教会
「素空!大丈夫ー!?」
なかなか素空が起きてこない。
呼んでも返事がないというのは、初めてのことである。ホテルの一室、朝方寒空の下のベランダで、背伸びをしていた1日を迎えた私は、しばらくコーヒーを嗜み、優雅な時間を楽しんでいた。王都にいってから、一人ひとりにそれなりの金銭をいただくことができたので、ホテルの一室をそれぞれで借り、貴重な1人の時間を楽しんでいた。
そして、しばらく時間が経ち、そろそろ出発の準備をしようかという頃、隣の素空の部屋からとんでもない奇声が聞こえてきたのだった。驚くとも、助けを求めて叫ぶとか、そういうものではなく、何かやらかしてしまったような、そんな悲鳴であった。
「素空ー!開けてもいいー?」
「………開けてもいいっすよー。」
「ヤテンです。開けますねー。」
ガラッと扉を開けると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
「食べる?」
素空は声をカラカラにしながら、涙を流して私に助けを求めるように訴えかけてきた。
部屋いっぱいの……なにこれ?
「俺の好物のお好み焼きです。」
「あぁ、素空が大好きだって言ってた。」
「あの、ブレスレットの効能、多分消し飛んじゃいました。」
「…………あぁ。」
そういえば言っていた。
王様が、ブレスレットのことを話すと、意識して力が出なかったり、邪念になったりするかもしれないから、効果のことは本人には話さないようにしようと。
「あ、あはははっ!!!」
「えっ!?なんで笑うの!!?」
「そういうのでいいのよ。そのブレスレットは。」
「えっ?」
「いい思い出になるわ。さ、ルルにも呼んできて、教えてあげましょう。」
「えっ!?やだ、なんか恥ずかしい!!」
「あら?そう。じゃあ、1人で全部食べる?」
「いや!無理!お願いします!!!」
「よろしい。それじゃあ、みんなで1日かけてゆっくり食べましょう。」
「無理!もう食べれない!!!」
ルルが最初に根を上げた。
「む、無理だ!!俺も!!!」
俺も5皿でお腹いっぱいになった。
「美味しいわね。」
ヤテンさんは、その体のどこにそれが入るんだというくらい無尽蔵に、しかも上品に食べていた。
部屋から持ってきたフォークとナイフで切り分けながら、口に運ぶ作業をかれこれ4時間くらい続けている。
「よし!これで最後ね!ルルはもういい?」
「も、もう無理!!」
「素空は?」
「お、俺も。」
「じゃあ、最後の1枚いただきまーす!」
「ご馳走様でした。」
「あ、ありがとう。」
「ヤテンすごいね。いつも私と食べる量変わらなかったけど、我慢してたの?」
「?いいえ、私はいつも食べたいと思ったら大体お腹の中に入るから、その分だけ食べているわ。」
「ヤテンさん、すげぇ。」
「ヤテンすごいね。」
俺たち2人はギブアップで、部屋で寝転んだまましばらく動けなかった。
ヤテンさんは、外を優雅に眺めている。
「幸せねぇ。」
「俺は今めちゃくちゃしんどいぞ。」
「私も。」
「まぁ、1日はホテルでゆっくりしましょう。」
俺と、ルルは気づけば床で爆睡していた。
そんな2人に、ヤテンさんはそっと毛布をかけて、2人が起きるまでそっと見守るのだった。
「外に出れるかしら?」
「そうだな。それがいい。」
ドスのきいた声が扉の奥から聞こえる。
どうやら、魔物の刺客がおいでなさったようだ。
「私が相手をするから、2人には手を出さないで。」
「あぁ、いいだろう。元よりお前と戦いたく、ここへ来たのだ。」
「人が少ない場所にしましょう。」
「それがいい。」
この魔族は非常に冷静に、かつ好戦的に、
こういうタイプが一番厄介であることを、
私は知っている。
(ヤテンは人が魔族かで、グレー判定を受けているから、きっと魔族に対しては以前と変わらない裁定が下されるはず。つまり、魔族の力が以前に戻り、あなたもそのまま。戦いでいえば、フェアなものになると思うわ。)
それなら問題ない。
何故なら、私は戦いが大好きだから。
「久しぶりに心が踊るわ。」
「おや、奇遇だな。俺もだ。」
私は杖を構え、相手は刀の鞘に手を添える。
抜刀、瞬間目の前に手があらわれる。
あぁ、この光景。
ついこないだ見たわ。
「おっそ。」
私は体を屈めて、かわし、魔物の顎を蹴り上げた。
「ぐはっ!?」
魔物の体が宙に舞う。
「光、そして闇。」
『アデル』
閃光と共にその隙間から闇が溢れ出し、
綺麗な結晶となって、空に舞った。
「聖女として、あなたが天国に行けるように祈っておいてあげるわ。」
「さようなら。次は善き人として、生まれ変わるのよ。」




