第5話
セレブたちの優雅なひとときを、完膚なきまでにぶち壊す馬鹿騒ぎが終了して、チキンは一人路地裏に突っ立ち、空を仰ぎ見た。
《ボス、ミッション完了だ》
チキンの腕で確かな存在感を醸し出す腕時計、『クロノライトグラフ』が青白く光る。
チキンの対面には、ぽかんとした表情のアラスター・ブラックリー。
《ご苦労だったな。エージェント、チキン》
《ああ、いい加減こなれてきたところだぜ》
《ショックだったか? 憧れの大スターが『超人類』だったことが》
《んな訳あるか、俺はジョン・ハカードのファンだ。演じてるヤツ自身に興味はないぜ》
チキンはブラックリーを見下ろして、静かに指を立てる。
「いいか、お前はなにも知らなかった。そうだな? わかったら黙ってこいつを呑め」
懐から取りだしたカプセルを手渡す。一時的に欠落した記憶の修復を手助けしてくれる作用を持つ膠嚢だ。ブラックリーは首を縦に振って、ごくりと飲み込む。
超人類を人間の身体から吸引する際、超人類として生きてきたときの軌跡は失われる。
それは本人にとっては楽しく映画を見ていたのに、突然視界が暗転、再び目を開けたら突然自分が路地裏に立っていた。ということになる。その理由もわからないままに。
チキンは表情をつくってブラックリーに薄く笑いかけた。
「おイタはもうダメだぜ、大人しくお家に帰って愛しいママのおっぱいでもしゃぶってな」
「……おいチキン、急いでアジトに帰るぞ、まだ別のミッションがある」
オウルが路地裏の入り口付近から声をかけてくる。
「ああ、今行く」
「ブラックリーの様子は?」
「平気みたいだぜ、路地裏でクソするなんて、大スターのすべきことじゃないけどな」
チキンはけらけら笑いながら、オウルとブラックリーとともに路地裏を後にした。
――秘密結社とは、世界からのお悩み相談所であると同時に、害悪とされる超人類を捕らえるのが使命だ。そしてそれを成し遂げることができるのは、唯一の対向力を持った強化人間、地球のために暗躍するエージェントたちだけなのである。
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