王都へ
限りなく晴れた空の下で、
俺たちは宿屋の店主さんにお礼を言って、
王都に向けて出発した。
「いいお天気ね。」
「いい天気。」
「いい天気だなぁ。」
ポカポカ日和である。
俺は、ふと疑問に思ったので聞いた。
「そういえば、王都まで距離はあとどれくらいあるんですか?」
「うーん、あと40キロくらいだろうね。」
「原始魔法でひとっ飛びできるけど、どうする?」
「「へっ?」」
俺たちは、素っ頓狂な声をあげた。
「わたしの原始魔法を使えば、一人だけなら飛ばせるけど。」
「俺は……いいかな。普通に歩けるし。」
「それなら、私が先に行って、とりあえず話をつけてくるわよ。っていうか、そんな便利な魔法があるなら、先に言いなさい。」
「ごめんなさい。」
ルルはぺこりとあやまった。
ルルは目を瞑って、呪文を唱えている。
「あっ、転移魔法じゃないから、空への旅になるけど大丈夫?」
「いや、ちょっと待って聞いてないわ。やっぱり、やめてもいい?」
「そうだぜ。やっぱり冒険とか旅っていうのは、自分の足で歩くからいいもんなんだ。確かにできるだけ早く話をつけたほうがいいのは、分かるけど。」
「まぁ、どんな感じかは一応素空に体験してもらって、見てみよう。」
「ちょっと待って、それ人に使ったことあるよね?」
「伝え聞いてるだけで、一度もないよ。」
「ちょ、まっ………わぁーーー!!!!!!」
「素空ーー!!!!!」
ヤテンさんは、俺を見上げて叫び声を上げている。
………頭から突っ込んで落ちることも覚悟したが、そんなことはなく普通に上にあがって、10メートルほど先にゆっくりと着地できた。
「冗談よ。自分で何度も試したことがあるわ。」
ルルは子どものようにけらけらと笑う。
「ま、マジで怖かったぁー。」
「ルル……あんたを馬鹿にできなくなったわ。」
「そうだよ。私をバカにしたら、急にこの魔法を唱えて、びっくりさせちゃうかも。」
ニシシッと、ルルは笑う。
そんなルルを見て、俺とヤテンさんは微笑ましく思った。
「それはそうと、素空にはちゃんと謝りなさい。」
「はい。大変申し訳ありませんでした。」
「いいよ!ゆるす!」
おれは許した。
そんなこんなで早足で歩きながら、日が暮れる頃には、王都に着いた。
門の前に兵士が待ち構えていた。
兵士の1人が、俺たちに向かって話す。
「ここは王都ランデイル。お前たちは何者だ。」
「私の名前は、ヤテン。旧王都に仕えた、聖女である。どうか門を開けてほしい。」
「聖女様?……少々お待ち下さい。ご確認いたします。」
そう言って、門番の1人が門の横の鉄扉の鍵を開けて、中に入っていく。
「あ、ヤ、ヤテンさん、聖女様だったんですか?」
「だったどころか、なかなかに有名な聖女様だぞ。」
「ま、まぁね!」
ヤテンさんは、照れ臭そうにしている。
「よくぞお越しくださいました。ヤテン様。王様がお呼びです。どうぞこちらへ。」
兵士に連れられて俺たちは、お城に向かう。
映画で見るようなヨーロッパ風の街並みにおれは少し気圧されつつ、そわつきを隠せなかった。
「お、俺海外とか旅行に行ったことないんだよな。こういう感じのとこ来るの初めてだ。」
「お、なんだこういう街並みは物珍しいか?」
ヤテンさんは、やんわりと笑う。
「あたしも、なかなかこういう場所は来ないから新鮮だな。」
ルルも新鮮そうに辺りを見渡して、楽しそうにしている。
俺はついつい前から気になっていたことをひっそりとコショコショ話で聞いてみた。
「あのー、ルルってさ。色々作ったじゃん?そのー、いろいろ。」
「あぁー、私は別に土台とシステムを作っただけで、何も関与していないよ。みんなが生きて、ふつうに生活して、発展して、そこは外の世界と何も変わらないよ?私は、特に何もしていないんだ。」
「あ、なるほど!そういう感じなんだな。」
そんなこんなで話をしている間に、
堅牢で荘厳なお城に辿り着いた。
高層ビルくらいの高さはあるだろうか?
向かってる途中から思ってたけど、やっぱりでかすぎないか?びっくりするんだけど。
お城の城門が開く。
豪華なシャンデリアと、左右に構えられた巨大な階段、敷かれた赤いシルクのカーペット。
煌びやかな宮殿といった感じで、本当に信じられないくらい綺麗でしばらく見とれていた。
「階段をお上がりください。」
階段の横の壁には、歴代の王の写真が並べられているようで、マジマジと見てしまった。
「あてっ!?」
俺は階段を見ていなかったので、すっ転ぶ。
「わっ!大丈夫か、素空!」
「だ、大丈夫?」
2人が手を差し出してくれる。
「ごめん!」
俺は2人の手を取って、立ち上がる。
「足元をちゃんと見ておけ。」
「階段でもうっかり頭を打ってなんてこと、あるんだから絶対にちゃんと歩かなきゃダメだよ!」
「わ、わるいわるい。」
俺は反省して、また歩き出したが、
ふと階段の横の手すりの下から、覗き込む視線に、
違和感を感じた。
「…………」
ルルがぎゅっと、手を握り、目で合図する。
どうやら魔物が忍び込んでるようだった。
ヤテンさんも、気づいている。
「やぁ、やぁ、よくぞお越しくださいました。ヤテン殿。」
「いえいえ、迎え入れてくださって光栄です。国王様。」
「此度は、何用でこられたのかな?」
「それが………」
ヤテンさんは一通りの事情を話す。
「なるほど!オッケー!任せなさい。国民と周辺の国々に、早急に話を通しておこう。」
「ありがとうございます。」
(えらく物分かりのいい国王様だな。)
俺はそう思いながら、国王の方を見る。
国王はニコニコとして、俺のほうを見る。
「ヤテン殿のお顔が元気だ。それも、きっと其方のおかげであろう。」
「えっ、いや、お、俺ですか?」
「あぁ、勇者殿。勇者たる素質があることなど、ヤテン殿の顔を見れば分かる。彼女は、私が幼い頃の師匠だ。ほんの数年であったが、人として生きることとはなんたるかを教えられた。王であるまえに、人であれ、と。」
「ヤテンさんが………そうですか。」
ヤテンさんは、この人にとって大切な人なんだな。
「王様。勇者の任、是非お任せ下さい。必ずヤテンさんを、この国を、世界を救ってみせます。俺は、必ずみんなを幸せにする。」
「うむ。任せたぞ。」
王様は朗らかに笑った。
そうか、この王様がいるから、だからこの国には活気が溢れ、街行く人みんな笑顔に溢れていたんだな。
「間に合ってよかった。」
俺は王に振り下ろされたナイフを受け止める。
「ほう、気づいていたか。」
兵士、家臣たちはざわつき直ちに男に襲いかかる。
男はその場から立ち退き、気づけばその姿を消す。
ヤテンさんは言う。
「直ちに王を取り囲め!!!!一分の隙も許すな!!!!」
兵士たちは命令のまま王を取り囲み、盾を掲げ、辺りの様子を伺う。
「最近は平和だったからな。このような緊急事態、若者には慣れていないだろう。指揮系統は私が取る。もっと体を寄せ、盾を掲げろ。一部の隙も許すな!!!!」
兵士たちが、ぎゅっと体を寄せ、覚悟の表情をする。そうだ、兵士たちはその身を捨ててでも、王を守らなければならない。だが、俺がそんなことはさせない。
「まさかこの場で奇襲を仕掛けてくるとは、なかなか大胆だな。何か策があると見るべきか。」
ルルは、冷静に分析しつつも、その顔は余談を許さない表情だ。
「ふむ。100年ぶりに杖を振るう時が来たとはな。手荒になるがすまない。」
ヤテンさんは、呪文を唱えると、ゴゴゴという音とともに地面から恐らく……遥か下の地上から生えてきたであろう樹木が形を取り、杖となった。
「城は後で直す。」
ヤテンさん杖を前に掲げると、辺りに光が照らされ、魔物の苦しむ声が聞こえた。
「素空!!そこだ!!!」
「おう!!!」
俺は声のする場所に向かって、拳を振りかざす。
「ぐばぁっ!!?」
見えない魔物は吹っ飛び、巨大な柱が抉れる。
すると、魔物は姿を現した。
「き、貴様は!?」
ヤテンさんは驚いた声を上げる。
「ぐっ、この私がたった一発で、う、動けないだと!?四天王の1人であるこの私が!!!!」
ルルが言う。
「こいつは四天王の1人、マルギスだよ。まさか、早速こいつがやってくるとはね。」
兵士たちが魔物を拘束しようと、動き出す。
「待て!!!手を出すな!!!こいつはそこらの魔物とはレベルが違う!!!」
「しめた!!!」
マルギスは目を光らせ、近づいた兵士たちはガクッと、肩を落とす。
「クククッ、こいつらの命が惜しくば、この場は見逃せ。王には手を出さん。」
「くっ!?そう来たか!?」
ヤテンさんは言う。
「私たちに敵わないと見るや、即座に身を翻す。狡猾で、その上に強い。だから、厄介なんだよ。」
ルルは、冷や汗を浮かべる。
王は言う。
「直ちにこの場から去れ。誰にも手を出すな。」
「ふむ。よく分かっているじゃないか。では。」
マルギスはガラスを突き破り、宙に消える。
「まだだ!!!魔物の言葉を信用するな!!!警戒を緩めるな!!!!!」
ヤテンさんは激しく声を上げる。
兵士たちに再び緊張が走る。
体を操られていた兵士たちは、体から力が抜けたようにガクッと身を落とした。
「……ヤテン、もう大丈夫だよ。王国内にもう魔物の気配は感じない。どうやら、手早く逃げたようだ。」
「ふぅ………そうか。」
ヤテンさんは額から流れた汗を拭う。
「どうやら素空の一撃がよっぽどこたえたようだね。」
ルルは、顎に手を当てて考える表情をする。
「私たちの狙いが聞かれたね。とすると、魔物はきっと属国とひっそりと手を組み、国と私たちを襲いにくるはず。警戒を高めないといけないね。」
「なるほど、それでは早くに同盟を組もう。」
王はその場ですぐさま使節を送り、私たちに向き直って言った。
「命を救われた。其方たちには感謝する。」
「いいえ、当然のことをしたまでです。」
ヤテンさんは、手を前にやり頭を下げる。
「まぁ、とりあえずお城直そっか。」
王様は、明るく言った。
王様の一言で、場は少し和み、みんなに活気が溢れた。
「勇者殿、これを。」
「これは?」
ブレスレット?
「代々伝わる家宝です。どうか旅の役に立ててください。」
「王様……ありがたく、頂戴いたします。」
「ヤテン殿………お城、やり過ぎです。」
王様は遥か下、地下から生えた木樹に、汗を垂らして、笑顔ながらも、口がヒクヒクと震えていた。
しばらくして、お城でのディナーの時間がやってきた。
豪華絢爛な食事が並ぶ。
それはもう、映画でしか見たことのないような超長テーブルにこれでもかと言うご馳走が並べられ、俺たちはお腹いっぱいまで食べた。とてもおいしかった。
次の日、俺たちは王都を後にした。
出るときは、兵士たちや王様も総出で、見送ってくれた。また、遠征中の上級魔法使いたちが国に帰ってくるようで、とりあえずは安心だろうと、ヤテンさんは胸を撫で下ろしていた。




