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エージェント・チキンチック!!  作者: 織星伊吹
◆episode1.フライドチキンが死ねば、俺だってきっと死ぬだろう。
9/35

第8話

 先ほど席を外していたオウルが事務室に戻ってきた。死にかけのパイプ椅子、文句を言うなら今だぜ。とチキンは思う。


「さて、さっきボスからミッションが入った。かなり大きい案件だから、用心して聞くように。一回きりしか言わないからな」


 止めなければ永遠に言い合いを繰り広げるであろうチキンとチックの罵声に割って入るように咳き込んでから、告げる。おそらく新たなミッションのブリーフィングだろう。


 ボスからの連絡は基本的にチームリーダーであるオウルへ行くことが多い。


「おいおいちょっとまて、さて、じゃねえんだよ、まだなにも解決に至っちゃいないぜ! まだ俺は言い足りないんだ、もっと喋らせてくれ、頼むよベイビー」

「ベイビーって……そうは言ってもな、お前に喋らすと夜になっちまう」


 呆れたようにオウルが短く刈られた赤髪を掻き乱す。


「ったく、腰抜けどもめが。俺のマシンガントークを受けきれるヤツはここにはいないのか!?」


 チキンはわざとらしく声を上げて部屋を歩き回る。それに返事を返したのは……。


「えっ、余裕なんですけど。あなたの紙鉄砲なんて指先でえいっ、ですよ」

「あ? おいこら新人さんよ、やっぱりお前は頭がどうかしてるぜ」

「……クジャク」


 再び抗争を巻き起こそうとする二人を交互に見やりながら、やれやれとオウルが指を鳴らす。


 するとにこにこした表情のクジャクがチキンとチックの間に起立する。

 こうすることでお互いが静かになる術を既にオウルは見いだしているのかも知れない。


「はい、というわけで本題だ。今回のクライアントは連邦大統領。俺らが暮らしてるこの連邦国家のトップ様からの極秘ミッションだ」


 今のご時世、国同士の戦争というものは存在しない。世界は国となり、国は世界となった。


 では外交戦略や、外交政策が消滅した今、国家の元首が秘密結社に懇願することとは一体なにになるのか。


 水面下で静かに起きている内紛戦争や、悪徳政治をもみ消すこと。世界に仮初めの平和を知らしめるため、それにすべてをつぎ込んでいるとい見ていいだろう。


 しかし、それとは別に我らが地球は、現状の自然界の出鼻を挫くほどの大問題に直面している。


「どうやら超人類の強い反応が出たらしい」


 超人類――宇宙の果てからやってきたとされる、人間の次に変わる捕食者の頂点。性別もなければ姿形さえ存在しない、外的情報を持たない超生物である。


「今回の我々のミッションは、“エージェント養成学校”へ潜入し、超人類の身柄を捕らえることだ。超人類は現状、学校内の生徒に寄生しているものと思われる」

「エージェント養成学校……ですか」


 チックが思い詰めたようにぼやく。


「まだチックは卒業したての新人だから覚えてなくても無理はない。あの養成学校は一五歳になって、卒業すると同時に、対人関係の記憶を抹消される。だから学んだ技術や経験には身に覚えがあっても、そこで育んだ人間関係に関してはからきし覚えちゃいられないんだ。それはここにいるメンバーみんな一緒だよ」

「……そうですね、なんかそこで日々学んでいた気がしますけど、誰と一緒に居たのかとか、全然覚えてないです」

「まあ世界で暗躍するエージェントになるためには、デメリットになり得るものは根本から消すってのが、あそこの主義だ。情報ってのはこの世で最も価値のあるものだからな」


 一度咳き込んで、オウルは続ける。


「……で、だ。それに咥え、今回はもう一つ極秘ミッションってやつがある。ボーナスは弾むぞ、なんたって大統領様からの極秘ミッションだからな! ガーッハッハ」

「おいおい、笑ってないでさっさといいやがれってんだ」とチキンは急かす。

「どうやら最近不穏な動きを見せているらしい“超人類保護研究所”を諜報することだ」

「あ~、なるほど。あのマッドサイエンティストのイカレ野郎どもか。俺はどうも苦手だね」

「奴ら保管してるはずの超人類どもを使ってなにか企んでいるらしい」

「ああ、そんなこと超やりそうだぜ。ミートパイ指でほじくって爪に詰まったもんを鼻クソと混ぜて食ってそうな連中だ、かなり笑えるね」


 チキンはおどけたように手を上げた。


「……まあ鼻クソは置いておくとして、俺たち秘密結社と超人類研究所はお互いに協力関係にある。あまり目立ったことはできない。だからこその諜報ミッションだ。特にチキン、お前に言ってるんだぞ」

「へいへい、俺たちエージェントは最強だ。隅っこで慎ましやかにやるのが似合ってる」


 世界で繰り広げられる静戦に適応すべくして人工的に生まれたエージェントは、特殊な薬剤によって覚醒した強化人間である。


 人間は、本来持っている身体能力の約一五パーセントしかコントロールすることができない。


 硬い壁に拳を思い切り叩きつけようとすると、どうしても萎縮してしまうのが人間だ。無意識に人間は自己に無自覚な抑制をかけてしまっているのだ。


 その枷を解除し、身体能力の一〇〇パーセントを引き出せる上に、人間が従来持つ能力の一部分を極限的に高めあげることに成功したのがエージェントである。


 始めはそれでよかった。しかしここ数十年で地球に超人類が出現し始めたことで、対抗能力を唯一持った存在であるエージェントをより強固に強化せざるを得なくなってしまったのだ。


「……超人類というのは、どれほどのものなんですか」


 チックがもどかしそうにオウルに質問を投げかける。


「おら、かわいい新人ちゃんが質問してるぞ、チキン先輩」

「……なんで俺が説明しなくちゃならない。冗談だろ?」

「お前なぁ……意地張ってねえで素直になろうぜ、ホントはかわいいいとか思ってんだろ。えらい美人だしな、チックは」

「ふざけるのも大概にしてほしいね、リーダーさんよ。俺がこんなイカレ女のケツを追うってか? 天変地異が起こってもまずないね。お断りだ」

「じゃあ俺がお前の心の声を代弁してやる……えぇー、おほん。『やあ、子猫ちゃん。僕は実は生粋のチェリーボーイ。君の瞳を素直に見つめることすらできない臆病者のチキン野郎なんだ。ちなみに包茎野郎でもあります、よろしくです』」


 オウルはチキンそっくりの声で嘘八百を並べる。チキンは真っ赤な顔でオウルの胸ぐらを掴んだ。


「……ミンチになりたいか、鳥の餌になりたいか選びな、三秒以内に望める姿になれるぜ」

「ガッハッハ、じゃ、ミンチで」オウルは高らかに笑いながら言う。

「へえ……チキン先輩ってイ●ポ野郎だったんですね」

「おい! 今なんて言った!? 回答次第じゃお前もミンチになるぞ、このアバズレ女!」

「ミンチよりもチーズバーガーにしてほしいですね、お願いします」


 結局チキンとチックがヒートアップしてしまうので、超人類についての説明をクジャクがすることになった。


「――人類を撲滅して地球を侵略しに来たとか、惑星そのものを破壊しにきたとか、説はいくつかあるけれど、本質的な奴らの目的っていうのは実はまだよくわかっていないんだ。ただこの数年で超人類は完全に人間社会に溶け込んでいるとみていいと思うよ。僕ら秘密結社の人間や、一部の上流階級の人間しかその存在を知らないってことさ」

「それは養成学校で学びました。人間の精神支配を行って身体の主導権を握り、自らの物とするんですよね」

「別に人間でなくてもいいのだけど、奴らは知的な媒体を好むからね、必然的に人間になる確率が高いという話だね」

「それで……人間を喰うんですね」

「…………そうだね」


 クジャクが少し気重に回答する。あまり気持ちのいい話ではない。

 超人類は、人間が座っている王者の椅子をを奪おうとしている。というのが一部上流階級の貴族たちと、秘密結社の回答だ。


 人間が今まで追従を許さなかった、捕食者の頂点。

 生態系ピラミッドの頂点は、今に人間から、どこからともなくやって来たとされる超人類へと移り変わろうとしているというのだ。


 自分たちを喰らう生物の存在など数千年は表れないと、トップで胡坐を掻き、今をのうのうと平和に生きている人類が地球の生態系についての危機感など考慮できるはずがない。王者は付近にいる者しか見ない。足下が小さくて見えないのだろう。


 その一瞬の油断が、果たして英知を持って生まれた人間のすることなのだろうか。


 寝首を掻くのを、今か今かと狙っている生物は、他にも居るかも知れないというのに。

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