に繋がっています。そこを根城とし、人間を襲い、攫って、生計を立てているようです。」
「そうか。」
続けて彼は悔しそうに、拳を握り締め言った。
「何度か、娘を取り返そうと魔物の後を付けて、侵入を試みました。しかし、人の力では、とても敵いません。」
唇を強く、噛み締める。血が滲んでいた。
ヤテンさんは目を閉じ、少し思案した様子で、
しばらくすると覚悟を決めたように、目を開けた。
「ともかく、入ってみよう。案内は頼めるか?」
ヤテンさんはオークションの主に問いかける。
オークション主は、頷きながら言った。
「はい。」
「では、行こうか。」
暗い中に灯りが灯る。
魔物たちは、ほくそ笑む。
「侵入者が見えます。頭領。」
「ふむ、奴めまた性懲りも無く仲間を連れてきたか。」
その魔物は立ち上がり、言った。
「金の為に生かしておいてやっているが、もういいだろう。やれ。」
マントを羽織った大きな魔物は、そう言った。
「はい、頭領。お任せを。」
その頭領と呼ばれた魔物の隣にいる娘は、虚な目で真っ直ぐに前を見つめている。
「フハハッ、今からお前の父は、見るも無惨に、殺されるぞ。」
ハハハハッと、そう魔物たちの声が響く。
虚な目の少女は、その頬からゆっくりと涙を溢していた。
「血祭りだ。盛大に、もてなしてやろう。」