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バーチャル無双  作者: りょう
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出発



「そっちにいったぞ!」


「はい!」


イノシシ……とは言っても、3つ目で2本の角が生えているけれど。


そいつを俺たちは追っていた。


女性は馬に乗って駆けて、先回りする。


「素空!!」


「よし!ここだ!!」



俺は目の前に気を取られて静止したイノシシ向かって、手槍を突き立てた。


イノシシが、断末魔のような声をあげる。


「ご、ごめんな。」


俺は、心が痛んで、少し手の力が緩む。


しかし、その瞬間、イノシシは振り返り俺に突進してきた。


「あ、危ない!!」


俺は、イノシシに突進され、3メートルほど吹っ飛ぶ。


「い、いてて。」


「大丈夫か!?」


気づけば、ヤテンは目の前に馬から降りて駆けつけてくれていた。


イノシシはヤテンが放ったであろう矢に射られ、動かなくなっていた。


「ご、ごめんなさい。」


「よかった。大きな怪我はないみたいだな。」


土埃のついた俺の体を、ポンポンと叩いて払ってくれる。


「よし、しばらく休憩してから、洞窟に向かおう。」


「は、はい。」












「元の世界に、戻る方法を探さなければな。」


「ありがとうございます。ヤテンさん。」


帰り際、イノシシのからだを担ぎながら、俺は彼女と話す。彼女の名前は、ヤテンさんと言った。最初は都に住んでいたのだが、その後転々とし、いまは1人なのだと言う。


「仲間になってくれなどと、いきなりすまなかったな。私も、久しぶりに人と会い、会話を交わしたもので、少し感傷的になっていたのかもしれん。」


「いえいえ!気にしないでください。」


盗賊を追い払った後、俺は事情をもう一度説明し、現実世界、元の世界に帰れるように、眠りについた。だが、残念ながら目覚めても、元の世界には戻れなかった。


「ここからだいぶ距離は遠いが、私の知る、最も聡明な長老のところに向かおう。彼なら何か知っているかもしれない。」


「い、いいんですか!?」


「あぁ、私もちょうど一度顔を出してみてもいいか、と考えていたんだ。すこし用意をするから、待っていてくれ。」













ヒヒン、と馬がいななき足を上げる。


「おう、どうどう。大丈夫だ。」


ヤテンさんは馬を宥める。


猪の肉を洞窟で食べた後、俺たちは身支度をして、馬に跨り、さっそく出発した。


「ど、どうしたんですか?」


突然、いなないた馬に俺は不思議に思う。


「むっ、なるほどな。」


「なるほどって……?」


「スライムだ。水溜りに見せかけたスライム。」


「えっ!?」


よく見ると、水溜りだと思われたそれはうねうねと動いていて、そして次第に姿を変えている。


「危ない。足を取られるところだったな。

よく気付いたぞ。」


ヤテンさんは、馬から軽やかに降りると、気づけば、巨大な塊となった、スライムに向かって手を翳した。


「うむ。『アデル』」


ヤテンさんがそう唱えると、目の前のスライムは暗闇に包まれて、消滅した。


「よし、いこうか。」


「は、はい。」


これが魔法っていうやつか……。

見てみると、幻想的で綺麗なものだった。


しかし、俺はそんなヤテンさんを見て、少し気になったことを言ってみた。


「あ、あの、ヤテンさん。こんな魔法があったら、あんな盗賊簡単に追い払えたんじゃ……。」


「……いいや、私は人に危害を加えることを、自らの呪いで封じていてな。人に手は出せないのだ。」


「あぁ、そ、そうなんですね。」






日が沈みそうになったころ、山の向こうから煙が上がっているのが見えた。


「この山の向こうが村だ。夜になるまでにもう時間がない。魔物と出会したら面倒だ。急ごう。」


「は、はい!」


山の間を抜けて、村に近づくと、思ったよりも煙の勢いが強いことに気がついた。ヤテンは、唇を噛み、手綱を強く握る。


「これは、急いだ方がいいかもしれん。」











村は焼かれていた。


誰もいない。


「……ヤテンさん。」


「うん、大丈夫だ。遺体は見つかっていない。優秀な魔術を扱えるエルフの村だ。付け狙われ、連れ去られたのだろう。」


ヤテンさんの声は震えている。俺に向き直り、話す。


「危険な道になると思うが、付いてきてくれるか?」


「は、はい!もちろんです!」


「………悪いな。」







ヤテンさんと俺は、馬に跨り、夜の山間をかける。


「村長が、魔法の足跡を残してくれている。これを辿れば間違いなく辿り着くはず。」


途中魔物に何度か出会したが、ヤテンさんは馬に速く走るように促し、颯爽と駆け抜けた。


夜も明けようかという頃、大きな灯りが見えた。

次第にそれは大きくなり、人の声もガヤガヤと聞こえ始める。こんな時間だというのに未だに活気付いている、歓楽街だった。


「こ、ここは?」


「ふむ。ここか。」


ヤテンさんは、少し辺りを見渡して、目星をつけたように1人の男性に声をかける。


「すまない。ここの辺りで、エルフの集団を見かけなかったか?」


「エルフ?エルフねぇ……あぁ、そういえばちょっと前に大きな馬車が来たけれど、あそこにはたくさんのエルフが乗せられていたな。」


「ふむ。ありがとう。助かった。」


ヤテンさんは、額に汗を浮かべ、足速に向かう。


「まだ間に合う。急ごう。」


「は、はい!」


灯りが段々と俺たちを飲み込み、次第に耳を塞ぎたくなるくらい賑やかな歓楽街の中央市場にたどり着いた。


「きゃあっ!!!」


女性の悲鳴が聞こえる。


「こちら、12ビラーから!!!」


わぁー、と歓声が上がる。


「15!!」


「18!!」


「21だ!!!」


次々と訳の分からない数字が、挙げられていく。


「40。」


その数字が出た途端、少し静まり返る。


「40出ました。他にいらっしゃいませんか?」


「100。」


急に真横から声が聞こえた。


「ひゃ、100でございますか?」


「あぁ、そして、今回出されたエルフ一族全て私が、買い取ろう。総勢で……40名か。4000ビラーだ。」


「よ……しかし、お客様困ります。これから、オークションのショーは始まったばかりで、商品を一気に買い取っていただくというのは、ちょっと……」


「商品だと?」


ヤテンさんは見るからに、鬼の形相を浮かべて、オークションの主を睨みつける。


「その者たちは私の大切な友人だ。今すぐ、私に引き渡せ。」


「……あぁー、そういうことでございましたか。」


オークションの主は途端、目つきを変えて後ろに合図する。


すると、とても柄のいいとは言えない風貌の、武器を持った野盗が、後ろのカーテンの奥からゾロゾロと現れる。


「ちょうどよかった。お前ら、あいつをひっとらえろ。そいつの金銭を奪い、そいつ自体も商品にしてしまえばいい。」



観衆は、大きな声を上げた。


「上玉だぁーー!!」


「やったぜー!!こいつも商品になるのか!?」


ヤテンさんは、顔を顰め、憎しみの表情を向ける。


「下衆め!」


次々と現れる野盗の総勢はもはや、観衆の半分ほどの数となっていた。


ヤテンさんは、俺に言う。


「すまない。目論見が甘かった。私の責任だ。」


「……大丈夫です。」


俺は思ったんだ。あぁ、この世界に来た意味が少し分かってきた。それに、あの時に出た不思議な力、その意味も。


「お前らみたいなクズをぶっ飛ばすために、俺はこの世界に来たんだ。1人残らず、性根叩き直してやる。かかってきやがれ!!!!」
















































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